大手自動車部品メーカー「デンソー」(愛知県刈谷市)が1月下旬、今後、女性の採用を拡大していくと発表した。具体的には、2017年以降、採用の女性比率を「事務40%、技術15%」以上を目指し、2020年までに女性管理職を100名とする計画だ。
報道によれば、2016年4月にデンソーに入社予定の事務系総合職のうち、女性の比率は21%。女性管理職は全体の1%未満にとどまるが、この計画により倍増させるという。同社のウェブサイトによれば、ダイバーシティ推進の行動計画を策定している。今回の計画も「各職場でリーダーとして活躍する女性を増やすため、『女性採用の強化』と『女性社員のキャリア形成支援』を柱に活動を推進していきます」との方針に基づく。
この「女性の採用拡大」という方針は、男性よりも女性を優遇するようにもみえる。そうなると、男女雇用機会均等法に觝触する可能性はないのだろうか。大部博之弁護士に聞いた。
●「ポジティブ・アクション」に該当するか否か「デンソーの措置が正当化されるかどうかは、性別による差別的取扱いの禁止の例外として、男女雇用機会均等法8条により認められている、いわゆる『ポジティブ・アクション』に該当するかどうかによります」
大部弁護士はこのように指摘する。
男女雇用機会均等法8条は「事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として、女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない」と定めている。
「『ポジティブ・アクション』がもうけられた背景には、固定的な男女の役割分担意識や過去の性差別的な雇用管理の経緯があります。『営業職は男性ばかり』『管理職に女性がいない』など、雇用の場において男女労働者間に事実上の格差が生じている場合には、均等法の差別禁止規定を順守するだけでは、格差は解消できません。
そこで、男女労働者間の格差を解消することを目指して、女性の能力発揮を図るために、企業が自主的・積極的に取り組む措置として『ポジティブ・アクション』がもうけられたのです。
どのような場合に『事実上の格差』が存在していると判断されるかといえば、男性労働者と比較して、一定の区分、職務、役職において女性労働者の割合が4割を下回っている場合です。
デンソーの『平成29年以降、採用の女性比率を事務40%・技術15%以上を目指す』、また、『平成32年までに女性管理職を100名とする』といった雇用方針は、これまで生じていた事実上の男女格差を解消する目的でなされているものといえる限り、適法なものといえるでしょう」
大部弁護士はこのように指摘した。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大部 博之(おおべ・ひろゆき)弁護士
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。企業法務全般から事業再生、起業支援まで広く扱う。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/