2016年2月26日,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主催するトークイベント「黒川塾(三十三)」が東京都内にて開催された。エンターテイメント業界の未来をポジティブに考えるというコンセプトの元,業界の識者を招いてトークを展開するというのがこの黒川塾だ。
今回のテーマは「バーチャルリアリティの未来へ 3」。「PlayStation VR」の発売を控えたソニー・コンピュータエンタテインメントの吉田修平氏,スマートフォン用簡易VRゴーグル「ハコスコ」を作り上げた藤井直敬氏,AMDでVR関連事業を手がけるダリル・サーティン氏,そして黎明期より「BLAST BUSTER」などVRコンテンツを開発し,現在はgumiに所属する渡部晴人氏といった,VR最前線を走る人々が熱いトークを繰り広げた。
現在は,Oculusの「Rift」の出荷が3月に開始され,HTCの「Vive」が4月に発売,さらにPlayStation VRの発売日発表が待たれるという,VRが熱い時期となっている。それだけに会場は満員となり,試遊台によるVR体験も順番待ちが出るほどの盛況となった。
最初の話題は,海外VR市場の現状に関してだ。吉田氏によれば,海外では医療やスポーツ中継など,ゲーム以外の用途でもVR技術が使われることが増えており,こうした分かりやすい活用法によって一般的な認知度も上がってきているのだという。
サーティン氏は元々オーディオや動画圧縮を手がけていた人物であり,VR技術は産業を変えていく力を持っていると感じているそうだ。AMDとしても,ゲームだけでなく,教育や医療についても取り組みを進めていきたいと考えているとのこと。米国でもVR関連は盛り上がっており,遊園地などのライドやマルチプレイ要素のあるコンテンツ,スタジアムでの活用など,さまざまなメーカーがVRコンテンツの開発を進めているのだという。
VRを取り巻く状況も変化を続けているのだという。さまざまなプロモーションなどでVR機器が使われることも多くなったが,それだけにしっかりと成果を出すことが求められているのだと藤井氏は語る。これまでは物珍しさがあってVR機器を使う予算が出たのだが,今では認知度も上がったため,「このプロモーションはなぜVRを使わないとダメなのか」という意義をしっかりと説明でき,その上で効果とコストのバランス感覚を求められるのだという。藤井氏はスマートフォンで手軽にVR体験ができるハコスコを手がけた人物だが,現状のスマートフォン向けVRでは,ユーザーがコンテンツを1回見ただけで終わってしまい,そこからの展開があまり広がらず,お金も回らないという傾向があるため,コマース連動型のBtoBtoC(ほかの会社の消費者向け事業をサポートする)モデルを目指していくべきではないかと指摘した。
話題はRiftやViveの価格へと移った。前者が日本への送料込みで9万4600円,後者は海外での価格が799ドル(日本では11万1999円)と,どちらも予想されていたよりも高額になっている。サーティン氏は,時間が経つと価格が下がって皆が楽しめるようになるだろうと楽観的な見解。吉田氏は,得られる体験からすると安いのではないかとこちらもポジティブな見方を披露している。
気になるのは日本発のVRデバイスであるPlayStation VRだ。日本ではモバイル系メーカーが「新しいメディアができるところに先へ乗り込む」という気概で積極的に取り組みを進めていると吉田氏。現時点ではバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏のように,VRに着目した人が精力的にコンテンツを作って可能性を発信していることが多いため,こうした取り組みを応援したいと吉田氏は語った。
時間はあっという間に過ぎ,締めくくりは「VR市場を盛りあげるには何が必要か?」というテーマとなった。
藤井氏は「諦めないこと」が必要であるとし,まだ始まってもいない業界だけに,最低3年くらいは続けたいとしている。
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