なぜ宗教を学ぶと世界経済が分かるのか | ニコニコニュース

『経済を読み解くための宗教史』宇山卓栄著 KADOKAWA
プレジデントオンライン

■宗教オンチ日本が抱えるリスクとは

いま、中東のシリア・イラク地区におけるイスラム教スンニ派過激組織ISISの動きが国際社会の火種の一つになっている。日本人の犠牲者も出ているが、日本人にとっていま一つ分かりにくいのも事実だ。イスラム圏内における教義の違い、異教徒との戦いと捉えがちだが、ISISの動きは中東地区、イスラム教徒が置かれた経済的事情と密接に関連している。

石油という資源を持つ国と持たざる国の間で経済格差が開き、産油国においてもオイルマネーの恩恵を受ける特権階級とその他大勢の国民の間で貧富の差が著しい。経済面での不満が、貧しい人々のISISへの加担を促している側面は見逃してはなるまい。先進諸国が産油国国内の不公平な構造を看過してきたことも、ISISの構成員を生みだした一因といえるのではないだろうか。

日本人が宗教を難しいものと考えがちなのは、確立された宗教観を持たない故のことといえるだろう。しかし、日本が鎖国政策でもとらない限り、政治・経済の両面でグローバル化の流れが止まることはない。そうであれば、宗教オンチであり続けることは、日本にとってマイナス要因でしかない。

歴史観についても同様で、日本が太平洋戦争に突入した背景事情などを詳しく学んだ上で反戦を唱えることが大事である。このような、情緒論にとどまらないアプローチが日本人に欠けているのではないかと感じられる。

一般的な受験勉強のごとく、単に史実を頭にインプットするだけではなく、史実の背景に存在した事情を踏まえてはじめて、歴史に学ぶ姿勢が確立すると考えられる。現在の国際情勢をより正確に理解するためには、国民性の基盤である宗教の理解を避けて通れないのもまた事実だろう。

■宗教の理解が異文化との距離を縮める

富をめぐる争いに一定の秩序を与え、経済活動が成り立つ条件である協調体制を実現することが宗教の目的の一つだった。ビジネスが成り立つための信頼関係を確保することが、宗教の重要な役割だったのである。

11世紀から13世紀にかけてキリスト教国家とイスラム教国が争った十字軍など、宗教戦争と捉えがちな異教徒同士の戦いも、経済戦争としての側面が色濃かった。また、16世紀の宗教改革が、カトリック教会の腐敗へのアンチテーゼだったことに加え、旧教派とプロテスタントの経済利権の争いだったことを知ることで理解は格段に深まるだろう。

イギリスから移住した新教徒・ピューリタンが建国したアメリカは、宗教に対する寛容さを特徴とするが、その寛容さは日本とは異なる。宗教の役割とリスクを知った上での寛容と、無知故の寛容は全く意味が異なる。

『経済を読み解くための宗教史』の著者は、大手予備校で世界史を教え、世界各国を旅した経験を持つ個人投資家でもある。「歴史を現在に活かす、歴史から視界を得る」という考え方に立ち、「歴史に学ぶ」という姿勢の重要性を強調する。さらに、経済と宗教は密接に関連し、異文化との距離を縮めるための手段は宗教を理解することだという。

たとえば、経済力の成長が著しいイスラム圏では、現実に合わせて教義を解釈する形をとったことが経済成長の背景にある。イスラム教は元来金利を認めないという捉え方が通説だったが、現在、配当やリース料という形で利益を得ることが容認されている。

宗教的な制約がなかったことが、明治維新以来の日本の経済的成長を支える要因となった。また、日本の宗教や異文化に対する寛容さはある意味で美徳かもしれない。しかし、理解の裏付けのない姿勢では真の信頼関係は生まれない。日本にとって、経済・ビジネスにおける宗教の理解はいまや不可欠なものになってきたといえるだろう。