「優秀な学生を2倍にする」国際バカロレア、日本への導入は進むのか? | ニコニコニュース

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近年、「国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)」が日本の教育界に新風を吹き込んでいます。

文部科学省は2020年の大学入試センター試験の改革を機に、2018年までに国際バカロレア認定の高校を現在の35校から200校まで増やすという意欲的な施策を推進中です。入試にIBの成績を導入する大学も着実に増えてきました。

IBとは一言で言えば、「世界共通の大学入試資格とそれにつながる小・中・高校生の教育プログラム」。多様な文化への理解や尊重を重視し、グローバル社会を生きるために必要な知性や人格、社会的スキルを磨きます。教師から一方的に知識を注入される従来の学習とは異なり、生徒は自分で調べ考え意見を述べる教育のもと、世界で生きる力を身に付けていくのです。

ところが、IBは優秀な人材を育てることができるプログラムと考えられているにもかかわらず、日本での導入にはまだまだ越えなければならない壁があるようです。

今回は、国際バカロレア機構アジア太平洋地区委員として普及に奔走する坪谷ニュウエル郁子さん(東京インターナショナルスクール理事長)に国際バカロレアについてわかりやすく解説していただくとともに、課題などについてうかがいました。

ウェブメディア「Mugendai(無限大)」の記事より抜粋してご紹介します。

坪谷ニュウエル郁子(つぼや・にゅうえる・いくこ)
国際バカロレア機構アジア太平洋地区委員/東京インターナショナルスクール理事長。イリノイ州立西イリノイ大学修了、早稲田大学卒。1985年「イングリッシュスタジオ(現:日本国際教育センター)」設立を経て、1995年「東京インターナショナルスクール」を設立。同校は国際バカロレアの認定校。その経験が評価され、2012年、国際バカロレア機構アジア太平洋地区の委員に就任。2008年には軽度発達障がいなどを抱える子どもたちのための学校「NPOインターナショナルセカンダリースクール」を設立。専門家による少人数の個別指導でひとりひとりの特性を生かす教育を行っている。2015年10月、政府の「教育再生実行会議」の有識者委員に就任。文部科学省とともに、教育の国際化の切り札となる国際バカロレアの普及に取り組んでいる。

著書:『英語のできる子どもを育てる』(講談社)、『世界で生きるチカラ 国際バカロレアが子どもたちを強くする』(ダイヤモンド社)など。

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国際バカロレアは大学受験の際に基準となる「世界共通の成績証明書」の必要性から生まれた

── まず、国際バカロレア(以下IB)とはどのような理念の下にどんな教育をするのか、基本的なことから説明していただけますか?

坪谷:IBは1968年にスイスのジュネーブで生まれました。ジュネーブには多くの国際機関が集まり、いろいろな国の子どもが学校で学んでいましたが、大学受験になると各国の制度はバラバラ。学校としても1クラスに20カ国の子どもがいた場合、どうやって入試準備をしたらいいのか困ってしまい、世界共通の成績証明書を作ろうという動きが出てきたのです。

当時の欧州は、第2次世界大戦で2つに分裂した反省を踏まえ、一国主義の教育から世界平和の教育に軸足を移そうという考え方がありました。そのためIBの理念は「多様な文化への理解と尊重の精神を通じて、より良くより平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的にする」となっているのです。

討論や探求型学習を採用したアクティブ・ラーニング

── たとえば、大学入試前にはどんな学び方をするのですか?

坪谷:ディプロマ・プログラム(高校生の大学進学コース、以下DP)は高校の最後の2年間で、文系・理系を問わず6科目を学びますが、ほかに3つを必修とし並行して学びます。

1つは課題論文(EE=Extended Essay)で、履修科目に関連した分野を1つ選び、自分が研究した成果をまとめます。これは大学の卒論レベルに匹敵します。

2つ目は「知の理論(TOK=Theory of Knowledge)」です。DPの中核的学習プログラムで、教科の枠を超えて論理的思考力や批判的思考力、コミュニケーション能力などを養うための授業です。

3つ目は創造性・活動・奉仕(CAS=Creativity/Action/Service)。Cは創造的な芸術活動、Aは身体運動、Sは奉仕活動です。

たとえば、私の2人の娘はIBで学びましたが、教員志望だった長女の奉仕活動はペルーの貧困地区での子どもの世話、動物学が好きだった次女はタイに行って野犬の世話をする活動に参加しました。

DPの最後には12日間の卒業試験があります。6科目が各7点満点で、これにEE、TOKとCASの評価(最大3点)を加えた45点満点中、24点を取ればIB資格が取得できます。

その試験は、歴史であれば「第1次世界大戦における中央集権、もしくは第2次世界大戦における日独伊の枢軸国の政権が敗北した主な原因を述べなさい」といった論述問題です。

IBは受験のために塾に行く必要はありません。授業の事前の下調べは自宅で行い、学校での授業はプレゼンテーションやディスカッションから始まります。

塾に通って詰め込み式の受験勉強をする知識注入型の日本の試験とは、まったく違うことがおわかりになると思います。

世界の約4000の大学がIBスコアを導入

── 大学側のIBに対する評価はどうなのでしょうか?

坪谷:大学はIBの生徒を欲しがっていて、世界の約4000の大学がIBスコアを入試に導入しています。英ケンブリッジ大学なら40点以上が必要というように、各大学は自分の欲しい生徒はこうだとはっきり打ち出しているので、学生も志望大学を選ぶ際にわかりやすいのです。

高評価の背景にあるのは、IBで教育を受けた生徒の入学後のパフォーマンスが高いこと。優秀賞をもらう人数はIB以外の学生の2倍、大学院に行く学生数も2倍。米国では6年以内、英国なら5年以内に大学を卒業する割合も2倍です。

IBは過去40数年間多くの大学が受け入れているので、生徒にとってはリスクが少なく、受験のセーフティーネットになっている点がほかの教育資格より優れています。

日本の対GDP教育予算はOECD加盟31カ国中31位

── アジア各国もIB導入に熱心だと聞きます。日本が後れを取る心配はないでしょうか?

坪谷:インド、中国、エクアドル、中東などが意欲的な計画を持っています。世界は未来に向けて教育投資をするのが潮流になっており、いろいろな国で、国を挙げてIBの普及に走っています。

一方、日本の公的予算支出の対GDP比は3.8%と低く、なんとOECD(経済協力開発機構)加盟31カ国中で31位という情けなさです。OECD平均は5.6%。デンマークやノルウェーなどは9%近くあります。それでも財務省は少子化に伴って教育予算をさらに減らそうとしています。

公的負担が少ない分、親の私費負担の割合が多くなり、教育格差につながります。いまの税金の再配分は高齢者層に偏っていて、教育に十分回らないのが現状です。

このあと、坪谷さんは日本の教育では親世代の負担も大きくなっていることを指摘し、IBが教育の質を高めつつ、こうした問題にも効果があるのではないかと述べています。その一方で、欧米諸国にはない日本ならではの問題がIB導入の妨げになっているとも...。詳細は以下のリンクよりご確認ください。

「国際バカロレア」が作る世界で生きる力 ── 日本の「知識注入型」教育を変え、2018年までに認定200校を目指す | Mugendai(無限大)

(ライフハッカー[日本版]編集部)