『梟の城』や『竜馬がゆく』といった歴史小説をはじめ、数々の名作を生み出してきた作家・司馬遼太郎氏のエッセイが、新たに約200編発掘された。その事実を知ったファンは、「新たな作品が刊行されるのでは」と期待を寄せている。
司馬氏は1956年、「第8回 講談倶楽部賞」を受賞した、モンゴルの将軍とその命を狙うペルシャ人との暗闘を描いた『ペルシャの幻術師』で文壇デビュー。闇夜に生きるフクロウのごとき、ふたりの忍者の活劇『梟の城』は「第42回 直木賞」に選ばれ、一躍注目を集める。
1966年には、坂本竜馬を中心に、同じ時代をまっすぐに生きる若者たちの物語『竜馬がゆく』、戦国時代の美濃の国盗りを独自の史観と人間洞察によって描いた壮大な長編『国盗り物語』で「第14回 菊池寛賞」を受賞。その後も、『義経』『宮本武蔵』『坂の上の雲』など、歴史小説を中心に発表を続けた。
また一方で、独特な視点で描かれる司馬氏の歴史観を明かす『手掘り日本史』や、「子どもは何をしなくてはならないのか?」「人は何のために生きるのか?」といった難問の答えを、21世紀に生きる子どもたちに語りかける『二十一世紀に生きる君たちへ』、長らく『月刊 文藝春秋』に寄せられていた、日本の成り立ちについて明快な論理で解き明かす日本人論『この国のかたち』などの名作エッセイも数多く生み出している。
それら価値ある作品群による功績で、1991年に文化功労者に選ばれ、1993年には文化勲章を受章。しかし1996年、72歳という年齢で惜しくもこの世を去ってしまった。
だが、司馬氏と交遊を深めていた関西大学法学部教授・山野博史氏によると「書くこと大好き人間で、書きたいときに書きたいことを書きたいように書いた文人」とのことで、司馬氏は相手の有名無名、刊行物の大小に関係なく寄稿していたという。その数は膨大で、単行本などに未収録のものもあるのだとか。つまり、死してなお、司馬氏の新たな作品を読むことは可能ということだ。
そうした作品を探し集めているのが、ほかでもない山野氏。発掘した作品は、没後5年を記念した『司馬遼太郎が考えたこと エッセイ1953~1996』全15巻に収録された。ただ、山野氏の司馬作品探しの旅は未だ続いており、新たに約200編を見つけ出したという。
司馬氏の没後20年を迎える2016年。山野氏は発掘した作品の整理をし、書誌として完成を目指している。この思いがけない話を耳にした司馬ファンからは「書籍化されたら是非、購入したいです!」「まだまだ司馬さんの作品が読めるなんて、生きててよかった」「本屋さんに並ぶの楽しみにしています!」といった期待の声が上がっている。
また、「司馬さんの著作は何を読んでも読後さわやかで元気になれる」「高校生のときに偶然図書館で見つけてから、司馬作品は何度も読み返しています」「文庫本は数多く読んだ。まるで歴史書を読むかのごとく、小説が『史実だろう』と思わせる筆力が遼太郎さんにはある」「20代の頃、面白すぎて司馬文学の世界と現実世界が区別できなくなるくらい、どっぷり漬かってたな」などの声も。
年内に刊行されることを願うと共に、司馬氏を追いかけ続ける山野氏に敬意を表したい。
■『没後20年 司馬遼太郎の言葉』