©2014 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
戦後70年を代表する反戦映画の傑作として高い評価を得、2015年度の映画賞を多数受賞した塚本晋也監督の『野火』が、いよいよ5月12日にブルーレイ&DVD化されることになりました。また、同時に塚本監督のこれまでの代表作7作品もニューHDリマスターで7作品一挙リリースされます。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.103》
昨年に続き、塚本ワールドは日本中を席巻する!
過酷な戦場の飢餓からもたらされる太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、敗戦を目前にして飢餓に苦しむ日本兵の地獄を描いた大岡昇平の同名小説を高校時代に読んだ塚本監督は、いつかこれを映画化したいと思い続けておよそ40年、時代がどんどんきな臭くなってきている今、これを作らないと、もう映画化は不可能かもしれないという危機感と使命感を得て、ついに完成させたものです。
ここで描かれる地獄とは、物資の途絶えた南方戦線での飢餓状態からもたらされる狂気の数々であり、そこには赤裸々な人間関係はもとより、人が人を喰らうカニバリズムの恐怖の実態まで描かれています。
また、そういった狂気に陥った者たちに、敵が容赦ない攻撃を敢行していくことで、人の肉体はむごたらしいまでの肉のかたまりと化していきます。
これまで人間の肉体の変貌をテーマにさまざまな傑作を世に出してきた塚本監督による本作の“肉体の崩壊”こそは、まさに塚本作品の原点回帰ともいえるモチーフであり、それを目撃する観客にもたらされるトラウマによって、いかに正義の題目を唱えようとも、戦争がいかにむごたらしく残酷なものであるかを勇気と執念をもって描出していきます。
©2014 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
国の内外で、そして観客から映画『野火』は、15年7月25日より東京ユーロスペースを皮切りに、これまで全国78館で順次上映され続け、現在までに7万人を動員。興行収入は1億円を記録し、年を越した今も凱旋上映が続けられるなど、日本中の映画ファンはもとより、作品の趣旨に共感し、戦争の惨禍を改めて知りたいと望む、老若男女を問わわないさまざまな世代層の熱い支持を受け続けている作品です。
監督自身、これまで58館の上映館を行脚し、各地で作品をPRしつつ、観客との交流を図りながら手ごたえを感じ続けてきたようです。
(当初は作品のテーマに興味を抱く年配層が多かったのが、作品の評価の高さを聞きつけて、徐々に若者層が増えていったのを目の当たりにしていった模様)
これまでに毎日映画コンクール監督賞&男優主演賞、TAMA映画賞特別賞、KINOTAYO現代日本映画祭批評家賞&最優秀撮影賞、キネマ旬報ベスト・テン第2位、高崎映画祭最優秀作品賞&最優秀新人賞(森優作)を受賞。また海外でもヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に選出され、スイスのビルトラウシュ映画祭ではグランプリを受賞しています。
インタビューに答える塚本晋也監督
塚本作品群のブルーレイで「ぜひ劇場で『野火』を浴びてほしい」と、映画館での鑑賞にこだわり、これからも上映活動を促進していく予定の塚本監督ですが、同時にこれからは映画館のない町に住む人にもぜひ『野火』を見ていただきたいという想いから、今回のBlu-ray&DVD化が決定。特に高画質のブルーレイは劇場の臨場感を追体験できることでしょう。
またソフトならではの利点として、映像特典として塚本監督が10代の頃に原作小説に出会ってから映画化に至るまでの詳細を克明に捉えたドキュメンタリー『野火』(塚本晋也監修/60分を予定)を封入。この中には当時の戦争体験者に取材したおりの発言も含まれており(惜しくも完成間際に亡くなられたとのこと)、あの戦争を振り返る意味においても貴重な資料ともなることでしょう。
さらに朗報として、これまで塚本監督が主催する海獣シアターで製作してきた『鉄男』(89)『鉄男Ⅱ THE BODY HAMMER』(92/以上、6月2日発売)『東京FIST』(95)『バレット・バレエ』(98/以上、7月6日発売)『六月の蛇』(02)『ヴィタール』(04)、そして自主映画『HAZEヘイズ/電柱小僧の冒険』(87/以上8月3日発売)がニューHDマスターで3か月連続でブルーレイ化!
©1989 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
こちらも家のモニター鑑賞のみならず、ホール上映なども考慮した画と音の綿密な調整が塚本監督自身の手でなされているとのこと。
それこそスマホでも映画が見られてしまう今だからこそ、劇場での鑑賞にこだわりたいという塚本監督の祈りのようなものがこめられたブルーレイになりそうです。
『野火』は2月6日からユーロスペースで凱旋上映。また全国各地の劇場で再上映が予定されていますが、未見のかたはぜひこの機会をお見逃しなく(ひょっこり塚本監督が来場するかもしれません)。
そしてご覧になられたほとんどの方々は、Blu-rayもしくはDVDを手元に置いておきたくなること必定でしょう。
(文:増當竜也)