愛情を込めて育ててきた我が子が、実は自分と血がつながっていなかった―—。そんな衝撃の事実が発覚したら、育ててきた父親は、戸籍上の「父親」であり続けるのでしょうか?
女友達から「うちの子、元カレと浮気してできた子なんだよね」と、打ち明けられた男性がネットに投稿しました。男性によれば、女性の夫は「我が子でない」ことを知らないそうですが、成長すれば、似ていないことに気づくかもしれないと指摘します。
もし「我が子ではない」と知っても、それまでに築いた親子関係から「父親であり続けたい」と思う人もいれば、「血のつながりはないから、これからはもう『他人』」という考える人もいるようです。
血のつながりがないことが発覚した場合、「戸籍上の父」は誰になるのでしょうか? また、「他人の子を生んだ」という理由で、妻との離婚は認められるのでしょうか? 富永洋一弁護士に、詳細な解説をしていただきました。
A. 誕生から1年経ったら「父子関係は取り消せません」
我が子が、自分と血がつながっていなかった・・・。考えるだけで身の毛がよだつ話でしょう。ここには、法的に様々な問題が潜んでいます。
まず、ご相談者の友人の女性は、結婚しているにも関わらず、元交際相手と不倫関係にあったわけです。
つまり、「不貞行為」をしたとして、離婚の理由となります。
また、子どもの本当の父親のことを夫に隠している点も、夫婦間の信頼関係を損なう事情として、離婚理由となるでしょう。夫は、妻と元交際相手の男性に対して、不貞行為を理由に慰謝料を請求できます。
次に、夫と子どもの親子関係はどうなるのでしょうか。
親子関係は基本的に、生物学上、血のつながりがある場合に認められます。
もしも、ご相談者の友人がDNA鑑定を行えば、父子関係が存在しないと科学的に明らかになるでしょう。
しかし、戸籍上の父子関係は存在しています。なぜなら、婚姻してから二百日後に産まれた子、もしくは離婚してから三百日以内に産まれた子の父親は、原則として夫と推定され、父子関係が発生するからです。
戸籍上の父子関係を削除するためには、次のような手続きを行う必要があります。
・嫡出否認の訴え
・親子関係不存在確認の訴え
「嫡出否認の訴え」とは、父親が「この子は自分の子ではない」という旨の裁判を起こすことです。ただし、この裁判を起こせるのは「子どもが生まれたことを知ってから一年」(民法七七七条)です。
もう一つの「親子関係不存在確認の訴え」とは、母が子の代理人として、「子どもは夫の子ではない」という旨の裁判を起こすことです。この裁判は、夫婦の一方が服役していたなど、性交渉ができず、妻が夫の子を妊娠することが物理的に不可能だと明らかな場合にのみ起こせます。
こうした問題について、二〇一四年七月の最高裁判決では、戸籍上の父親であることを否認する訴えは「夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない」という民法七七七条を厳格に解釈しました。
すなわち、DNA鑑定で生物学上の父子関係がないと分かっても、子どもの誕生を知ってから「一年以上」経っている場合、いったん定まった父子関係は取り消せない、ということです。
ご相談者の友人のケースで、もしも夫が子どもの誕生を知ってから一年以上経っている場合、戸籍上の父は、元交際相手ではなく、夫になります。
このように、婚姻中に夫以外の子を妊娠・出産することには、様々なリスクがあるのです。
【取材協力弁護士】
富永 洋一(とみなが・よういち)弁護士
東京大学法学部卒業。平成15年に弁護士登録。所属事務所は佐賀市にあり、交通事故、離婚問題、債務整理、相続、労働事件、消費者問題等を取り扱っている。
事務所名:ありあけ法律事務所
事務所URL:http://ariakelaw-saga.com/