愛国政策の拠点として、中国全土で日中戦争の戦跡や抗日戦争紀念館などの整備が進められている。そんな中、1月6日に北京市内でオープンした新しい博物館も、当局による思惑が詰まったものとなっている。
その名は、中国法院博物館新館。展示内容は、中国古代から現代までの裁判の歴史に関するもので、「新京報」によると、中国の法治国家としての歩みを発信する拠点として新設されたという。
同紙によると、展示の目玉のひとつは、昨年6月に無期懲役の判決が下った周永康や、重慶市長在任中に失脚した薄熙来など、最近汚職で失脚した元大物政治家たちの裁判資料や証拠品の数々だ。
しかし、もうひとつの目玉が、「正義的審判」と題されたコーナーだ。展示されているのは、中国で裁かれた日本人戦犯たちの供述書や裁判資料の数々である。
中華人民共和国の建国後、1,109人の日本人が戦犯容疑で中国に拘留された。その後、1956年6~7月に遼寧省の瀋陽市と大連市で行われた特別軍事法廷では、45名の日本人戦犯に有罪判決が下され、8~20年の有期刑が下されている。
同館に実際に足を運んだ、中国在住フリーライターの吉井透氏はこう話す。
「日本人戦犯を裁いた特別軍事法廷を『中国の司法のもと、外国の干渉を受けず、外国人侵略者を裁いた最初の事例』と、絶賛していました。また、日本人戦犯のひとりである鈴木啓久中将の『約60名の中国人女性を誘拐し、慰安婦にした』という証言を大々的に取り上げていた。法院博物館の名を借りてはいるものの、南京大虐殺紀念館や抗日戦争紀念館などと同列の施設であることは明白でしょう。当日も、課外活動で訪れた地元の中学校の一団が、展示について説明する博物館員の話に耳を傾けていました」
ちなみに同館の建物は、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)の前身となった横浜正金銀行北京支店として建てられたものという皮肉付きである。
(文=青山大樹)