「ファストファッション」という言葉を日本に根付かせたユニクロを展開するファーストリテイリングだが、最近その業績が芳しくない。ファストリは1月7日に2015年9~11月期(第1四半期)決算を発表。これによると、営業利益が昨年同期比で16.9%下回り、同期間としては4年ぶりの減益となった。
同日の会見で岡崎健グループ上席執行役員CFOは、大幅減益について「想定を超える暖冬だった」とコメントし、同時期の売れ筋商品である「ヒートテック」や「ウルトラライトダウン」など冬物衣料の販売が伸びなかったことを原因にあげた。
しかし、原因は気候のせいだけとはいい切れない。ユニクロは円安や原料高によるコスト上昇に伴い、14年秋冬商品の本体価格を5%前後一斉値上げしたことを皮切りに、15年春夏も新商品の約2割を対象に値上げを実施し、全商品平均で約10%の値上げとなった。同年の秋冬商品も同じく約2割の新商品に対して平均約10%の値上げを行っており、まさに値上げラッシュの様相を呈している。
岡崎CFOはあくまで「値上げの影響は限定的」と説明するが、やはり低価格を売りにしていたブランドだけに、無関係とはいえないだろう。そこで、マーケティングを専門とする立教大学教授・有馬賢治氏に、ユニクロ不振と値上げの関連性、そしてその打開策を聞いた。
「マーケティングの観点から考えると、ユニクロの苦戦にはふたつの要因があると思われます。そのひとつは販売方法。ユニクロの販売方法は、顧客が自分で選んだアイテムを店内かごに入れて、レジに並んで会計をするという方式です。これは、スーパーやコンビニエンスストアで食品などを買うセルフセレクション方式とほぼ同じです」
一方、デパートや専門店の対面販売は、店員がコミュニケーションを取りながら、顧客のニーズに合った商品をおすすめし、最後に包装したものを手渡すという方式で、サービス面では両者に差が生まれている。
「つまり、ユニクロのようなセルフセレクション方式は、低価格販売だから買い手が納得できる販売方式なのです。値上げにより価格帯そのものが上昇してしまうと、顧客は結果としてサービスの低下を感じてしまい、満足感を得にくくなるのです」
●ブランドイメージは「低→高」が難しい
確かに今までと品質的に劇的な変化が見られず、サービス内容も変わらないのに、ただ値段だけ上がってしまえば、顧客離れも十分起こり得るだろう。では、もうひとつの要因はなんだろうか。
「それは製品ポジショニングの不明瞭化です。値上げによって実質的に競合するブランドが変化しても、ブランドイメージが同時に上がっていくわけではありません。ユニクロの例でいうと、以前の競合相手は、『しまむら』や『ハニーズ』などでしたが、高価格化で『J.CREW』や『UNITED ARROWS』などに変わってきました。ユニクロが、価格に見合った品質の商品を提供していても、もともと顧客に持たれている“安物”というイメージの払拭まではできていません。現状は、どっちつかずの不明瞭なポジショニングになってしまっていると思われます」(同)
では、ブランドイメージのポジショニングも一緒に変えられた前例はあるのだろうか。
「ブランドイメージは、高いところから低くはなりますが、その逆は困難です。ただし、新しく看板を立てる、つまり別ブランドや別会社を立ち上げることで、従来のイメージにとらわれない商品展開をすれば、イメージチェンジは可能です。化粧品では資生堂が『IPSA』を、自動車ではトヨタ自動車が『LEXUS』を設立したように、高価格帯の商品を展開するために別のブランドや会社を立てて成功した例は、国内外にあります」(同)
ファストリは「GU」という低価格帯の店舗も展開しているが、高価格帯でも新ブランドを立ち上げることが有効だということだ。
「高価格帯のブランドを展開するのであれば、店内の商品陳列方法やサービスも変えていかなくてはいけないでしょう。現状でもユニクロは非常に清潔ですし、内装も高級感を出す努力をしています。しかし、商品は棚いっぱいに積み上げられていて、店員のサービスは商品の場所を案内する程度です。『LEXUS』では、販売員にしっかりとした研修を受けさせて、ホスピタリティ、要するに“おもてなし”の仕方を徹底的に教え込みます。そういった働く人と店舗、双方に対する高級感の演出が、高いものを顧客に納得して買ってもらうための舞台装置となるわけです」
「ただ値段が上がっただけ」では、特にアパレルなどの分野の場合、消費者を納得させるのは至難の業。そのためにも、別ブランドなどでイメージを変えた上で、それに見合った品質やサービスを提供することが、不振のファストリが現状を打破できる、数少ない方法のひとつなのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)