2029年の近未来。反乱を起こした人工知能の攻撃によって、人類は絶滅の危機を迎えていた…。これは映画『ターミネーター』の冒頭だが、この話をたかがSFと切り捨てられない事態が近づいている。2045年に「シンギュラリティ」が訪れるといわれているのだ。
シンギュラリティとは、機械の能力が人間を完全に超えてしまい、制御できなくなってしまう臨界点のこと。アメリカの発明家、レイ・カーツワイルは自著『ポスト・ヒューマン誕生:コンピュータが人類の知性を超えるとき』で、2029年には人工知能がひとりの人間並みの能力を得て、2045年にシンギュラリティが起こると主張している。
実際、人工知能の進化はめざましい。グーグルやフェイスブック、マイクロソフト、IBMといった企業が人工知能研究に投資する予算は、年間で1兆円にものぼるという試算がある。また、日本でもドワンゴやリクルートが人工知能研究所をつくっている。今後もますます世界中で人工知能研究が進んでいくだろう。
オックスフォード大学の研究では、アメリカの雇用の47%が今後数十年で自動化されるリスクがあると指摘されている。すでにIBMの人工知能「ワトソン」が北米や日本の銀行などで顧客からの問い合わせ業務に対応しており、トヨタや日産、ホンダは2020年をめどに自動運転できる車の販売を目指している。また2015年の東京国際映画祭には、アンドロイド女優が主演女優賞にノミネートされた。このように、今後人間の仕事が機械に奪われてしまうようなことが起こるのか? 東京大学大学院教授で、人工知能学会の顧問を務める堀 浩一氏に話を伺った。
「難しい質問ですが、『NO』と答えたいです。私たち技術者にとって、未来は『予測するもの』ではなく『作るもの』。『こういった仕事は人間がやるべきだ』『やりたい』などの意志が人類にあるなら、そのように人工知能を設計するべきです」
一部では、『ターミネーター』『ブレードランナー』などのSF映画で描かれたような、人間と機械の対立の可能性も危惧されているが…。
「核技術、遺伝子工学、金融工学…。過去の様々な技術も、人間社会に恩恵と脅威を同時にもたらしてきました。技術者としては、多くの人々が機械との対立を望まない場合、それを避けるような設計を目指します。この場合、核廃棄物の処理問題などで顕著な『人々の合意をどのように形成するか』という、社会・政治的な問題にも発展します。さらに、現代の技術は未来への影響も与えるので、仮想的な未来世代との合意が必要となる…という難しい課題もあります」
では、我々若手ビジネスマンにとっては、どのようなメリットやデメリットがあるのだろうか?
「自分の仕事について、『機械には真似のできないことを、自分はやっているか?』と真剣に考えるきっかけができるのはメリットといえるかもしれません。逆に『こんな仕事、ホントはやりたくない…』とイヤイヤやっている仕事は機械に奪われることになります。デメリットとしては、良かれと思って設計した人工知能でも、悪用される恐れは常にあるということです。軍事技術への応用などは、放置しておくとどんどん進められてしまうかもしれません。それを防ぐには、若手ビジネスマンも積極的に社会的発言をすべきでしょう」
堀氏は、未来は「予測するもの」ではなく「作るもの」だと強調する。自分がどのような未来を生きたいか? ということを自分に問いかけ、意志を持つ。それが今後機械に取って代わられないために必要なことだといえるだろう。
参考文献:
※当記事は2016年01月22日に掲載されたものであり、掲載内容はその時点の情報です。時間の経過と共に情報が変化していることもあります。