12月23日に、英紙「Daily Mail」が掲載した記事によると、米国科学アカデミーの正式機関紙『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表された共著論文で「永遠の命を持つ生物」の存在が明らかになったという。
■理想的な環境に生育した場合には老化の兆候がない
その生物とは――ヒドラ。ヒドラは体長1センチほどの淡水産無脊椎動物の総称だ。ヒドラは身体のほとんどが幹細胞からできており、細胞には断続的に分裂を繰り返す能力がある。つまり、ヒドラは自分の身体を常に更新し続けることで「永久に生存する」というのである。
この研究の責任者であるアメリカ・ポモナ大学の生物学者ダニエル・マルティネス教授は、自身がまだ大学院生だった90年代を振り返る。
「当時は『生物は必ず老い、そして死ぬ』というドグマ(教義)が当たり前でした。ですから、私が研究を始めたのは『ヒドラも老化プロセスを免れない』というのを証明するためでした。ですが、4年経っても死なないどころか全く老化していないことが確認されたのです」。
若きマルティネス教授は、この研究結果を「ヒドラの不老」とし、1998年に最初の論文を発表した。
マルティネス教授の画期的な研究は世界中で注目され、2004年からはマルティネス教授率いるポモナ大学とドイツのマックス・プランク人口統計研究所による共同研究が始まった。これは、前回よりさらに大規模なプロジェクトとなった。密接に関連する2つの種から 2,256匹のヒドラを、それぞれの研究室に作った同一の小さなオアシスに放ち、新鮮な水と餌としてブラインシュリンプを週に3日与えるというもの。期間も前回の倍の8年を費やし、さらに厳密な調査研究が可能になった。
そして発表されたのが、「この微小な生命体は理想的な環境に生育した場合、老化の兆候がなく、死亡率は一定かつ著しく低い」という結論だ。
マルティネス教授は「ただし、これが自然界で起こる確率は低いでしょう。なぜなら、実際の世界では天敵、汚染、病気があるからです」と語っている。だが、すべての有機体は老いて死ぬという、これまでの定説は崩れたことになる。
また、マルティネス教授は、自分たちの研究が他の科学者たちをインスパイア、不老不死研究を推し進めることに期待を寄せている。ヒドラだけではなく他の生物を含めた老化プロセスの解明への糸口になれたらと。
この地球上に不老不死の生物がいたことが何よりの衝撃だ。既成概念を根底から覆す大発見といえるが、「永遠に生きる=死ぬことができない」というのは幸か不幸か。できることなら、ヒドラからエイジングのメカニズムを解き明かし、美しく老いながら有限の時を生きたいと願う。
(文=佐藤Kay)
※画像は、ヒドラ(Hydra) 「Wikipedia」より引用