1994年、あるベンチャー企業に投資を決めたビル・ゲイツは「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と発言した。彼が投資したのは、インテュイット。PCがオフィスに浸透すると同時に急速に成長し、現在も世界最大手の会計ソフト企業として君臨している。
それから約20年後の、2013年。数多くの金融・決済サービス関連企業が集うカンファレンス「Money20/20」において、あるアンケートが行われた。「新たなイノベーションによって生まれる勝ち組と負け組は?」。負け組の筆頭として挙げられたのは、銀行などの伝統的な金融サービスだ。次世代のサービスを見据える人々は、なぜ銀行の凋落を予見しているのか。
銀行をおびやかすのは、ほかでもない「フィンテック」だ。その名のとおり、金融(ファイナンス)とIT(テクノロジー)を組み合わせたサービスの総称である。最も早くフィンテックが立ち上がったのは、金融サービスのうち、決済関連のものだといわれている。クレジット番号を知らせずとも決済が可能な「PayPal」はその代表格だ。急速に普及したコミュニケーションアプリ「LINE」も、14年より「LINE Pay」を開始した。ネットショッピングの決済だけでなく、LINEの「友だち」に簡単に送金することもできる。
ほかにもアップルやグーグルといったIT業界の巨人たちが、それぞれ「アップル・ペイ」「アンドロイド・ペイ」を提供している。これらは店頭の端末にスマホをかざすことで決済する。「おサイフケータイ」に慣れ親しんだわれわれ日本人からすれば、特に目新しく映らないかもしれないが、決済に限らず、スマホをベースにしたサービスが多いのもフィンテックの特徴だ。身近なところでは、数多くのスマホ用家計簿アプリが生まれている。出入金のたびにいちいち金額を打ち込まなくても、オンラインバンキングと連携させたり、キャッシュカードと紐づけたりすることで、すべてを自動で登録してくれるものもある。さらには一般にイメージされる家計簿の枠を越え、証券なども含め、資産管理を自動化するアプリも登場し、ユーザーを増やしている。
ここまでは既存の銀行サービスを大きく侵食するものではないかもしれない。しかし、銀行業務の柱となる融資の分野にまで、フィンテックは進出を始めている。「ソーシャルレンディング」と呼ばれる、投資家と借り手を結ぶサービスは、その最たるものだ。サービス提供者は、独自の基準により借り手を格付けし、投資家たちはそれをもとに自分が貸し付ける相手を探す。貸し倒れの危険性が低ければ金利も低くなり、危険性が高いと、それだけ見返りも多くなる。
旧来の銀行のように実店舗や銀行員は必要ないので経費は圧縮され、金利は低く抑えられる。さらには、従来なら銀行の融資の対象とならなかった中小企業や個人も、サービスに登録しさえすれば、投資家を見つけるチャンスが生まれる。貸し手にもメリットがある。自動化された審査は短時間で終わるだけでなく、ビッグデータの活用により、これまで以上の正確性が期待される。ソーシャルレンディングの代表格である米国の「レンディングクラブ」は07年に創業され、14年の上場時には時価総額が約1兆円という規模にまで成長した。
脅威にさらされているのは銀行だけではない。手軽な資産運用を可能にする存在として出現したネット証券をも、フィンテックがのみ込むかもしれない。スマホを数回タップするだけで株を取り引きでき、「ロボアドバイザー」と呼ばれる技術により、10問程度の質問に答えるだけで、本人にとって最適と思われるポートフォリオを組み立ててくれる。数年前には考えられなかったようなサービスが次々と生まれている
フィンテック企業と従来の金融サービスとの熾烈な競争は、ヒートアップの一途をたどりそうだ。