東洋経済オンラインが14日、"4K番組の録画禁止案"が民放キー局5社(日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビジョン)の間で浮上していると記事を掲載。ネット上では「録画できないなら見ない」という声が多数噴出し、物議をかもしている。
民放の録画禁止案にネット上で非難の嵐現在のデジタル放送以上の高画質だとして脚光を浴びている4K放送。官民共同の次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)を中心に、4K以上の画質を誇る8K放送も含め、地上波放送実現に向けて動き出している。現在は「技術仕様や放送・サービスの運用規定について仕様をまとめているところ」だという。
ここで物議をかもしているのが、民放各局が提案している「無料放送の録画禁止」のアイデアだ。技術的には、放送局が視聴者の録画(複製)を止めることは可能だというのだ。東洋経済オンラインでは、録画にまつわる「CMスキップ(テレビ番組の合間に流れるCMをカットする機能)」が広告に頼る民放各社のビジネスモデルに弊害をもたらし、このような案が出る結果になったのではないか、と分析している。
一般視聴者からすれば録画機能は、後で見るために欠かせない機能だ。仕事や学業など忙しくて見られなかったテレビ番組を、自分の好きなタイミングで見るのにとにかく便利だ。そのため録画禁止というアイデアに視聴者は大反対。「深夜のスポーツ中継も生で視ろと」「確実にさらに見なくなる」「簡単に録画できるのが他のインフラより勝ってる部分なのに、そのセールスポイントを自ら捨てようというわけだ」「自分で自分の首を絞めてることに気づかないバカ」「こんなバカな規制したら、視聴者をネットフリックスやアマゾンに持って行かれるだけ」と非難轟々だ。
とは言っても同アイデアの対象になっている地上社での4K放送はまだ先。4K放送はスカパー!やひかりTVで直近2年の間にスタートしたばかり。BSでも今年から4K・8Kの試験放送が開始され、実用放送は2018年から。地上波での放送スケジュールは未定という状況だ。
「現実的には、2011年にアナログからデジタルへ移行したばかりで、機材等に投資したお金を回収するには時間が足りないでしょう。地上波での本格的な4K・8K放送はまだまだ先の話。今は議論を重ねる段階です。ただし、いくら高画質だからといっても、視聴者が離れれば、無用の長物という評価は免れません。視聴者に配慮した仕組みが求められるでしょう」(報道関係者)
もし録画の仕組みがなくなれば、CMスキップのないリアルタイムの視聴、つまりテレビ局が欲しがる視聴率が上がるように思える。だからこそ録画禁止というアイデアは、見ている広告主のゴキゲン取りのように感じられる。録画のできないテレビに嫌気が差して視聴者が減れば、広告効果が低下し、テレビ業界そのものが縮小しかねないように見えるが……。
東洋経済オンラインは同記事で、「CMスキップ禁止という案が通れば、複製禁止の運用を可能にするという主張は取り下げるのではないだろうか」と提案している。
"CMスキップ禁止はインターネットストリーミングであれば、放送局自身が提供するサーバーの機能として実装できる。複製禁止にした上で、見逃し視聴サービスに誘導。有料サービスあるいは広告付き配信などの形で”録画の代わり”を提供する。ただし、この場合は4KではなくフルHDでのサービスになる可能性もあるだろう。(東洋経済オンライン「『4K番組は録画禁止』という驚愕のシナリオ」より一部抜粋)"
と、ネット上での見逃し視聴サービスの提供案を出しているのだ。各放送局が主体となって、録画機能に頼らなくても良い環境を生み出せば、既存の視聴者も納得するのではないかというのだ。一理ある。民放公式テレビポータル「TVer」で各局の一部番組がすでに配信されているため、技術的にはすぐにでも実現できるはず。録画不要の環境を生み出すには視聴期間を限定しないことが最善と思われるが、例えば過去の番組を視聴する際も最新CMを流す仕組みを設ければ面白いかもしれない。
が、気になるのはテレビ機器の存在だ。常日頃から各種メーカーが新機種を売り出しているが、4K放送のスタート時に"インターネットのテレビ"化が進めば、「テレビ機器でしか4Kでテレビ番組は見れません」という謳い文句も、4K対応のPCディスプレイや4Kコンテンツ(有料)を展開するNetflixのような映像配信サービスがある中では、イマイチ魅力に欠ける。それに、フルHDも十分に高画質だ。「4K画質は必要ない」というユーザーが出てくるのは目に見えている。ややもすれば、「テレビ機器はいらない」という終局が遠くにチラホラかすんで見える。
録画禁止案で揺れる4K放送。テレビ業界に、そして視聴者に一体どんな変化をもたらすのか……?
蒼木学(あおきまなぶ) フリーの取材記者。エンタメ・芸能から教育・社会問題まで幅広く取材を行う。興味のあるトピックは人工知能、近現代史。