誰もがひとつ持っている「名前」。あまりにも有名な人物なのに、じつは省略形だったり、意味を成さない呼び方をされている偉人が多いのはご存じでしょうか?
パブロ・ピカソの本名は、23の単語からなる長い名前で、家族や聖人の名前を片っぱしから盛り込んだ海外版・寿限無(じゅげむ)。あまりの長さに自分でも正確に言えなかったなんて話も残っています。映画の題名にも使われた「ダ・ヴィンチ」は地名をあらわす言葉なので、レオナルド・コードと名付けたほうが適切、野口英世は小説の人物と名前がカブるのがイヤで、他人を別の家の養子にしてまで改名した人物なのです。
■長すぎるピカソ、はしょり過ぎたダ・ヴィンチ
「ゲルニカ」に代表される画家ピカソの名は、誰もが知っているでしょう。教科書などにはパブロ・ピカソと記されることもあり、これがフルネームじゃないと疑うひとは皆無のはず。ところが完全な本名は23の単語が連なるド級の長さ… 本人ですら正確に言えなかったなんて話があるほどフツザツな名前だったのです。
諸説あるものの、もっとも知られている本名は、「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ピカソ」、もっとも長いものは23の単語が連なる「Pablo Diego Jose Francisco de Paula Juan Nepomuceno Maria de los Remedios Cipriano de la Santisima Trinidad Martyr Patricio Clito Ruiz y Picasso(※原文はスペイン語)」と、呪文のような名前なのです。
これは家族や親類、聖人の名前をこれでもかっ! と盛り込んだ結果で、おめでたい言葉を山盛りにした落語の寿限無(じゅげむ)と同じ原理。ピカソは、自分の名前を正確に言えないことをジョークに使っていたようですが、この長さなら本当でも納得できますね。
逆に省略し過ぎでカワイそうなのが「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。つい「ダ・ヴィンチ」と呼んでしまいますが、これは地名をあらわすだけ。名画モナ・リザの作者を指すにはかなり残念な呼び方なのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは「ヴィンチ(地方)」の「レオナルド」の意味で、例えるなら「東京の山田さん」のような構造。ダ・ヴィンチは「姓」ではありませんので、恐れ多い気もしますがレオナルド! と呼ぶべきなのです。
■改名できたのは「清作さん」のおかげ
伝染病研究の権威・野口英世は、もとの名は清作(せいさく)。ところが「気に入らない」を理由に、強引に「英世」に名を変えた人物です。
名前を変えたのは明治31年、22歳のときでした。ご存じのように、結婚や養子縁組で姓が変わることはあっても、名前の変更は至難の業。ところが清作は、当時流行していた小説の登場人物「野々口清作」と似ているという理由だけで、ムリヤリ改名したのです。
その方法は、
・別の「清作さん」を見つける
・近所の「野口家」の養子になってもらう
その後、同姓同名のひとが近くに住んでいると混乱する、と届け出て、みごと改名を認めてもらったのです。
誰もが知っている野口英世の「名」は、「別の清作さん」の功績と呼ぶべきかも知れません。
■まとめ
・ピカソの本名はパブロ・ディエゴ・ホセ ~ ピカソと、とんでもなく長い
・ダ・ヴィンチは、ヴィンチ出身の意味。人物を指すなら「レオナルド」
・野口英世は「小説」が原因で改名した
(関口 寿/ガリレオワークス)