エンタープライズ分野でのイノベーション

Markus Andrezak氏GOTO Berlin 2015カンファレンスでエンタープライズ分野でのイノベーションについて話した。InfoQは氏にイノベーションについての誤解について話を聞き、エンタープライズ分野で革新的なプロダクトを作るための策について話を聞いた。

InfoQ: GOTO Berlinでの講演で、あなたは移民、開拓者、都市計画者モデルを示しました。簡単に説明してください。

Andrezak: 移民、開拓者、都市計画者(PST)モデルはもともと、Simon Wardley氏が発明したものです。氏は英国の有名なストラテジストで、Wardleyマップの開発者でもあります。PSTを使って、氏はシステム開発を進化の過程として説明しました。これを企業に適用することで、氏はどのような種類の仕事とどのようなタイプの人が継続して成功を求められるのかを説明しています。

開拓者は新しいアイディア、未知のものを見つけようと駆り立てられています。不確実性を好み、確実なことに退屈します。

移民は開拓者が去った後にやってきます。開拓者からアイディアを盗み、そのアイディアを具体化しようとします。曖昧さを好みます。

都市計画者は移民が完成させたプロダクトを推し進めるだけでなく、さらに産業化しようとします。

重要なのは、それぞれが異なる領域の素晴らしいタレントであり、相互に補い合っているということです。全員必要なのです。しかし、開拓者と都市計画者を引き合わせるのは賢くありません。開拓者は漠然とした世界、不確実性を好みますが、都市計画者はそのような状態を嫌います。一緒にはならないのです。タスクも違います。移民は開拓者と都市計画者の間を翻訳するという重要な役割があります。移民はアイディアを持つ開拓者が好きです。そして、プロダクトを生み出し広げるのに必要な都市計画者が好きです。つまり、企業は移民によって運営されるのがベストなのです。

InfoQ: 企業が革新を起こそうとしたときに直面する課題に対して、このモデルがどのように役に立つのか、例を示していただけますか。

Andrezak: ほとんどの企業が、ひとつの働き方しか知りません。ウォーターフォール、アジャイル、シックスシグマ、または他の手法に何かのはずみでくっついてしまっているのです。PSTモデルは企業、プロダクト、サービスの進化の中では、大きく異なるタスクと大きく異なる運営の仕組みのために最低でも3つの種類の人が必要であることを説明します。

ソフトウエア開発の世界では、開拓者ははじめはソフトウエアを全く作りません。大雑把なデータポイントを素早くそして安価に作るのが彼らの目的だからです。宝の地図なしに宝探しをすることを考えてください。右に行くべきか左に行くべきか迷うでしょう。なので、スピードが大事なのです。インハウスで素早く反復開発するというアジャイルの手法がベストでしょう。反対に、都市計画者は自前のプロダクトやソフトウエアを開発することに熱心ではありません。スケールするには標準的なソフトウエアを購入し、シックスシグマのような手法で自分たちのプロセスを標準化しようとします。目的は一気に工業化することです。水や電気を考えてください。一般化されている製品に重要なのは完璧であり、運用の素晴らしさが重要で学習することではありません。

企業が異なる継続的な成長に必要なさまざまな運営モデルに自覚的でないと、革新を成功させることはできません。開拓者がいなければ、イノベータのジレンマに陥るでしょう。新しいアイディアが生まれないのでいつでも同じひとつのビジネスモデルを使おうとして停滞します。移民がいなければ、素晴らしいアイディアがあったとしても、そこから最初のプロダクトが生まれません。都市計画者がいなければ、プロダクトに日が当たりません。スケールのさせ方を誰も知らないのですから。

もちろん、このモデルは開拓者と都市計画者の間で生まれる対立についても説明しています。彼らが顔を合わせれば、戦いが始まり、お互いの考えを受け入れません。良い開拓者と都市計画者には対立が必要だということが理解されなければなりません。開拓者は常に新しいものを見つけようとしますが、都市計画者にはそれが、まだ実現できないものに見えるのです。

InfoQ: このモデルを使っている時に判断しないことが重要なのはなぜですか。

Andrezak: イノベーションや新しいアイディアはその時の流行によりけりなので、企業がイノベーションに投資する必要がある気づいたときに新しい動きをする必要があります。そうすると"招待していない人が参加する巨大なパーティーになってしまう"ということがおきます。PSTモデルは、a)皆がこの動きに参加する必要はなく、b)そうすることに意味はないと説明します。

PSTモデルでは開拓者と移民、都市計画者はすべて別々の能力を持ち、異なる力で動くということを示します。皆、素晴らしい人で必要な人なのです。これは重要なことです。皆が必要で、その在り方が受け入れられるということです。皆が共存できる環境を整え、皆が成功し、開拓者から移民、移民から都市計画者へとアイディアやプロダクトの進化の鎖が生み出されるようにする必要があります。

このような環境を作るのがマネジメントの仕事です。3つのタイプの間の知識の流れを作り、この3つの価値を明らかにして、開拓者と都市計画者が一緒に頭を突き合わせなくてよいようにする必要があります。

InfoQ: 講演では、InfoQであなたが執筆した視覚的ポートフォリオマネジメントという記事で説明した3つの地平線モデルについても言及しました。企業がこのモデルを使って敏捷さを推進しより革新的になる方法について、例を示してください。

Andrezak: 3つの地平線モデルと移民、開拓者、都市計画者モデルは基本的なアイディアは同じですが、観点が違います。このモデルはマッキンゼーの3人(Baghai, Coley, White)によって考えられたもので、企業が成長を続けるには3つの異なる地平線に投資する必要があると説明します。

基本的にこのモデルでは、持続的な会社では3つの異なる領域を考える必要がある、と考えます。今持っているもの(製品とサービス)で売り上げを生み出す(地平線1)。未来にお金を生み出す方法を考える(地平線2)。そして、未来にお金を生み出す準備をする(地平線3)。重要なのは地平線ごとに求められるタスクが全く違うということです。人とプロセスの観点から、これは重要なことです。異なる人々が自然と異なるタイプの仕事に惹かれるからです。このような在り方を尊重するべきです。

また、このモデルが企業のイノベーションと成長にとって重要なのは、この3つの領域すべてで動く必要があるということを説明するからです。これはとても難しいことです。従来のマネジメントのままの企業では、地平線1の安全な話題の前に地平線2と地平線3の不確実性が高い話題は敗れ去ってしまうからです。地平線1の話題とプロジェクトだけでは、企業はすぐに死んでしまいます。安全な賭けと線形に成長する話題だけがポートフォリオに組み込まれるからです。市場の未来を考えている誰かに簡単に負けてしまうでしょう。

InfoQ: "デュアルモード企業"というコンセプトについて教えてください。

Andrezak: デュアルモード企業はGartnerが広めたコンセプトで、自然な、しかし、ナイーブなアイディアです。つまり、アイディアの不確実性や新しいアイディア、敏捷さに圧倒されている従来の組織なら、新しい、そしてアジャイルさが求められる不確実な環境のタスクには、その専門家を配置するということです。このモデルの問題は、衝突が起きやすいということです。PSTモデルが説明するように、開拓者と都市計画者は常に対立します。この対立を薦めるのは意味がないと思います。Gartnerはこのモデルの帰結を本当は評価したことがないのではないかというのが、唯一の回答です。

InfoQ: デュアルモード企業が革新的になったという例を知っていますか。

Andrezak: デュアルモードという考え方がナイーブなので、うまくいきません。開拓者がいなければ新しいアイディアは生まれません。移民がいなければ、初期プロダクトが生まれません。そして、開拓者と都市計画者という全く正反対の個性がぶつかってしまうのです。都市計画者がいなければ、プロダクトはスケールしないでしょう。

PSTモデルは企業の継続的な進化の自然なモデルです。開拓者は素晴らしいアイディアを見つけます。移民はプロダクトの初期バージョンを作ります。都市計画者はもっとも優れたプロダクトをスケールし、不要なものを捨てます。これは、企業がそのサイクルを管理する方法を理解する上で、とても自然なモデルです。