2016年1月、某有名ホテルの食器洗い場でアルバイトの男子高校生が「入浴」する写真をTwitterに投稿し炎上、同ホテルが記者会見を実施し、謝罪した。また、同月は某不動産企業に勤務する女性が、芸能人の来店情報および紹介した物件内容の一部をTwitterに投稿し炎上、女性の勤務先企業や関連企業が公式に謝罪文をWebサイトに掲載し陳謝した。
衛生管理あるいは情報漏えいという点で企業ブランドを著しく毀損させるに至ったが、いずれも当人に企業を巻き込む意図はなく、あくまで「悪ふざけ」や「ウケ狙い」で、後にどんな影響がでるとも考えないでやっているところが厄介だ。
しかし、巻き込まれた企業にとってはたまったものではない。関係各所への謝罪対応だけではなく、イメージ低下による顧客離れ、売上低下、取引停止など致命的な経営ダメージをもたらしかねない。事実、バイトテロが原因で倒産にまで追い込まれた店もある。無責任な者から企業ブランドを守るには、どうすればよいか。
バイトテロ、バカッターは、2013年ごろから全国的に多発し社会問題化されていた。その後、企業のさまざまな取り組みによって減少傾向にはあったものの、一向になくなる気配を見せない。その背景として、次の3つが存在する。
(1)スマートフォン・SNSの普及
当社の炎上データベースによると、炎上件数は2011年から飛躍的に増加している。このころ、スマートフォンが爆発的な人気となり、Facebook、TwitterなどのSNSが日本で普及し始めている。それまでの炎上といえば、ブログや2ちゃんねるを起因とするものが多かったが、ブログや2ちゃんねるは匿名性が強く、知らない人に発信しているという意識が強いため、不用意な投稿は少なかった。
ところが、SNSとはそもそもインターネット上で人脈を構築するためのサービスであり、実名で利用するユーザーも多く、友人やそのまた友人とつながっていくため、「知り合いに発信している」という意識が強く、友だち感覚で不用意な投稿をしてしまうパターンが多いのだ。加えて、スマートフォンがあることで、いつでもどこでも投稿でき、写真も簡単に撮って投稿できるため、その写真自体が炎上することも少なくない。画像はインパクトが強いため、拡散力が高く大炎上へとつながってしまう。
(2)リテラシーの不足
これは(1)にも関連することだが、スマートフォンやSNSの急速な普及の一方で、その反動としてユーザーのリテラシーが追いついていない現状がある。バイトテロやバカッターで炎上を起こす人は大半が社会人経験の少ない若者だ。彼らはスマートフォンやSNSを使いこなすリテラシーは高いものの、リスクマネジメントに対するリテラシーが低く、自身の投稿が他人にどのように捉えられるのか、その結果どういう問題を引き起こしかねないのか、などの想像ができない。
一方で、社会常識やリスクマネジメントに対するリテラシーを持ち合わせている大人は若者ほどスマートフォンやSNSを使いこなせないため、教えることができない。
(3)ネット炎上の大衆化
「炎上」というものが出始めたころは、炎上を起こすのも、それを批判、拡散するのも、著名人やインターネットのヘビーユーザー層が中心だった。ところが、ネット炎上件数が増加し、炎上というものが大衆化したことで、これまでただの傍観者であったライトユーザーも、炎上につながりそうな問題投稿を探して広めたり、拡散に加担することに慣れるようになった。
炎上にはタイムラグというものがあり、火種となる問題投稿があってから発見・拡散されるまでに通常、一定の時間があくことが多い。その間に対処をすれば炎上を防ぐことができ、6カ月以上空いたケースも少なくなかった。しかし、このようにネット炎上が大衆化したことで、タイムラグの間隔が短くなっているのだ。
ネット上の記事は簡単に削除できない
スマートフォン、SNSの普及は拡大し続けている。新たに多種多様なSNSも続々とリリースされており、炎上件数はまだ増え続けるだろう。炎上は「起こさない」のが原則だ。炎上がひとたび発生すると、コントロールするのは極めて難しい。
また、炎上が起きた後で問題投稿を削除したとしても効果がない。スクリーンショットを撮られてしまえば、その先ずっと出回り続けることになる。最近ではテレビなどのマスメディアも炎上を取り上げるようになってきたため、より一層拡散されてしまう。
そして最も認識しておく必要があるのが、インターネット上の記事は簡単に削除できないということだ。炎上すると、インターネット掲示板や炎上を特集したブログなどに炎上の全容が書き込まれる。他人によって書かれた記事を削除するには、直接要請する方法、弁護士を通して要請する方法などがあるが、全てを削除することは現実的ではない。一度炎上すると、半永久的にそのネガティブな印象を与えてしまうことになりかねないのだ。
それでは、どのようにして企業ブランドを無責任な者たちから守るのか。炎上は起こさないのが原則、という観点から考えると、炎上を「予防」するには、教育・研修の実施もしくは見直しをすることが重要だ。実施もしくは見直しする際のポイントは次の2つだ。
●「SNSに投稿するな」と言うだけでは不十分
ポイント1:企業主体ではなく、従業員を主体にする
炎上に関する研修では、炎上を起こした際の悪影響(信頼失墜、売上低下など)を伝えることが一般的だが、投稿するアルバイト従業員や社員本人に焦点を当てることがポイントとなる。
企業に損害が出る説明をするよりも、本人あるいは家族にどのような影響が起こるのかを説明することが望ましい。事実、過去に勤務先の飲食店で悪ふざけの様子をSNSに投稿したアルバイトの大学生は、さまざまな情報をもとにネットユーザーから身元を特定され、個人情報をインターネット上にさらされている。本名をインターネット上で検索すると、炎上した際の画像や批判の書込みが次々とあがってくるため、将来にわたってさまざまな場面(例えば就職・転職活動など)で不利益をもたらすだろう。理解や関心を深めるには、従業員自身へのリスクを問いかけると効果的だ。
ポイント2:最新の炎上事例を共有し、パターンをできる限り多く提示する
これまでのバイトテロやバカッターは、問題行動を起こした本人自身がその様子を投稿することで炎上するケースが多かったが、問題行動を起こされた、被害を受けた側の人がTwitterやFacebook上で「告発」することで発覚し、炎上するケースも増えている。
例えば、某コンビニチェーン店でアルバイトの男性が女性客に電子マネーカードの作成を勧めた後、作成時に知り得た個人情報を利用してFacebookから「ナンパ」のメッセージを送りつけて炎上したケースがある。これは、女性客が一連の流れをTwitterに投稿したことで「個人情報の漏洩」として激しく炎上、アルバイトの男性やその勤務先であるコンビニチェーンに非難が集中した。この際、女性はアルバイトの男性から送られたメッセージをスクリーンショットで撮影し、証拠としてあげていたため信ぴょう性が増し、たちまち大炎上へとつながった。
つまり、企業としては従業員に「SNSに投稿するな」と言うだけでは不十分なのだ。炎上のパターンは増え続けている。できる限り最新の炎上事例を共有し、何がリスクとなり得るかを具体的に提示することが必要だ。
炎上は「起こさない」のが原則
そのほかには、SNSやインターネット、ネットユーザーの特性を理解しておくことが前提となるが、ソーシャルメディアポリシーの策定、ルールの制定、SNSのモニタリングが有効な炎上予防策としてあげられる。ソーシャルメディアポリシーを策定している企業は増えており、インターネット上で検索すれば閲覧できるため参照してみると自社で作る際の参考になるだろう。
もう一度言うが、炎上は「起こさない」のが原則だ。一度起こせば信用失墜、売上低下、取引停止など致命的なダメージを与えかねない。経営陣を含め、企業にとっての新たな脅威として認識することが求められている。
(藤田朱夏)