「妻が20年前に出演したAVを理由に離婚できますか?」。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにこのようなタイトルの質問が投稿された。
投稿者は、実家が営む寺院で副住職をしているという男性だ。英才教育を推進する人気幼稚園も運営している。男性は、数年前に住職である親の反対を押し切って、ホステスだった妻と結婚した。しかし、最近になって園児の親から、妻について「AV女優だ。月謝を返せ」といったクレームを受けたという。確認すると、妻が20年前に複数のAVに出演していることが判明。妻も出演したことを認めたのだそうだ。
保護者からは批判が寄せられ、父親の住職も憤慨。投稿者の男性自身も「宗教法人、学校法人としても一生この事を抱えていくのは無理」といい、離婚を考えているのだという。はたして、妻の過去のAV出演が発覚したことを理由にして、離婚することはできるのだろうか。寺林智栄弁護士に聞いた。
●AVとは言え、20年前の話まで告白する義務なし「まず、妻のほうが応じてくれれば、それで離婚できます。問題は、妻が離婚に応じてくれず、裁判に発展した場合です。裁判で離婚ができるケースは法律上、限られています。今回の件は『婚姻を継続し難い重大な事由』という裁判上の離婚原因があるといえるかどうかが、問題となります。
妻のほうは、結婚前に、夫の仕事の特殊性を知っていました。幼稚園を経営する、お寺の副住職。品行方正さが求められる職業です。いっぽう、AV女優は性を売り物にする職業。その過去がばれたのであれば、夫婦間の信頼関係は破たんし、裁判上の離婚原因があるといえるようにも思えます」
ただ、妻がAV女優をやっていたのは、20年も前だ。そんな過去の事実まで、夫に言わなければならないだろうか。
「たしかに、最近のことなら話は別ですが、そこまで古い過去のことを告白する義務が妻に課されるとは、考えられません。また、そもそも夫は、妻がホステスという、いわば水商売をしていたことを知って結婚したわけです。『ホステスは問題なくて、20年前のAV女優はけしからん』と言うのも説得力に欠けます。
個人的には、裁判離婚の原因までがあるとは言えないと考えます。妻が協議に応じない場合、夫は離婚するのは難しいでしょう。もちろん慰謝料をとることもできません。
なお、仮に離婚が認められるとしても、子の親権の問題はまた別の話です。妻の子に対する監護養育のやり方が不適切だったと言えない限り、妻が親権を取得することは十分にあり得ます」
寺林弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。東京弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)を経て、2014年10月開業。刑事事件、離婚事件、不当請求事件などを得意としています。
事務所名:ともえ法律事務所