長野県軽井沢町でスキーバスの転落事故を起こした運行会社「イーエスピー」(東京都羽村市)は16日午後に記者会見し、運転手が出発前に義務付けられている健康チェックを受けていなかったと明らかにした。道路運送法では社内の運行管理者が、運転手と対面して体調確認やアルコール検査を行うよう定めており、国土交通省は同法違反に当たるとみて調べている。
また同社が、国が定める基準(約27万円)よりも安い約19万円で業務を請け負っていたことも判明。国は2012年の関越自動車道のツアーバス事故以降、安全性を損ねることがないよう下限価格を示している。観光庁によると、ツアーを企画した「キースツアー」(渋谷区)も旅行業法違反に当たる可能性がある。
バスは長野県飯山市のスキー場に向けて、14日午後11時ごろ東京・原宿を出発。約3時間後の15日未明に峠を越えた後、国道の下り坂で崖下に転落した。バスには運転手2人が乗務し、事故時は土屋広運転手(65)が運転していたとみられる。
イーエスピーの高橋美作社長によると、2人は14日午後7時ごろ、羽村市の車庫を出発。同社長が車庫で体調やルートの確認を行うはずだったが、出発時間を勘違いし、間に合わなかった。高橋社長は「昨年12月から出発前の確認ができないことがたびたびあった」と語った。
同社の荒井強所長は、2人が原宿を出発する前に、事故を起こしたバスを自ら運転して長野から東京に戻ってきたといい、交代した際に2人と約10分話した。特に変わったことはなく、同所長は「バスは昨年12月ごろにタイヤを換えたばかりで整備状況も良かった」と説明した。
夜間にバスを運行する運転手には採用時と半年に1回の健康診断が義務付けられているが、昨年12月に契約社員で入社した土屋運転手は採用時に診断を受けていなかったことが既に判明している。
基準を下回る料金を設定していた点に関しては、高橋社長は「基準は下回っていたが、バス事業は黒字も出ておりコストを優先したことはない」と反論した。
会見では、ツアー関係の書類に、2人が目的地に到着したことを示す印鑑が事前に押されていたことにも質問が及んだ。荒井所長は13日に押印したと説明し、「社長の負担を減らしたい気持ちがあった。事前に押印したことが4〜5回あった」と話した。