報道圧力を続ける安倍晋三政権と、それに屈するメディアに業を煮やした視聴者の直接行動が徐々に広まっている。
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http://biz-journal.jp/2016/01/post_13516.html
政権にべったりのNHKに対する視聴者の直接抗議行動は、昨年8月に始まり年末までに4回行われた。これに引き続いて、『NEWS23』(TBS系)のアンカー・岸井成格氏降板を批判する動きが昨年9月からインターネット上で起きているが、実際にTBS放送センター前の街頭で直接アピールする行動が1月17日の朝にあった。
日曜日の朝9時30分、東京赤坂のTBS放送センター近くに十数名の市民が集まり、「岸井さん応援しています」「表現と言論の自由を」「岸井さん元気出して!」「報道弾圧許さない」「岸井さん続投して!!」などというプラカードを一斉に掲げた。
抗議行動2日前の1月15日、TBSでは岸井氏が3月で『NEWS23』を降板し、“スペシャルコメンテーター”なるものに就任することが発表されていた。
政府と自民党の“広報機関化”しているNHKに対しては抗議がメインであるのに比べ、TBSへの働きかけは、批判もあるが激励と応援が強かったのが特徴的だ。
リレートーク終了後は、「岸井成格さん『NEWS23』キャスター降板を許さない市民有志一同」が作成した、TBSの井上弘会長、武田信二社長、津村昭夫取締役(編成局担当)、伊佐野英樹・編成局長宛ての「要請文」を渡すため受付に向かったが、警備員らに阻止されて渡すことができなかった。
今回の行動は、「ザ草の根街頭アピール」と称してさまざまな問題を市民個人が街頭で訴える活動をしている西尾典晃氏らが急遽実行したもの。これまでの街頭行動で知り合った人や、インターネットを通して今回の行動を知った人が集まったという。
呼びかけ人の西尾氏は次のように語る。
「『報道ステーション』(テレビ朝日)の古舘伊知郎氏の降板、『クローズアップ現代』(NHK)の国谷裕子氏の降板検討に続いて、岸井氏の降板です。スペシャルコメンテーターという役割を新たにつくったとはいっても、『NEWS23』のアンカー降板という事実に違いありません。
自民党はBPO(放送倫理・番組向上機構)にもクレームをつけるなど、言論統制を強めています。こうしたことに市民が直接抗議することが必要だと考え、行動を呼びかけたのです」
●「政治家こそ放送法の精神を守れ!」
岸井氏が圧力をかけられたきっかけは、昨年9月の安保関連法の強行採決直後、「メディアとしても(安保関連法の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と発言したこと。
これに対して、安倍政権を応援する識者らが11月14日に産経新聞、15日に読売新聞に意見広告を出した。その内容は、「岸井氏の発言は、この放送法第四条の規定に対する重大な違法行為」であるとして個人攻撃をするものであった。
放送法第4条には、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定されている。
しかし、意見広告は「権力に批判的な報道が違法」といった主張であり、安倍政権の“意見”と同じだ。
TBSへの抗議行動の現場にいち早く駆けつけた男性は、このように言う。
「私たちはメディアを通して主要な情報を得ています。安倍政権が圧力をかけて報道を弾圧し、メディアが委縮したら本当のことを知らされない状態になってしまいます。これは本当に怖いことです」
西尾氏と共に今回の行動を呼びかけた長岩均氏は、「(11月に掲載された)意見広告は個人攻撃です。放送法は、戦前戦中の反省から放送の自由のためにできたはずです。メディアやコメンテーターより、政治家こそ放送法を遵守すべきだ」と指摘した。
まったくの正論であり、政府や与党政治家こそが法を守るべきなのだ。千葉からやってきた20代の男性は、「故筑紫哲也さんがキャスターをしていた頃から、『NEWS23』は置き去りにされた沖縄の視点を忘れずに真摯に報道していた。今でもその精神が受け継がれているはず。がんばってほしい」とエールを送る。
●TBSは門前払い
リレートークを終えた人たちは、TBS放送センター受付に向かって要請文を持って進んだが、正面入り口で複数の警備員らに阻まれた。
「受付に渡すので後日、担当者に伝えてください」
「受け取れません」
「受付に渡すだけでもお願いします。それをTBSさんがどう判断するかはそちらの話」
「アポイントがないと受け取れません」
この繰り返しで埒(らち)が明かず、代表者が要請文全文を読み上げて退散した。日曜日で担当者が不在だったかもしれないが、一応は受付で預かり、どうするかは後に社が判断する、という姿勢で臨むべきだったのではないか。何しろ要請書の締めくくりは、「共に頑張りましょう」と呼びかけるものなのだから。
日曜日の朝だったため警備会社職員の判断で受け取り拒否になったのかもしれないので、後日TBS広報部に確認すると、視聴者らが要請文を届ける行動があったことを「確認できません」との回答だった。市民有志らは、あらためて郵送でTBSに要請文を発送することにしている。
要請文のポイントは、次の通り。
「(アンカーの降板は)意見広告による圧力前に比べて明らかに後退であり、報道機関やジャーナリスト個人に対する不当な弾圧、それらにとって不都合な報道を控えるような“忖度”を求めるあらゆる圧力に屈することなく、自由と民主主義、そして立憲主義・憲法を守る本来の報道機関として、その使命と責任を今後も貫いていただきたいと要望いたします」
●自民党メディア圧力小史
それにしても、自民党と政府のメディアへの介入は執拗である。こうした異常事態をあらためて列挙し把握する必要があるだろう。
・2014年12月、総選挙直前に自民党がメディア各社に「公正な報道の要請」
・15年3月27日、『報道ステーション』のコメンテーターの古賀茂明氏が、官邸からの圧力を生放送中に暴露
・15年6月25日、自民党の勉強会で大西英男議員が「マスコミを懲らしめろ」と発言
・15年11月6日、BPOが「自民党がやらせ問題でNHK関係者を事情聴取したのは圧力そのもの」と報告。高市早苗総務大臣がNHKに厳重注意したことも問題視
・15年11月14・15日、岸井氏攻撃の意見広告
・15年12月24日、テレビ朝日が『報道ステーション』古舘氏は3月に降板すると発表
・16年1月8日、『クローズアップ現代』で菅官房長官に集団的自衛権問題でするどく質問した国谷裕子キャスター降板との報道
・16年1月15日、『NEWS23』岸井氏降板、スペシャルコメンテーター就任が発表される
こうした流れのなかで、一般の視聴者が行動していることに対して、メディア内の幹部はどう応えるのだろうか。
(文=林克明/ジャーナリスト)