12月29~31日の3日間にわたって開催されたコミックマーケット89(コミケ89)。そこで、今回も実施されたのが恒例となった、りんかい線・国際展示場駅前での山田太郎参議院議員の街頭演説だ。国会議員として「表現の自由」を訴え続けるばかりか、売り子としてサークル参加もしてきた山田太郎議員。今回は3日間とも、交代しながらも3時間を超える街頭演説を貫徹した。
これまで児童ポルノ法やTPPなどの問題にも取り組んできた山田太郎議員は、今回も最新の問題である出版物の軽減税率の問題にも言及。さらに、来年に予定されている参院選も見据えてか、選挙に絡む発言も目立った。とりわけ、山田議員が訴えたのは、選挙権を持つ若者たちに選挙に行ってもらいたいという思いである。筆者が取材した2日目の街頭演説で、山田議員は次のように語った。
「ほかの議員にもコミケ行こうと誘っているのですが“PTAが取り締まろうとしているから行けない”という。表現の自由を政策の前面に出すと、選挙に落ちます。今までもそうだった。表現の自由という問題をわかっている議員もいるが、PTAが怖いので、言及できないという現状があります。もし、表現の自由を守りたかったら、私に入れなくてもいいから選挙に行ってください」
山田議員が、これまでの国会議員にあり得ない熱心さで表現の自由の問題に取り組んできたのは、本人の思いもあるが、同時に状況がそうした面も大きい。2010年の参院選に、みんなの党の比例代表として出馬した山田議員は落選。しかし、12年に比例区の上位当選者が衆院選に鞍替え立候補し自動失職したために、繰り上げ当選となった。ところが、所属政党である、みんなの党は14年に解党。その後、新たに結成した日本を元気にする会は、国会議員6名でスタートしたが、現在は4名。地方議会は都道府県議会に1名、市区町村議会4名となっている。残念ながら、支持基盤が脆弱であることは否めない。
しかし、特定の支持組織などに気を遣う必要がないことが、表現の自由をめぐる問題では、幸運な方向に大きく作用した。山田議員は、なりふり構わず表現の自由を前面に押し出して活動することも可能になったのだ。
だが、支持基盤の弱さゆえに山田議員が次回の参院選でどういう結果になるかを危惧する声も絶えない。筆者の取材の中で「来年の参院選以降は国政で表現の自由の問題は、どう扱われるのか」と、早くも当選の可能性がないかのような話をする者もいる。そうした不安の声に山田議員本人も気づいているのだろう。今回の街頭演説は、今まで以上にフルスロットル。文字通りの言いたい放題であった。
「こういった問題をやっていると“ポルノ議員”と非難されます。でも、エロは人間の自然の営みじゃないですか。それを大人が若者に教えないといけない。何しろ、セックスレスの時代なんですから。エロだからグロだからダメといいますけどね、そのまま真似をするバカはいない。コミケをやってる年末年始やお盆に性犯罪が増えるんですか! ポルノを推奨しているんじゃない。おかしいと思うから取り組んでるんです。こういうのをダブーにしたらダメなんですよ」
演説する山田議員の前を何度も通り過ぎていったのは『緋弾のアリア』の宣伝トラック。そこに描かれたイラストと「風穴を~」というキャッチを見た山田議員は、すぐに演説のネタに取り込む。
「何に風穴を開けるんだかわかりませんけどねえ、今の日本は水着を描いても自由なんです。いい国だと思いませんか!」
赤ちょうちんで飲んだくれているオッサンのようなネタに、聴衆は拍手したのであった。
予定時間を15分もオーバーして演説を続けた山田議員は終了後に「参院選がヤバイと話が出ているのではないか」と問うた筆者に、次のように答えた。
「なるようにしかならないと思っています。役割が終わったのであれば去るが、まだやるべき仕事が残っていると思っています。おそらくオリンピックに向けて表現の自由の問題は次々と出てくるでしょう。少なくともオリンピックまでは議員をやりたいと思っています」
本人も苦しい戦いだと意識している2016年参院選。果たして、次回のコミケでも山田議員の街頭演説を見ることはできるのか?
(文=ルポライター/昼間 たかし http://t-hiruma.jp/)