日本はちょうど受験シーズン。小さなころから「いい学校を出て、いい会社に入って」と追い立てられてきた子どもたちが、緊張の日々を送っていることでしょう。しかし洋の東西を問わず、学業成績重視の教育が心にひずみを与えることは誰もが気づいています。
1月2日付けのニューヨークタイムズによると、米シリコンバレー近郊の労働者の町、アーヴィントン高校での調査で、生徒の8割が中度から重度の不安感に、半数以上が中度から重度のうつ症状に苛まれていたことが分かったそうです。(文:夢野響子)
十分な睡眠をとれず、うつに。成人後の疾患にも影響アーヴィントン高校の状況は、米国の学校関連のストレスの縮図です。1日7時間の授業に毎晩の宿題、毎日の課外活動、週末の宿題と試合。これらはすべて一流大学、一流企業に入るために重要視されるステップです。大学を目指す貧しい子どもたちは、奨学金の獲得競争にも直面しています。
「成功を目指せ!」という追い立ては、文字通り子どもたちの健康をむしばんでいます。米国のティーンエイジャーの約3人に1人が、ストレスが原因でうつ状態になっていると専門家に打ち明けています。そのストレスの最大の源は学校です。
米疾病管理予防センター(CDC)は、ティーンエイジャーの大半が必要な睡眠時間よりも2時間足りないと報告しています。宿題が多いほど睡眠時間は減ります。大学での調査では、カウンセリング担当者の94%が、深刻な心理的問題を抱える学生の増加を警告しています。
小学校低学年の子どもの偏頭痛や潰瘍を診察する医師の多くは、それが明らかに子どもにかかるプレッシャーと関連していると指摘しています。幼少期の長期的ストレスは、成人後のうつと不安につながるだけでなく、健康をも害するようです。
ACE(有害小児体験)の研究では、暴力、虐待、親の精神疾患など複数のトラウマを経験した子どもは、成人後に心臓疾患や肺疾患、がんや短命にさいなまれる可能性が高いことが示されています。それほど深刻ではないストレスの持続も病気につながることが、2013年の公衆衛生調査で示唆されています。
週末の宿題を廃止しても、成績は下がらない?セントルイス大学教授のスチュアート・スラヴィーン氏は、医学生に不安やうつが広まっていることに気づき、学部のカリキュラムを見直しました。入門クラスでは合格/不合格のみの評価とし、隔週に半日のオフ日を設け、少人数の学習グループで学生間の結びつきを強めました。6年後には、学生の不安感やうつの割合は大幅に低下したそうです。
アーヴィントン高校でも毎日の宿題を制限し、週末と休暇中の宿題は廃止。生徒の成長を通常の試験以外の創造的な方法で評価するという改革が行われました。これで落第率が半減しましたが、卒業生は以前と同様に有名大学へ進学し続けています。これは保護者と教師と生徒が一丸となって行動し、小さくても重要な違いを作り出すことができた一例です。
米国ではメリーランド州ゲイサーズバーグ、ケンタッキー州カディス、ニューヨーク市なども、学業の成績競争の代わりに、より深い学習、統合性や個人のつながりを育成する教育を導入し始めています。
日本でも「子どものうつ」が増えているという報道もあります。プレッシャーを緩めても成績が落ちないのであれば、それに越したことはありません。
(参照)Is the Drive for Success Making Our Children Sick?(NYT)
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