伊藤賢治氏プロデュースの『聖剣伝説』25周年記念ライブをリポート! トークパートでは石井浩一氏らが思い出を語る | ニコニコニュース

文・取材:ライター リプ斉トン

●美しきマナの調べに酔いしれる

 1991年にゲームボーイで第1作が発売されたスクウェア・エニックスの人気RPG、『聖剣伝説』シリーズ。その生誕25周年を記念する、伊藤賢治氏プロデュースのライブイベント“SQUARE ENIX Presents 聖剣伝説LIVE ~Echoes of Mana~ Produced by Kenji Itoが”中野サンプラザホールにて2016年1月30日に開催された。

 懐かしさとともに、これからのシリーズの展開への期待をもたらしてくれた、今回のライブイベントの模様をリポートする。

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●演奏だけじゃない! 開発秘話も飛び出したライブイベント

 開演後1曲目に演奏されたのは、原作でもオープニングで聴くことができる『Rising Sun』。伊藤賢治氏はおもにピアノを担当し、ギター、ドラム、弦楽器などのバンドメンバーがそれをサポート。原作同様の、どこか物悲しくも温かみのある演奏で、来場者は序盤から一気に『聖剣伝説』の世界に引き込まれていった。

 1曲目の演奏が終わり、伊藤氏が挨拶。「『聖剣伝説』25周年でもある今年、こんなにたくさんのお客さんに応援していただき、ライブを開催することができました。『聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-』は僕が当時のスクウェアに入社して、初めて単独でサウンドを担当したタイトルで、非常に思い入れがあります。今日は僕も泣くと思います(笑)。楽しみながらやっていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします」とコメントし、つぎの演奏へと入った。

 続いて演奏されたのは、『Requiem レクイエム』と『果てしなき戦場』。『Requiem レクイエム』のゆったりとした演奏から一変、『果てしなき戦場』では激しいギターサウンドが鳴り響く。『果てしなき戦場』はフィールドで流れる音楽なので、ファンにとってはとくに印象に残っている曲のひとつだろう。

 つぎの『村』~『王宮のテーマ』のメドレーでは、伊藤氏がピアニカで演奏する一幕も。穏やかな演奏と激しい演奏の入り乱れる楽曲構成が、来場者の耳と思い出を刺激していく。

 『王宮のテーマ』を演奏した後は、トークセッションに下村陽子氏と菊田裕樹氏が登壇。菊田氏は『聖剣伝説2』、『聖剣伝説3』の楽曲を担当し、下村氏は『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』、『聖剣伝説 HEROES of MANA』の楽曲を担当している。シリーズの25年の歴史を作ってきた3名が、昔話に華を咲かせた。

 伊藤氏は「植松(伸夫)さんが『サガ』と『聖剣伝説』どっちを担当したい? と僕に聞いてきて、僕は『聖剣伝説』がいいですと答えたんです。そうしたら植松さんは1日経ったあとに、「『サガ』やってみろ。イトケンは甘いところがあるから、河津さん(スクウェア・エニックスの河津秋敏氏。『サガ』シリーズを手掛けるプロデューサー)に揉まれてこい」って言ってきて(笑)。前の日の質問はなんだったんだって。そこから僕の『サガ』人生がスタートしたんですが、『聖剣伝説』はその後に当時のスクウェアに入社した菊田さんが担当することになったんですよね」と当時のことを語った。

 菊田氏は「まだ若かったから、心配というか、どうしたらいいんだろうっていう気持ちが大きかったですね。ひねくれてたんですよね。わりと当時のスクウェアって、僕もそうなんですが、何かコンプレックスを持っている人が多かった印象があります。そのコンプレックスをバネにしていいものを作ってやるって意識があって。『聖剣伝説2』の少し変わった楽曲も、そういうことの表れなんじゃないかと」と入社当時の思い出を語っていた。

 伊藤氏が下村氏に当時の思い出を聞くと、下村氏は「ほかのプロジェクトでアメリカに行っていたときに、石井さん(石井浩一氏、『聖剣伝説』シリーズの生みの親)から「新しくRPGを作るんだけど、いい人いませんか?」とメールがきまして。私は「皆さん才能あるし、この人はこういう音楽が得意です」といった返信をしたのですが、2日くらい経ってから「つぎの『聖剣伝説』はキミに頼むことになったから」と石井さんからメールで言われて、『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』の楽曲を作ることになりました。ずっと「ファンタジーなRPGをやりたい」と思って当時のスクウェアに入ったので、このゲームでようやく念願が叶ってうれしかった反面、すばらしい先輩方が名曲を作られてきたシリーズなので、プレッシャーがありましたね」とコメントした。

 さまざまな思い出トークが飛び出し、盛り上がったトークセッション。菊田氏は最後に、「あれから25年が経過しましたが、その25年で一生懸命いろいろなことをして、センスを磨いてやってきました。そんな姿を見ていただきつつ、これからも曲を聴いていただきたいです」とコメント。下村氏は「私も、あれからもう何年経つんだなと思いながら、いまも新しいタイトルの楽曲を担当させてもらっています。そして、こうやって懐かしい人たちと顔を合わせることもできて、幸せな作曲人生だと思っています。ぜひこれからもがんばっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」といまの気持ちを語っていた。

 最後に伊藤氏が、「今回は僕の楽曲がメインのライブですけど、今後機会があれば3人合同のライブができたらいいですね」と言うと、会場からは多くの拍手が。機会があれば、『聖剣伝説』全シリーズの名曲を聴けるライブが開催されるかも? ちなみに、菊田氏のお気に入りの曲は、『聖剣伝説2』の『天使の怖れ』。下村氏のお気に入りの楽曲は『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』の『ホームタウン ドミナ』と『滅びし煌めきの都市』とのこと。

 トークセッションの後、ボーカリストの藤本記子さんを加えて『マナの使命』、『哀しみのなかで』、『想いは調べにのせて』を演奏。藤本さんの「ラララ」と口ずさむヴォカリーズと演奏のハーモニーを堪能できた。いずれも切ない雰囲気の漂う楽曲で、このパートでは皆、藤本さんの歌声と演奏にじっと耳を傾けていた。

●『聖剣伝説』シリーズのクリエイター2名が登壇

 藤本さんボーカルの楽曲が終わると、ここで第2回のトークセッションに。シリーズの生みの親である石井浩一氏と、近年の『聖剣伝説』シリーズのプロデューサーを務める小山田将氏が登場した。

 このトークセッションでは、石井氏と伊藤氏が当時の開発トークにて盛り上がる。石井氏は「ずっと作りたかったアクションRPG。しかも、物悲しいストーリーがあるゲームを作りたかった。開発は少人数かつ、初めて仕事をする人ばかりで、作れるかな? と当時は思っていたけれど、誰ひとり欠けても第1作は完成しなかっただろうなと、いまになって思う」と当時の思い出を語った。また、「イトケンの曲は何回もボツを出しちゃったけど、直してきた曲をオーケーしたときの「よし」ってうれしそうな顔を久々に思い出したね」とも語った。

 小山田氏は「25年前というと、自分は当時7歳。25年の時を経て、こういうふうにシリーズに関われるとは夢にも思わなかったですね。もともとガラケーのアプリ用に第1作を移植させていただいたときに、石井さんともやり取りをさせていただいたのですが、その時に、当時は容量の都合で実装できなかった要素がいくつかあるということを教えていただきました。リメイク版では、当時の石井さんの思い入れとともに、それらを反映しています」とリメイク版への想いを語った。

 その後も思い出トークは続く。小山田氏が第1作をリメイクするときに、当時の上司だった田端氏(田畑 端氏。『ファイナルファンタジーXV』などを手掛けるスクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター)に「小山田くん、『聖剣伝説』やるなら、石井さんに感想文出さないとダメだめだよ」と言われたとのこと。その感想文を手紙で読んだ石井氏は「自分が作ったものをこれだけ愛してくれて、作らせてくれって言われてすごくうれしい。そういう人には、作ってもらわないわけにはいかない」と胸のうちを語った。

 また、このトークセッションにて、第1作のリメイクであるプレイステーション Vita、iPhone、Android向けアクションRPG『聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-』の配信日が2016年2月4日であると発表。小山田さんは「少し前に『聖剣伝説 RISE of MANA』のサービス終了を発表させていただきましたが、『聖剣伝説』シリーズは今後も展開を続けていきたいと思っています」と語った。

 ライブもいよいよ後半戦。トークセッションの後に演奏された『聖剣を求めて』は、『果てしなき戦場』と同じくフィールドで流れる楽曲のため、第1作をプレイしたことがあるなら必ず覚えていると言えるほどの有名な曲だ。つぎの楽曲は、ボス戦で流れる『戦闘1』。前半のバラードを中心とした曲目とは対称的に、ライブの後半は終始激しいサウンドで展開され、ますますの盛り上がりを見せていく。

 続いて演奏された『マナの神殿』は、物語の終盤で聴くことができる楽曲。今回のライブの演目は、ゲームの進行に倣って楽曲が編成されており、ライブもいよいよクライマックスであることを実感させられていく。

 『戦闘2-勇気と誇りを胸に-』と『最後の決戦』は、どちらもバイオリンとシンセサイザーの激しいメロディーが特徴な"イトケン節”が炸裂している激しい楽曲だ。

 ライブ本編最後の楽曲はもちろん、原作のエンディングで流れる『伝説よ永遠に』。ステージ上には、ゲームボーイ版のエンディングのシーンが流れる演出が。来場者は目と耳で、『聖剣伝説』の世界を味わうことができた。

 そしてアンコールには岸川恭子さんを迎えて、『聖剣伝説DS Children of Mana』から『マナの嬰児』、『聖剣伝説 RISE OF MANA』から『汝、彼の使いの恐怖を知るや』、『聖剣伝説4』から『愚者の舞』を演奏。アンコールは伊藤氏の「立って盛り上がってください!」というリクエストにより、来場者はスタンディングで手拍子をして演奏を盛り上げた。岸川恭子さんは、伊藤氏が手掛ける『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』の『熱情の律動』のボーカルなどでもおなじみのボイスパフォーマーでもある。岸川さんの情熱的な歌声により、本日のライブは最高潮を迎えた。

 つぎの演奏曲は『聖剣伝説4』から『終わりなき愛』。再び藤本記子さんがステージに登場した。この曲は伊藤氏が手掛ける『Re:Birth/聖剣伝説 伊藤賢治アレンジアルバム』に収録されている楽曲で、原曲をアレンジするにあたり、藤本記子さんが作詞を担当したとのこと。

 そしてアンコールを締めくくったのは、伊藤氏のピアノソロ『Rising Sun』。ライブは鳴り止まない拍手に包まれながら、閉幕となった。

●当時を思い返しながら演奏したライブ

 ライブの終了後に、伊藤賢治氏と小山田将氏にライブの感想を伺うことができた。本日のライブ、そして『聖剣伝説』シリーズにかける想いを語ってもらった。

――ライブイベントを終えての、いまの感想をお聞かせいただけますか?

伊藤氏 『サガ』とは違って、1曲目からじわ~っとオーラみたいなものを感じるライブでした。私も、お客さんのように引き込まれそうになりましたね。

小山田氏 私はファンの目線で聴かせていただきました(笑)。25年前の当時にゲームボーイ版をプレイしたことを思い出しながら、ウルっとくるものがありましたね。『サガ』の熱狂振りとは違った、すごくしっとりとしたライブでしたね。

伊藤氏 下村さんや菊田さんが手掛ける『聖剣伝説』の楽曲と僕の楽曲は雰囲気が違うので、いっしょにライブができたらすごい楽しそうですね。

小山田氏 3人の共演を実現できないかな、って思いますね。

――トークセッションでも語っておられましたが、開発当時の心境を振り返っていかがですか?

伊藤氏 当時はまだ20代で、ひとりで楽曲を任されたということもあって、自分なりにものすごい責任感があって、足掻いていたんですね。その中で、自分らしさを出そうと思いつつ、好きなように作曲させていただいたのが『聖剣伝説』だったのですが、ほとんどの曲を楽曲を見ずに弾けるくらい覚えているので、『サガ』シリーズとは違った思い入れがあります。今日知ったことですが、当時のスクウェアには僕と植松さんしか作曲家がいなくて、僕が『聖剣伝説』の作曲をするのも、「植松さんが忙しいから『聖剣伝説』はイトケンやれよ」って感じだったんだろうなと思っていたんですけど、石井さんから話を聞いたら違ったようなんです。石井さんが僕を抜擢して任せてくれたことを、25年経って初めて聞きました。

――今回のライブはゲームの展開を追っていくような構成になてっていましたが、これにはこだわりがあったのでしょうか?

伊藤氏 はい、こだわりましたね。原作は、当時にしてはかなりインパクトのあるストーリーのゲームで、思い入れのある人もかなりいると思いました。曲もゲームの思い出に倣ったほうがいいだろうと思って、今回の編成にしました。

――25年の時を経て、ご自身が作った曲と向き合われて、いかがですか?

伊藤氏 シンプルだなと。小細工をせず、自分の技を出しつくした曲だったな、といまになって思います。すごく演奏しやすいなとも思いますが、いまならこんなドシンプルな曲作れないなと感じます(笑)。

――中野サンプラザホールのステージに立った感想は?

伊藤氏 うれしかったですね。音がやっぱりよかったです。いろいろなアーティストの方が「ここは音がすばらしい」と言っていて。いつか機会があれば、それを実感したいなとと思っていました。音とか拍手の返りがすごくて、こういう音をたくさんのアーティストの方が聴いていたんだなと思うと、ジーンとしちゃいましたね。

――おふたりにおうかがいしたいのですが、いちばん思い入れのある楽曲はどれでしょうか。

伊藤氏 『Rising Sun』ですね。最初はただのタイトル曲だったんですが、原作の重要なシーンである主人公とヒロインが別れてしまうというところで、この楽曲を使ってほしいと開発にオーダーしたんです。本当はそこのシーン用に新曲を作る予定だったのですが、ここに『Rising Sun』を使ってくれないかと。悲しいシーンだから悲しい曲じゃなくて、やさしくてつぎにつながるものを目指したいので、ぜひ使ってくださいと言ったことを覚えています。「お前、新曲書きたくないだけじゃないの?」って当時は言われましたけど(笑)。その後、ゲームのテストプレイをしていただいたのですが、そのシーンのその曲が流れたところで、感動して涙を流してくれた人もいて、すごく印象深いです。この曲があってこその『聖剣伝説』なので、外せないですね。

小山田氏 自分も『Rising Sun』なのですが、今回は『聖剣を求めて』がかなりグッときています。原作ではチョコボが出てくる場面転換のシーンで聴ける曲ですが、その場面はかなり印象の強いシーンにしたいと思って。2月4日にリリースされるリメイク版も、そのシーンはこだわってイベントを作りこんでいます。

伊藤氏 今日演奏したのは、リメイク版とは異なるコンサート用のアレンジになっていました。ゲームで流れるものとは違ったアレンジなので、今日来た人しか聴けなかったというのがポイントですね。

――最後に、2月4日のリメイク版配信を楽しみに待つファンの方に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。

小山田氏 当時、石井さんたちが容量の都合で収録し切れなかった要素を、リメイク版ではできる限り収録させていただいています。原作のイメージを損なわないようにしつつ、石井さんたちの掘り下げたかった内容がキチンと表現できていると思うので、原作をプレイしたことがある人もない人も、ぜひ遊んでいただきたいと思っています。

伊藤氏 こういうお仕事をさせていただきながら、ぼくはゲームをほとんどしないという人間なのですが、リメイク版はプレイしてみたいと思っています。原作の謎解きは全部覚えているので、懐かしんで遊べそうですね。自分でもできると思いますし、新たな気持ちで遊べそうなので、楽しみです。

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 新しさと懐かしさの両面を感じることのできた今回のライブ。今回のライブのトークセッションや、以前のインタビューでも語られていたが、小山田さんは今後も『聖剣伝説』シリーズを広げていきたいと意欲を見せている。シリーズのファンはまずは2月4日にリリースされる『聖剣伝説 ファイナルファンタジー外伝』をプレイしつつ、今後の展開に期待しよう。