山本一郎です。年始に株価は下がりましたが,体重は上がりました。
ところで,大型ソーシャルゲームとして知名度も高い,Cygames(サイゲームス)が開発・運営する「グランブルーファンタジー」(通称:グラブル)ですが,年始より盛大にやらかしたということで騒ぎが広がっております。グラブルでトラブルって感じですねHAHAHAHAHA。
冒頭から大爆笑ギャグを披露しておいてなんですが,Cygamesは過去にも問題を起こしております。それは2014年2月4日,スクウェア・エニックスと“共同開発”した「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」において,有償で回す高額ガチャのイラストとして貴重なレアコンテンツである「金地図」を意味する金色の巻物をたくさん箱に詰めて掲載し,あたかも「金地図」が高確率で出るように告知しました。当然そこまでモリモリ金地図が出るわけでもないので,騙されたと感じたユーザーがネットで蜂起,400件を超えると見られる消費生活センターへの通報が行われて騒然となりました。
救いだったのは,そこまでソーシャルゲームのコンテンツ事情に詳しい人が当時の消費者庁にいなかったことです。消費者庁は,すべての国民の消費生活を担当しているので仕方がないとも言えますが。消費者庁が事態を確認して何らかの対策を採る決定をするまでに,問題となった「金地図」(を意味する金色の巻物)の数量を減らした“問題ない”イラストにまず差し替えられました。そしてプラットフォーマーによる返金を経て,最終的にスクウェア・エニックスがゲーム内ポイントの形で全額返金したことで解決です。これによって図らずも,ソーシャルゲームでガチャの問題を扱うにあたってはユーザーがパルチザン化したときは返金を行えばだいたい大丈夫であるという業界内不文律が確立したといえましょう。
参考:スクウェア・エニックス,「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」内のシステム「まほうの地図ふくびき」を仕様変更のため停止
その後も,エイチームの「ユニゾンリーグ」,グリー「AKB48ステージファイター」,コロプラ「魔法使いと黒猫のウィズ」,バンダイナムコエンターテインメント「ガンダムコンクエスト」など,返金騒ぎと消費生活センターへの集中苦情が散発的に繰り返されました。また,メガヒットとなっているガンホー・オンライン・エンターテイメント「パズル&ドラゴンズ」やミクシィ「モンスターストライク」でも,表記ミスやチートの疑い,イベントバグなどの理由で返金騒動に発展しています。
返金の背景には,これらのガチャを含むデジタルデータの構造(個別のアイテムごとの出現確率や条件など)が開示されておらず,ユーザーからすると「これだけのお金をガチャにぶち込んだのに,いいアイテムがこれしか出なかった」という結果が,そのまま不満として跳ね返りやすいことがあります。そして,ガチャによる確率の操作などゲーム運営上の問題が大きいと見られると,アプリを提供しているプラットフォーム事業者であるGoogleやAppleがユーザーの返金要望に応じることになり,実際に返金をされたユーザーがその事実をネットで告知することによって,ハレーションが起きるかのように“返金祭り”が発生することになるわけです。
■問題は,見た目よりも遥かに複雑
ゲーム業界側もこの問題をただただ無視するのではなく,横のつながりで連絡会を設けたり,有志で勉強会を繰り返すなどして実例と対処のノウハウを蓄積しています。実際,上記のメーカーで“返金祭り”が起きるのは,それだけプレイヤーを多く抱え,成功したコンテンツであることは言うまでもありません。うまくいっているタイトルだからこそ,ちょっとしたヘマが大騒動になるとも言えます。そこでは,問題が起きた後の対処として,GMツールなどでユーザーの動きを確認し,一定の問題になったと視認された場合にはイベントやゲームを止めてその間に対処する一方,関係するすべてのユーザーに対して無償のデジタルコンテンツを配布することでユーザー離れを食い止めるという方法が一般的になっています。
では,今回のグランブルーファンタジーでは,何が問題とされているのでしょうか。
消費者庁によると,寄せられた苦情の概要はゲーム内での「ゆく年くる年レジェンドフェス」いうガチャサービスにおいて「対象期間内のみ『新規キャラ解放武器』の出現率がアップ」と表記しておきながら,指定された複数の有償キャラクターの間で出現率のアップ率が(有志によって調べられた範囲においては)大きく異なることから,消費者に過剰な期待感を抱かせて消費を喚起しようとしたという景品表示法の有利誤認,踏み込んで言えば広告の虚偽・誇大広告に近いと見られる事案です。
リンク:消費者庁:景品表示法における優良誤認(PDFが開きます)
そして今回の優良誤認事案については,もし調査どおりの結果なのであれば,景品表示法における優良誤認に鑑み「著しく誇大」だと思われます。広告宣伝には,通常ある程度含まれる誇張が許容される一方,社会的許容度を超える誇張・誇大は,「著しく」と判断されます。また景品表示法は,業者が故意に行ったかどうかは問われません。間違って表示してしまったとしても,著しく誇大広告だと見られれば本件事案に該当します。
しかし今回のグランブルーファンタジーでの問題をややこしくしているのは,元となるガチャで「当たり」となる「新規キャラ解放武器」の出現確率が分からないことです。当たりづらい貴重なアイテムが「出やすい」と表記して,あるいは「期間限定」として「一般消費者が誘引される」と言っても,「著しく優良であると示す」かどうかの判断は一概にはできません。外部から判断できないのは当然として,ユーザーが目当てとする通常の「頒布確率よりも高い」とするならば,通常の頒布確率が公表され,それが一定の期間据え置きでサービスが実施されていなければなりません。
リンク:消費者庁:おとり広告に関する表示
したがって,この手の消費者被害の可能性のある事案については,物事の客観的な基準としてどのくらい誇大広告の可能性があるかだけでなく,消費生活センターなどに寄せられた苦情,相談の絶対数も加味されると見られます。継続的に問題が起き,当該事業者がサービスを継続し,さらに被害を受けたと感じている消費者にどのような返金や代替品の発給が行われているのかなどの有無を見ながら,消費者庁として是正を求めるかどうかを総体的に判断することになります。
リンク:消費者庁:表示対策 -消費者が適正に商品・サービスを選択できる環境を守ります-
ただ,これは消費者行政としてみた場合――すなわち,アプリの中でのガチャ画面やイラスト,説明テキストを見て,ユーザーが著しく優良だと誤認するような,一般消費者が誘引される虚偽または誇大広告だ,あるいはおとり広告に該当するぞと単品で見た場合――のことです。なので,誇大広告とされる文言やサービスが停止され,取り下げられ,被害に遭ったことを申し出たユーザーに返金などの補償が行われれば,消費者に対する被害は軽減されたということで,消費者行政上は解決したものとされます。
思い返していただきたいのは,コンプガチャ規制の経緯です。2012年にソーシャルゲーム業界全体を覆ったコンプガチャ問題で,まだ騒がれる前に私自身も4Gamerで見解を書き,消費者庁長官記者会見がその後に行われた際に読売新聞から質問が出て,そのまま景表法ガイドラインにコンプガチャ規制となりました。このときも,消費者庁と警察庁でデジタルデータの流通を巡って「絵合わせか,詐欺か,賭博か」でそれなりに議論となったように記憶していますが,今回の案件も,ほぼ同じような経路を踏んでいると言えましょう。
参考:【山本一郎】ソーシャルゲーム業界の「ガチャ」商法,規制強化情報乱舞の怪。いま,おまえのソーシャルの危険が危ない
余談ですが,昨今のソーシャルゲームはいとも簡単にサービスを終了させてしまいます。しかしながら,ユーザーの中にはゲームを遊ぶためにお金を払っている人(いわゆる“課金ユーザー”)も多く,この払ったお金は,サービスの終了と共に無価値になってしまいます。そうなると,ユーザーの与り知らないところで,ゲーム会社の懐事情だけでゲームが閉じられることになり,これこそが本来の消費者被害であり,消費者を守るためにも資金決済法上の供託金をしっかりと積み,一定期間のサービスが行われたあとに閉鎖される場合は,本来は割引率を決めて消費者に還付しなければならない性質のものです。
また,PCのオンラインゲーム業界では太古の昔から議論されてきたことですが,そもそもゲームに課金して得られるカード類やキャラクターは,所有権の売却なのか,ゲーム内でのコンテンツ貸与なのかという永遠の問題があります。前者であれば,ユーザーは所有権を持っているわけですから,ゲーム運営会社がどのような利用規約で拘束しようともユーザーは認められた私有財産を自由に売却する権利があります。また,後者ならば利用期間を明記しその間はユーザーに対して減価されることなく利用させなければ,消費者契約上の瑕疵になる危険性もあります。どちらにせよ,ゲーム内で使われるアイテムやキャラクター,衣装などを1つ1つユーザーに課金で提供する場合は,その権利がどこに帰属するかを法的に明確にした上で,その価値がみだりに下がったり,ユーザー固有の権利を阻害したりしてはいけない,ということになります。
つまり,ガチャの確率で希少キャラが出たり,高いお金を払って強いキャラクターや武器を手にしたとき,ゲーム運営業者側の勝手な都合でインフレしたキャラや武器が出て,せっかくお金を出して買った,あるいは貸与されたデータが減価/劣化することは,消費者を保護する目的からすると,本来は絶対に許されないことだとも言えます。
■有効な手を何も打たない(ことも多い)ゲーム業界団体
さて本題に戻ると,この一連の問題の解決にはどのようなアプローチがあるのかというと,平たい話が表示の適正化と出現するアイテムの確率表示,あとあまり指摘されないけど,ゲーム内で発行されている希少アイテムなどの総量表示をゲーム会社がすれば済む話であります。
先日夭逝されたJASGAというソーシャルゲーム業界の業界団体がありまして,これがCESAに吸収されたわけなんですけれども,一般的にはこの手の消費者問題についてはいきなり法的アプローチを取ったり(消費者訴訟とか),刑法上の詐欺にあたるかどうかを検討する前に,普通は業界団体が自主規制をするためのガイドラインを作り,消費者問題を起こさないように適法化努力を払います。
参考:CESAとソーシャルゲーム協会が2015年4月1日に合併
ゲーム業界では,主に表現系で年齢制限をするCEROや,一般的な広告規制のガイドラインを策定しているJARO(日本広告審査機構)など,機能的でパワフルな組織があります。表現規制や制限については,次に何か記事を書くときに触れたいと思いますが,非常によく機能しているのでそこのところで問題が起きているという認識はそれほどありません。
一方,ソーシャルゲーム業界での消費者保護については,JASGAを吸収したCESAでは「ほとんど何もしていない」と言ってよいほど対策が打たれておらず,組織内で議論されているという話も聞きません。もっと業界団体として頑張って欲しい分野です。本来であれば,このように頻発するソーシャルゲーム内での虚偽・誇大広告による景表法違反事案や,場合によっては詐欺・賭博事案になりかねない事案については,そうならないように業界が一丸となって会員各社に守らせるガイドラインを作ることになります。
この方面から聞かれる話は,音頭を取るような事業者がいないということです。すでに述べたように,業界トップのガンホーもミクシィもコロプラも,返金話でそこそこ焼き討ちを食らってるわけですから,率先してガイドライン作ったり自主基準を発表したり確率公表を行ったりするのが筋なのですが,どうしてやらないんでしょうね。たぶん「詫び石」でいままでどうにかなってきたからでしょうが。
で,適切なガイドラインを作って皆で守って消費者被害を減らそうという話が業界団体から一向に出てこないので,先にAppleやGoogleがユーザーからの申し立てに対して自社内基準を作って,プラットフォーム事業者として率先して返金に応じるという不思議な事態に陥っています。
■ゲーム業界と公正取引委員会
この問題を語るとき,第三の機関が出現します。公正取引委員会です。我が国で現在,証券取引等監視委員会と並んでもっとも頑張ってほしい組織の1つですが,問題もあります。日本でアプリビジネスをするといってもAppleとGoogleの持つ権益が強すぎて,彼らの方針や考え方1つでアプリビジネスから追い出されたり不利になったり独占的な地位を占められてしまいます。こんな状況なのに,我が国のアプリ事業者には抗弁のしようがないのです。
これは,業界団体が機能していないので,まともに陳情もされていなければ,国会議員にロビーもされていないというクールジャパンの割に極寒ジャパンな感じのお寒い現実があるわけであります。日本のアプリシーンは,これらの業界団体や当局の機能不全が現実にあることで,ユーザーの消費者としての権利がまったく守られないばかりか,AppleやGoogleのプラットフォーム事業者としての倫理観や善意でしかハンドリングされていないのが問題ではないかと思います。AppleやGoogleが優越的地位を有し,これを濫用している可能性がある以上,GREEとDeNAの小競り合いには参加してきた公取が今こそ槍持って突入することが求められるわけです。しかしながら,それもこれも業界団体がしっかりしてくれないと駄目で,消費者団体も「グラブル? グレープフルーツですか?」みたいな感度ではいかんだろうということですね。
何しろ,景品表示法で騒いだとしても,それはあくまで行政法なので,海外事業者に罰則規定を届かせることができません。ここで例えば「ソーシャルゲーム規制法」みたいなものができても,サーバーを海外に立てる業者が出てしまえば終わりですし,国内業者だけが規制に縛られて,海外の事業者が野放しでは日本国内の法人だけが苦しい思いをして終わりになってしまうのです。産業政策上も,単なる規制強化では意味がありません。この手の話をすると,日弁連方面の方が「新法で規制しよう」と仰るんですが,やはり全体を見渡して,インターネット時代にふさわしい方法を模索してまいりたいと思う次第であります。
込み入った専門的な事情はたくさんあるのですが,言い始めるとキリがないのでこの辺で。待て,次回。
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