コンペ応募作品の審査もできない!「東京アニメアワードフェスティバル2016」の運営は破綻状態 | ニコニコニュース

「東京アニメアワードフェスティバル2016」公式サイトより。
おたぽる

「私は解任されたとは思っていません。現在も業務を進めています。それ以上の発言は、弁護士に止められていますので……」

 渦中の江口美都絵氏は、そう答えると電話を切った。

 先日、ようやく開催告知のプレスリリースが配信された「東京アニメアワードフェスティバル2016(TAFF2016)」。東京都も出資し、諸外国の政府機関も協力する国際的なイベントが、3月18日の開催を前に、正常な運営が行えず中止も想定される事態に陥っている。

 昨年12月25日、公式サイトにて日本動画協会および実行委員会が、フェスティバルディレクター・江口美都絵、テクニカルディレクター・棗田良成、プロデューサー・三上公也の3氏を解任したことを発表したのである。

「TAFF」は2013年まで東京国際アニメフェア内で開催されていた「東京アニメアワード」を継承発展させた国際アニメーション映画祭だ。運営は東京アニメアワードフェスティバル実行委員会と日本動画協会(以下、動画協会)が主催し、東京都が共催する形が取られている。東京都からは毎年5,000万円の出資がなされている半官半民の催しだ。

「実行委員会が江口さんらを解任した事実はありません。10月下旬に、動画協会が関係者に江口さんらを解任したという通告をしてきたのです。でも、江口さんに業務委託をしているのは実行委員会ですから、主催者とはいえ動画協会の都合で解任などできないのです。しかも、動画協会の担当者である松本悟さん(註:動画協会事務局長)は、解任の理由を“江口さんが、毎日秋葉原の動画協会事務所に顔を出さないから”だというのです。もちろん、そんな契約はしていないはずです。そこで、実行委員会の席で双方から話を聞いたのですが、結論は出ていません。にも関わらず、年末になって公式サイト上で突然解任の告知がなされたので、実行委員も困惑しています」

 取材に応じた実行委員会の関係者も困惑を隠さない。というのも、海外との折衝や協賛企業を取りまとめていた担当者を、引き継ぎもなく一方的に解任した形になっているのだ。

 結果、10月時点で決まっていた企画の多くが、停滞している状況なのだという。


●動画協会は仮処分を申請したが……

「動画協会は昨年末に、東京地裁に江口さんらが所持しているコンペ応募作品の引き渡しと、フェスティバルディレクターなどの役職を名乗ることを禁止する仮処分を申請しています。しかし、東京地裁は認めていません。すでに、幾度か双方を呼び出して和解協議も行っているようですが、動画協会が和解を拒否していると聞いています。そのため、動画協会は『担当が変わった』と国内外の関係者に連絡し、江口さんサイドも引き続き業務を進めています。動画協会は『解任した』の一点張りなので、審査体制もつくることができず、コンペ応募作品の審査も行うことができない状況なんです」(前同)

 そんな中、1月になり海外アニメーションの配給を行っているオフィスHの伊藤裕美氏が新たに「インターナショナル・コーディネーター」に就任したことを、自身のブログで報告している。

「動画協会サイドは、コンペ作品の募集期間を1月末まで延長しています。かき集められるだけの作品をかき集めて、審査した形にしようという腹づもりなんじゃないでしょうか」(アニメライター)


●東京都は「回答する立場にない」

 そもそも、動画協会と江口氏らの間に、どのような問題が生じていたのか。動画協会内の関係者は語る。

「火種になったのは、昨年3月のオープニングセレモニーです。ゲストに西川貴教さんが来場する予定で、三越前駅の地下通路の使用許可を得て調整していたのですが、直前になって動画協会側の不手際でキャンセルになり、協力してくれていた三井不動産が激怒する事態になったんです」

 この一件をめぐっては、昨年の開催直後から真偽不明の情報が流れていた。動画協会に近い関係者から漏れ聞こえていたのは、アニメミライ代表理事やJAniCA(日本アニメーター・演出協会)監事を務める弁護士の桶田大介氏にブッキングを依頼していたのに、仕事をしてくれなかったというものだ。

 桶田氏に問い合わせたところ、自身は昨年から動画協会が受託することになった文化庁の若手アニメーター等人材育成事業「アニメミライ2015」に際して、動画協会と文化庁から引き続き西川氏に広報大使を務めて欲しいという依頼があり、西川氏が「桶田さんが窓口をやるのであれば」と話したため、ボランティアで手伝っていたという立場だったと説明する。その上で、西川氏の出席要請があったこと、結果として間際に出席のキャンセルがあったことは事実だとして、次のように答えた。

「私の知る限り、キャンセルの要因は2つありました。1つは、動画協会側から開会式の間際に至るまで、台本や構成はもちろん、段取りや時間その他、詳細が一切伝えられなかったことです。これにより、そもそもアニメミライとは異なるTAFFというイベントの開会式に呼ばれることについて違和感を覚えていた西川さん、西川さんのマネジメントサイドの不信感が高まりました。もう1つは、西川さんのマネジメント会社の交代です。ちょうど時期が重なったこともあり、マネジメント側での情報の引継等にも不備があり、動画協会への問合せなどが滞ったようでした。この経緯等については当時、動画協会にはメール等でお伝えしてあります」(桶田氏)

 昨年、オープニングセレモニーが開催された三越前駅からコレド室町へつながる地下道は、中央区が管理する道路。西川氏が来場するという前提で、会場であるコレド室町を管理する三井不動産の協力で、ファンが詰めかけることも想定し警察・消防などとも折衝を重ねていた。ところが、動画協会側は間際になっても西川氏に段取りを一切伝えていなかったようだ。

「このことは動画協会内部でも問題になりました。また、映画祭運営に精通した江口さんからも、このままでは信用を失うと強く問題提起されたそうです。そこで、反省を踏まえて2016年の開催に向けて動いていたのに、どういうわけか突然、動画協会が解任を告知したのです。しかも、解任にあたって経費の精算も行っておらず、江口さんらへの支払いもすべて止めているんです」(動画協会関係者)

 招聘予定だった海外のアニメーション制作者や各国政府の文化担当、大使館などにも問題は知れ渡っている。とりわけコンペ応募者や招待が予定されていた作品の制作者からは、関係者に怒りの声も寄せられているという。

 国際的に信用を失いかねない事態になっている現状を、共催に名を連ね5,000万円を出資する東京都は、どう考えているのか。東京都の担当者である産業労働局観光部振興課の課長・若林和彦氏にも電話で話を聞いた。

「東京都の役割は助言と広報です。主催は、実行委員会ですから東京都は回答する立場にありません。私はきちんとやっていると聞いていますよ……誰からって? 事務局の松本さんからですよ」

 動画協会側が仮処分を申請しているということについて知っているのか尋ねても「お答えする立場にない」と繰り返す。さらに、実行委員会では江口氏らの解任を決議していない点を指摘すると、

「ホームページ見ていますか? “フェスティバルディレクター等解任の件”のところに、“一般社団法人日本動画協会及び東京アニメアワードフェスティバル実行委員会は”と書いてあるじゃないですか。実行委員会の会議は東京都の会議ではありませんから、内容を申し上げることはできません」

 さらに質問を続けようとすると、

「あの、今日は遅い時間でも起きていらっしゃいますか? 夜遅くになりますが、改めてお電話しますので」

 そのまま一晩待ったが、いまだに若林氏から折り返しの電話はない。


●「3月が過ぎてから話しますから」

 これまで何度か取材をしたことのある、フェスティバル事務局の北上浩司氏は、何度目かの電話にようやく出た。

──用件はわかりますよね。

「はい……でも訴訟になっていますので、今はなにも話すことはできません」

──開催が困難な事態になっていますよね?

「いいえ、開催されます。とにかく今記事を書かれると困ります。3月が過ぎてから話しますから……」

──行政のお金で運営してるのに?

「………」

 この電話の直後、公式サイトには開催概要が掲載された。果たして、3月18日までにコンペ作品の審査と受賞者決定、来日の折衝ができるのだろうか。
(文=ルポライター/昼間たかし http://t-hiruma.jp/)