ミドリムシが、この5年で6倍も売れたワケ | ニコニコニュース

体長0.1ミリ以下のミドリムシ(学名:ユーグレナ)
ITmedia ビジネスオンライン

 「ミドリムシ」が大量に増えている――。

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 数年前、このようなことを書けば「えー、マジで! 青虫が増えたら大変じゃないの?」と思った人も多かったはず。しかし、いまは違う。「ミドリムシ」または「ユーグレナ」といった名前の商品が、スーパーやコンビニなどで販売されているので、認知度が広まりつつある。とはいえ、一度は聞いたことはあるけれど、よく分からない……という人もいらっしゃるはずなので、ここで簡単にご紹介しよう。

 ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の体長は0.1ミリ以下で、藻の一種である単細胞生物。植物と動物の間の生き物なので、両方の栄養素を作りだすことができるのだ。栄養素の数は、なんと59種類にも及ぶ。2005年12月に世界で初めて、ユーグレナという会社がミドリムシの大量培養に成功した。

 そして、10年の月日が流れて、いまはどうなっているのか。ここ5年で、売上高が約6倍に拡大するなど“売れに売れている”のだ。2016年度も引き続き好調で、生産現場で働く人たちは正月休みを返上してフル稼働でミドリムシを増やしていたという。

 それにしても、なぜこれほどまでにミドリムシが売れているのか。ユーグレナの出雲充社長に、その理由に聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●ミドリムシを大量に増やしている

土肥: ミドリムシは藻やワカメの仲間ということですが、それでも名前でかなり損をしていると思うんですよ。私の知り合いに、緑汁(ユーグレナの商品)を見せて「これミドリムシでできているけど、飲む?」と聞いたら「ぎゃー! 虫なんて飲めるわけないじゃない」と叫んでいました。このように、まだまだ認知度は広まっていないように感じるのですが、なぜ売れているのでしょうか?

出雲: 2011年(9月期)の売上高は11億円ほどでしたが、その後、16億円、20億円、30億円、59億円ほどになって、今年は110億円ほどを見込んでいます。この数字の裏にどんな意味があるのか。当たり前のことですが、数字が増えれば増えるほど、ミドリムシを大量に増やさなければいけません。

 当社は石垣島にミドリムシを培養するプールを所有しているのですが、売り上げが6倍になったからといって、設備を6倍にするわけにはいきません。あらゆる部分の効率化を図ったり、人員を増やしたり、生産時間を増やしたりして対応しています。

 日本の人口が5年で6倍になればどんな世の中になると思いますか? 通勤電車に乗るサラリーマンは大変なことになりますよね。それと同じようなことが、いまミドリムシの世界で起きているんですよ。

土肥: ふむふむ。

出雲: でも、お客さまからすれば、われわれのそんな事情は関係ありません。「注文をしたのに、どうして届かないの?」とご不満に感じられるはず。

土肥: メーカーの予想を上回る勢いで売れて、ここ数年「出荷休止」に追い込まれる商品がありましたよね。例えば、サントリー食品インターナショナル社の「レモンジーナ」と「ヨーグリーナ」は、発売後すぐに「出荷休止」になりました。しかし「わざと少なめに生産して、市場での枯渇感をあおる“品薄商法”ではないか」といった批判もありました。

出雲: その商品に興味がない人からすれば「ふーん。それがどうしたの?」と思われるかもしれません。しかし「欲しい」と思っている人に、「売り切れです」「2週間遅れます」といった対応をすると、ものすごくがっかりされます。お客さまをがっかりさせるわけにはいかないので、工場をフル稼働させるだけではなく、今後は増やす予定にしています。

売り上げが急増しているワケ

土肥: 売り上げが急増していますが、その最大の要因は何でしょうか?

出雲: 会社を創業して、今年で11年目。スタートしたときに「ミドリムシ」のことを知っていたのは、10%ほどだったと思うんですよ。しかし、昨年自社で調査を行ったところ、ミドリムシの認知度は50%ほどに増えていました。

 10%のときって、本当に大変だったんですよ。スーパーで「ミドリムシコーナー」などをつくっていただいて、積極的に販売していたのですが、売場の前を通る人たちからは「イモムシなの?」「アオムシなの?」「ケムシなの?」といった反応でした。ミドリムシのことを「虫」と勘違いされていました。

 私も売場によく足を運んだのですが、そうした声を聞くたびに「これは虫ではないんですよ、昆布やワカメの仲間なんですよ」と説明していました。10人に1人くらいは「知ってる、知ってる、ミドリムシでしょ」と言っていただけましたが、残りの9人は「虫でしょ」といった感じでした。

 ミドリムシのことを知らない人たちに説明するって、ものすごく大変なんですよ。当然、コストがかかってしまう。しかし、創業してから10年が経ち、認知度は50%になりました。「50%」と聞くと、「それはスゴい」と思われるかもしれませんが、当事者としては「一番難しいタイミング」だと受け止めています。

土肥: それはどういう意味でしょうか?

出雲: クルマが日本の道路を初めて走ったのはいつごろなのか、いろいろな説がありますが、今から110年以上前の1900年ごろ……明治時代に外国からやって来たと言われています。いま日本では「クルマは左側通行」が当たり前になっていますが、当時は決まっていませんでした。自由に走っていたんですよね。ある人は右側を走っていて、ある人は左側を走っていて、ある人は真ん中を走っていて。自由に走行していたので、当然事故も増えていきました。

●認知度50%のいまが難しい

出雲: このような状況を受けて「このままではいけない。なんとかしなければいけない」といった声が増えてきたのではないでしょうか。そうした声が50%くらいになるころが、事故は最も多かったはず。そして、50%の人が「左側通行にしよう」となって、その後も左側を走るクルマが増えて、100%になったときに事故は激減したのではないでしょうか。

 このように新しい技術やモノが社会に導入されるときというのは、50%の人に認知される、50%の人に使ってもらう。そのようなタイミングが一番難しい。

土肥: ミドリムシの認知度は50%……つまり、一番難しいと?

出雲: はい。日本でクルマの左側通行が定着したときのように、いまは「ミドリムシが定着するかどうか」のタイミングだと思っています。そうしたタイミングで「売り切れです」「2週間遅れます」という対応をしていると、お客さまは離れていくのではないでしょうか。「ミドリムシがないのなら、違う商品にするか」といった感じで。そういう人たちが増えてしまうと、認知度は50%になったけれども、数年後には「そーいえば、一時期ミドリムシが流行ったね」となってしまうかもしれません。

土肥: 「あの人はいま?」ではないですが、メディアから「あのミドムリシはいま?」といった形で取り上げられてしまう。「当時のことをよく知る出雲社長に直撃インタビュー!」などが企画されそう(苦笑)。

出雲: そうした取材を受けないためにも、いまは多少無理をしてでも、お客さまの手元に商品を届けなければいけません。認知度が6割を超えれば、クルマの左側通行のときと同じように、社会に定着していくのではないでしょうか。

認知度をアップさせた方法

土肥: 認知度が50%になったということですが、どのようにしてアップさせることができたのでしょうか?

出雲: 創業後にミドリムシを原料にしたサプリメントを販売していました。商品名に社名の「ユーグレナ」を入れました。なぜ入れたかというと「ミドムリシ」だと、どうしても「えっ、虫なの? そんなモノを口に入れるなんて考えられない」といった拒否反応をされるかもと思ったから。で、社名であり学名のユーグレナを使用したのですが、まったく売れなかったんですよ(涙)。

 これではイカンということで、2009年から「ミドリムシ」をネーミングに使った「ミドリムシクッキー」という商品を発売しました。この商品はものすごく売れました。いまこうして振り返ってみると、この商品は当社にとってターニングポイントになりました。とはいえ、まだまだ多くの人が「ミドリムシ」と聞いて「ムシ、ムリ」といった拒否反応をされていました。ただ、商品名に「ミドリムシ」を入れることで、ミドリムシが少しずつ認知されていきました。

 そして、あるマーケティングを試みたんですよ。商品の中身は同じなのですが、東日本で「飲むユーグレナ」、西日本で「飲むミドリムシ」を発売しました。

土肥: 結果は?

出雲: 西日本の「飲むミドリムシ」がぐーんと売れて、しばらくしてから、東日本の「飲むユーグレナ」がぐーんと売れていきました。いまでは2つの商品は同じくらい売れているのですが、その結果どういった効果が生まれたと思いますか。「ユーグレナといえばミドリムシ」「ミドリムシといえばユーグレナ」といった感じで、両方がつながった形で認知が広まっていきました。

土肥: 会社名と商品名がつながっていないケースはたくさんありますよね。例えば、セロテープ。ほとんどの人は一度くらい使ったことがあると思うのですが、どの会社が作っているのか知っている人は少ないのではないでしょうか。答えは「ニチバン」という会社。一方、自宅の洗濯機はどこのメーカーのモノを使っている? と聞かれて「日立」「パナソニック」「東芝」といった具合に答えることができる人は多いと思うのですが、「では、製品名は?」と聞かれると、答えることができる人は少なそう。

電報で注文する人も

出雲: 冒頭で、創業時は認知度が低かったので、説明することの苦労に触れましたが、会社名と商品名がつながっていくことでその苦労から少しずつ解放されていくようになりました。誰かが飲んでいることを口コミで知り、そしてスーパーやコンビニで購入して実際に口にする。「飲んで」または「食べて」みることで「おいしい」と感じていただければ、次に「定期的に購入してみようかなあ」となる。結果、インターネットでの定期購入がものすごく増えました。

 ちなみに、年末に当社の電話がつながらない状況が続きまして……。

土肥: 年末に? 何があったのでしょうか?

出雲: テレビの情報番組で商品を紹介していただいて、その後電話が鳴りっぱなしで。その日だけで、2万件の電話をちょうだいしました。

土肥: なんと。

出雲: 「お前の会社には、電話が一台しかないのか」といった感じで、お叱りの言葉をたくさんいただきました。電話はその日だけでなく、次の日も、その次の日も鳴りやみませんでした。会社に電話がつながらないので、ある方は電報で注文されました。これにはびっくりしました。たくさんの注文をいただいていたので、配達に時間がかかる予定でしたが、電報までいただいたときには「できるだけ早く届けよう」と決断しました。結果、従業員に無理をさせてしまって……迷惑をかけてしまいました。

土肥: なんだか某アイドルグループの謝罪の場のようになってきましたが(笑)、石垣島にあるミドリムシを培養するプールの生産能力を上げるだけでなく、増やす予定でもあるんですよね。

出雲: はい。繰り返しになりますが、いまの認知度は50%ですが、少しずつ上げていかなければいけません。

(終わり)