・・・その日はなかなか眠れなくて、夜中の2時を過ぎてうとうとしているときに電気蚊取り器をつけようとして手をのばしたら、突然それが天井近くまで舞い上がりました。びっくりしているとすごい耳鳴りが聞こえ私は金縛り状態になりました。怖くてぎゅっと目をつぶっているのに人型のようなものが見えて、私の肩を上からぎゅーっと押さえつけられました。足をそろえた状態で何か大きな口のようなものに噛まれ、左手を冷たい手でぎゅっとつかまれました。目をつぶっているまぶたの裏側に何か顔のようなものが見え、本当に怖くて心の中でおじいちゃんに助けを求めました。ようやく金縛りが解けてから起きてみると、私の部屋には特に変わったところはありません。でも噛まれた感触は生々しく残っていました。これは筆者の著作で紹介した当時10代の女性の夢の実例です。当時の彼女は恋愛関係で夜も眠れないほどつらい思いをしていたそうです。彼女の恐怖の正体は不規則な睡眠による生理的な違和感と、恋愛中の人間関係から生じる強い心の葛藤が心身をがんじがらめにし、それが化け物のイメージにかたちを変えたものです。金縛りは睡眠リズムの乱れや眠りに就く時の環境の変化を背景にして、日ごろの強い悩みやストレスによっても引き起こされます。金縛りをはじめ、化け物や幽霊が登場する夢にはわかりやすい生理的な原因がありますが、今回のコラムでは恐怖にまつわるもっと他のイメージを取り上げてみました。
・・・私の住む町に突然津波がやって来る夢です。初めは家でテレビを観ていましたが、町に津波警報が出ているのを知って、私は子供(3才になる息子)を連れて車で逃げようとしていました。でもあっという間に濁流に巻き込まれてしまいました。初めは水の中で息子を抱きかかえていましたが、いつの間にか私から離れた息子は一人で洪水の中をすいすいと泳ぎ始めました。私は名前を必死に呼び続けながら、息子の後について泳いでいきますが、どこかで見失ってしまいました。やがて水が引いた町中をひたすら子供を探して走り回っているうちに目を覚ましました。
これは30代の主婦の夢の実例です。子育て中の女性ならポピュラーな夢で、子供を失う・失いそうになるイメージは基本的に心的なものでけっして予知夢ではありません。子育ての心労や疲労が重なっている時に見る傾向があるものです。また、生活環境の変化や年齢による子供の成長の分岐点にも見る夢になります。恋人を失う、家族を失うなど、身近な誰かを失う夢、または洪水によって大切な家を失うといった夢は基本的に心的なもので、実際に誰か・何かを失うことを暗示するものではありません。大切な人や物ほど、それが周囲の状況で変化していくことに敏感になっているのです。
何者かの侵略や侵入、細菌やウイルスの感染、それらに支配される恐怖感は制約のある人間関係や対人的な悩みをあらわします。人物では吸血鬼や男性ゾンビの夢がポピュラーですが、これは女性の見る夢なら身近な人間関係から生じる悩み、周囲から受ける対人ストレスなどを反映します。特に吸血鬼は恋人や特定の異性を象徴することがあります。心的な夢なのでトラブルを暗示するものではありません。
何か・誰かに追いかけられるのは、もっともポピュラーな心的な夢のひとつです。これは日常の心身の負担やストレス、課題・宿題の負担感、締め切り・納期が迫っている状況、または蓄積した疲労などを反映するわかりやすい夢です。ただし、追いかけられてどこかの建物に逃げ込む、逃げているうちに何か・どこかを目指すといったイメージがあるなら予知夢の要素を持ちます。心的なものでも、一貫したストーリーがある夢ほど近未来の暗示性・予測性があるのでその成行きを憶えておいてください。
・・・どこにいるかはわかりません。東南アジアの古い都市にあるような駅前の風景です。辺りはパンパンに膨らんで袋状になった人間の死体や腐った動物の死骸だらけでした。足の踏み場もありません。まるで映画のキリングフィールドのような光景が目の前に広がっていました。これは30代の男性会社員の夢の実例です。その後彼はストレスや残業の多さから勤めていた会社を辞めたそうです。これは予知夢ではなく、強い心身の疲労を反映する夢です。死体の山、腐乱した死骸などの夢は、基本的に日ごろの不摂生、生理的な違和感を反映します。このような夢を見続ける場合、現在の生活の改善や不摂生の見直しをうながします。
夢の中の恐怖は「もしも酷い目にあったら・・・」「もしも死んだら・・・」といった自身の未来に起こるかもしれない出来事、見たくもないもしもの恐怖です。生理的な原因と心的な原因が重なって起こる夢のイメージです。恐怖の正体は、予測できないこと・先が見えないこと、余裕がなく冷静さを失った心です。それを克服するためのシミュレーションが恐怖の夢です。恐怖は未来を予測するため、見たくないものと向き合うため、心の成長をうながす大切な感情のひとつかもしれません。(梶原まさゆめ/ライター)
(ハウコレ編集部)