旅人マリーシャの世界一周紀行:第83回 「怖いくらいに男前な“魔の山”マッターホルンに見惚れて遭難?」 | ニコニコニュース

旅人マリーシャの世界一周紀行:第83回 「怖いくらいに男前な“魔の山”マッターホルンに見惚れて遭難?」
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あけましておめでとうございます!

新年1発目はハイジの国・スイスからドドーンと名峰・マッターホルン(標高4478m)をお届けしたいと思います!

恐怖の物価の高さに通り過ぎるだけの旅人も多いこの国ですが、昨年の2015年はマッターホルン初登頂150周年にあたるというので、年の締めくくりに行ってきました。

スイスに入るなりATMで50フランを下ろしたが、そのお金の減りは早い。日本円にすると1フランはUSドルと同じくらいで約120円なのだけども、いかんせん物価が高すぎる…。

コインロッカー6フラン(720円)。スタバのラテはトールサイズが5.90フラン(約708円)。マックやバーガーキングのセットは大体10~16フラン(1200~1920円)と、ファストフードで2千円もする?! ううう、誰かお年玉をちょうだいっ!

また、いつも私が使っているような格安の移動方法も見つからず、鉄道も高い。チューリッヒからツェルマットに移動するだけで片道1万5千円はする。それならと、私は“スイス半額カード”120フラン+“1日乗り放題券”73フランのコンボ(合計約23160円)を使ってスイスを縦横無尽に移動することにした。(半額カードは1ヵ月使えて結果的にスイスの交通費は50フランほど節約できたかな。これはでかいぞ。)

そんな物価高な中、なぜかワインはボトルが2フランからあったりと、お酒には事欠かない。

マッターホルンの拠点となる街・ツェルマットは、夜遅くだというのにレストランは空いてるし観光客で賑(にぎ)わっている山岳リゾート。川の周りにはロッジ風の宿や土産屋が並び、どこか日本の温泉街っぽい。スイスの他の街に比べると、圧倒的に日本語表記も増えた。

宿泊した山小屋のようなドミトリー宿では、清潔感の無い毛布がベッドの上に1枚置かれてるだけ。私は、南京虫の悪夢(第73回参照)が甦(よみがえ)り、ほとんど眠れないまま日の出の朝8時に山へと出発することに…。

街から出て、すぐ目の前に広がる空を見上げると、夜には姿を隠していたマッターホルンがドドーン!と大迫力。天に突き刺すように尖(と)がり、えぐれるほどの傾斜を持つピラミッド型の山。

「か、かっこいい…!」

そういえば、私、骨格はスッキリしていて、輪郭が鋭い男前がタイプだったけど、まさに好み。ひと目惚れ。

「ああ、あの人(山)にアタックしたい」

しかし、身の程知らずとはこのこと。

このマッターホルン、その昔は「悪魔が棲む魔の山」と呼ばれ死亡者も多い。この夏も日本人2名の死亡者が発表された。もちろん、登山未経験者が登れるわけもなく、私は遠くから見つめるだけ。

せめてもう少し近づきたいと、登山鉄道に乗ってゴルナーグラート展望台まで一気に登り、3100m地点に辿(たど)り着く。思っていたよりもマッターホルンに近づいて大興奮! でも、それと同時にギリギリ手の届かない距離感がもどかしい。

山頂にはスキーやスノボの恰好でこの眺望を楽しむ人々。彼らのほうが自分より山と親し気な様子に少し嫉妬する。

360度見渡せる展望台からは、複数の峰からなる山群モンテローザ(4634m)も見えるので、私はしばらく他の山の雄姿にも見とれていた。

そして、この展望台から5分程度歩くと、逆さマッターホルンを映し出すリッフェル湖があるというので、私はそこにいた中国人カップルと一緒に湖を目指した。

わっせわっせ。登山用ではない普通のスニーカー。くるぶしソックスの間から雪が入り、足首が冷たい。もう20分以上雪道を歩いてるんだけど…標識の示す場所に湖はない。ないよ。

道の反対からやってきたストックを持ったベテランぽい女性登山者に尋ねると、

「残念だけど湖は雪に覆われているわ。地図をあげるからこの道を下りなさい。標識はないから絶対に足跡を外れないで歩いてね。絶対に

人の足跡が続いているんだから外すわけがないよ、ダイジョーブ。…と、サクサクその道を進んだ。

しかし、湖がなかったショックか、あまり寝てないせいか…気づくと先頭を切って歩いていた私の前には道がなくなっていた。あ、ヤバ…。

所々に足跡は見えるけど道とは言えない。右に行っても左に行っても、膝まで埋まる深さだ。中国人カップルに「どっちだ?」とどやされ、焦る。「地図だと、たぶんこっち!」と、膝上まで埋まる雪道を進む。

ズボズボと雪に足がはまってコケまくり。凍っていて滑るところもある。転んでは起きの繰り返しで腕はパンパンだし足は冷たい。寒さと不安からウルむ涙で視界はかすんでいた。

「このままマッターホルン(の見える山)で遭難するのかな」

ハイジに「マリーシャの意気地なし!」と罵(ののし)られそうなほど弱気になっていた私はもう立てなくなっていて、無理やりお尻で滑りながら山を降りた。すると…

「リフトが見える! あそこに駅があるぞ!」

希望が見えると、私は最後の力を振り絞りフラフラと立った! マリーシャが立った!

そして、なんとか鉄道の駅まで半泣きで崩れるように走ったのだーー。

マッターホルンに登ったわけでもないのにこの有り様。山に惚れたらヤケドするぜ。

私は身分違いの恋に打ちひしがれ、この街を去ろうとすると、目の前におじいさんが現れた。

「これを買わないか。電車の1日乗り放題券だ。家族が病院に行くことになってこの街を出れなくなったんだ」

なんだか嘘くさい理由に聞こえたけど、その価格30フラン(約3600円)と定価の半額以下。うぬぬ、かなりお得っ。

「教えて、おじいさん。このチケット、本物ですよねっ?」

結局、私はそのチケットを買い、無事得をしてまた新たな旅路へ向かうのだった。

山にはフラれてしまったけども、旅の神はついてるのかな? それに読者のみんなもついている! 今年もよろしくお願いします☆

【This week’s BLUE】

今年も素敵な青を探して世界を旅しまーす!

●旅人マリーシャ

平 川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98