お正月映画として12月に公開されたアニメ「ガールズ&パンツァー劇場版」。1月14日には興行収入9億円を突破という好調ぶり。
「そんなん知らん」という人のために簡単に説明すると、物語は、戦車に乗って模擬戦を行う競技「戦車道」が、華道や茶道と同様、"乙女のたしなみ"として行われている世界が舞台。女子高生が、第二次世界大戦中の各国の戦車を乗り回して戦うという、いろいろツッコミどころ満載の設定ながら、一方では戦車の描き方や動かし方など、実車ディテールを細かく追及していて、実車の開発史、戦歴などのうんちくも散りばめられている。その「トンデモさ」と「マニアックさ」のブレンド具合の絶妙さで、2012年のテレビ版放映時から根強い人気がある。略称は「ガルパン」。
ちなみに題名の「パンツァー」とは、ドイツ語で戦車のこと。「&」の部分もそれに合わせて、アルファベット表記では「GIRLS und PANZER」と、ドイツ語表記になっている。
主人公の通う学校は「大洗女子学園」。なぜかこの世界の学校は空母形式の巨大な船の上にあるが、その母港は校名にある茨城県大洗町。現実の大洗町では、TV放映時から、「ガールズ&パンツァー」を積極的に町おこしに活用。商店街にはアニメのキャラクター・ポップを設置、関連のご当地グッズも多数投入、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線にはラッピング車輌も登場するなど、多方面の展開を行っている。
さらに、この「ガルパン」人気に引きずられて、このところ売れ行き好調なのが、戦車のプラモデルだ。
そもそも、飛行機や戦車のプラモデル――いわゆるミリタリーもののスケールモデルが「子供の趣味」だったのは30年、40年前のこと。その後、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)やミニ四駆のヒットはあったものの、ミリタリーのスケールモデルのファン層は確実に高年齢化している。子どもが家でする遊びの中心はゲームに移り、現在の20代以下なら、「プラモデルなんて作ったことがない」という人も多いはず。
実際、現在の戦車のプラモデルは、最も標準的なスケール(1:35)で4,000~5,000円以上は普通、部品も細かく、完全に「大人の趣味」化している。それだけに、1アイテムごとの売り上げは、それほど多数が見込めるものではなくなっているのが現状なのだが……。
それが、「ガルパン」放映以来、特にこのアニメに登場する車種の売れ行きが上昇。かつてガンプラやミニ四駆でちょっとプラモデルをいじったことがあり、工作にはそこそこ馴染んだ人ばかりでなく、このアニメをきっかけにプラモデルに初挑戦してみようという人も現れている。そんな人たちに向けて、模型専門誌でも「ガルパン」特集を組み、初心者向けハウツーを掲載したり。また、模型メーカーでも、「ガルパン」とのタイアップで、主要車種についてはアニメの絵をボックスアートに使い、アニメ内でのチームのマークなどもセットしたスペシャル版を何種も発売している。
もちろん、その戦車キットの売れ行きには、「その戦車が格好いいかどうか」だけではなく、「アニメの中でどれだけ印象的だったか」も関係している。それを象徴しているのが、今回公開された劇場版に登場した、「継続高校」が使うBT-42という戦車。
このBT-42は、第二次世界大戦中、フィンランド軍が使った火力支援用の戦車なのだが、その出自は一風変わっている。敵国ソ連から鹵獲した旧式戦車BT-7に、これまた余剰になっていたイギリス製の旧式大砲を載せて魔改造。たった18両だけ作って、大戦後半に戦線に投入したというしろもの。大きな旧式大砲を載せたため、改造後の姿は頭でっかちで、お世辞にも格好いいとは言えない。しかも実車はあまり満足な活躍もできず、多くを破壊されて終戦を迎えている。
もっとも、その魔改造ぶりと、非力でも一矢報いようとする姿が、大国ソ連に押されつつも独立を守り通した小国フィンランドを象徴すると、戦車ファンのなかでもコアな一部からは人気のあった車両だった。ちなみに、「ガルパン」内でこの車両を使っている「継続高校」の名前も、ソ連vsフィンランド戦争の第二ラウンド「継続戦争」(1941~1944年)から取っている。
もちろん、前述のようにこの戦車の人気は「戦車ファンのなかでもコアな一部から」程度だったので、日本の模型メーカー、タミヤからこのキットが発売されたときには、ファンにも「まさかタミヤからこんな車種が出るとは」と大いに驚かれたほど。
そんなマニアックな車両が、「ガルパン劇場版」に出演したがために人気爆発。年始にはあちこちの模型店で売り切れ、amazonほかで模型ジャンルの人気上位にランキングされるも、こちらも品切れという、およそいつものスケールモデルの世界にはありえない状況となった。ちなみに入荷待ち状態は現在もなお一部で続いている。
昔からの戦車模型ファンの間からは、アニメに興味がない人でも「これでちょっとは模型が売れて、新製品が出るきっかけになれば」と、なんだか町おこしに期待する自治体のような声も。なかなかスケールモデルの「大ヒット商品」は望めない模型メーカーでは、「次回作にはウチで出ている車種が活躍してほしい」なんて希望も渦巻いている……かも。