ネットで話題の「神対応」は、本当に“神”なのか | ニコニコニュース

クレーム対応に手土産は必要なのか
ITmedia ビジネスオンライン

 TwitterやFacebookなどのSNSで、「〇〇で神対応受けた」という投稿を見かけることがある。店員のちょっとした気遣いでお客さんが喜び感動し、その投稿を読んで店のファンが増えるということは喜ばしいことだ。

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 しかし、中には「それって、本当に神対応か?」と思う投稿があるのも事実。今回は、世の中で言われている“神対応”について、筆者の経験も交えながら考えてみたい。

●全額返金は「なかったコト」にするだけ

 筆者が神対応の中に入れたくないのが、「お支払いは結構です」という、いわゆる全額返金パターンだ。提供した商品、あるいは店員の対応に何かしらの不備があった場合、お金を払わないで済むというもの。飲食店などの接客サービスを行うほとんどの業態に見られる、手軽なクレーム対処法である。

 筆者がネットで見かけたのは、店員がランチセットのデザートを出し忘れてしまい、お客さんも昼休みが終わってしまうのでいまさらデザートを出されても困る、といった場面だ。このとき、店側はデザート分の料金を値引きしたのではなく、ランチセットの全額を免除したという。

 お客さんとしてはお金を払わずに済んだので、ただ「ラッキー」と思っただけかもしれないが、筆者はコレを神対応とは認めたくない。なぜなら、店側がお金を受け取らなかったということは、そのミスを含めた全てのサービスを「なかったコトにしたい」だけだからだ。

 もちろん、それを投稿した人に悪意はない。店員の気遣いに感動したとか、その対応が本当にうれしくて、思わずネットにアップしたのだろう。そして、その投稿に対する周囲の反応のほとんどは好意的で、店への称賛の言葉やファンになったというコメントもある。これには、対応した従業員や店も喜んでいるに違いない。

 ところが、よく考えてみると、この“神対応”が全面に出ると好ましくない環境を生み出す恐れがあるのだ。

好意から生まれた神対応……だったはず

 突然だが、あなたはソフトクリームを買った直後に落としてしまったことはないだろうか? 大人になってからはともかく、まだ子どもだったころは苦い経験をした人もいるだろう。

 そういうとき、ほとんどの店ではソフトクリームを作り直してお客さんに提供している。今や「当然だ」と思う人も少なくないだろう。

 しかし、よく考えてみてほしい。これは、実際にお金のやりとりがないだけで、全額返金と変わらない行為であり、“神対応”から生まれた好ましくない環境であるということを。

 あくまでも筆者の推測だが、落としてしまったソフトクリームへの最初の神対応は、子どもに対しての行為だと考えている。

 子どもが買ったばかりのソフトクリームを落としてしまい、ただでさえ悲しいのに「もう、何やってんの! ちゃんと持ってないとダメじゃないの!」と親からは追い打ちをかけられる。子どもも、ソフトクリームは食べられないわ、親から怒られるわ、まさに踏んだり蹴ったり。そこに、優しい店員さんが新しいソフトクリームを差し出してくれる――。子どもにとってその店員は、まさしく“神”だ。

 ところが、最近では子どもに限らず、これが普通の対応になってしまっている風潮がある。筆者がコンビニを経営していたときの話だが、プリンやデザートを買った直後にお客さんがそれを落としてしまい、平然と交換を求めてこられたことがあった。お客さんが誤って自分で落としてしまったのでこちらに落ち度はないのだが、「えっ?」って表情でも見せようものなら、すかさず「サービスが悪い」と悪い評判が立ってしまう。

 神対応から生まれた好ましくない風潮は他にもある。クレーム対応で、おわびの品を渡すというのがある。

 接客のクレームなどで呼び出されることは珍しくない。その場合、先方に赴いて謝まるのだが、手ぶらで行こうものなら「手ぶらでよく来たな」と捨てぜりふを吐かれてしまう。

 以前は在庫の商品を持って行っただけなのだろうが、いつしか手土産を持っていかなければいけないという風潮になってしまった。以前、コンビニの店長がお客に土下座で謝るだけではなく、おわびとして金品を要求された脅迫事件があった。記憶にある人もいるだろう。程度こそ違うが「手ぶらでよく来たな」と言うのも同じではないだろうか。

 賢明な読者ならば、もうお気付きだろう。お客が“神対応”を求めた瞬間、悪質なクレーマーに成り下がってしまうということを。

内情は“神”とは程遠いのかも

 実は、“神対応”と呼ばれるその行為が「神でもなんでもない」可能性もある。偏った見方かもしれないが、全額返金のエピソードの裏には、ひょっとしたら「カネを返せば文句はないだろう」「タダにするんだし」という考えが店側にあったのではないだろうか。

 もし、筆者が同じような状況にあったなら、デザート分の返金しか受けない。もしくは、次回の利用時にそのデザートをいただく。故意ではないにしろ、全額返金を受けるということは、店の失敗全てが「なかったコト」なってしまうからだ。すると、その店は同じ間違いを繰り返すことになる。これは、筆者が長年にわたる接客業の経験に基づく答えだ。

 「カネを返したらお客は納得してくれた。だから、失敗はなかったコトに……」。おそらく店側はそう思っていることだろう。ソフトクリームの例も、「店の前でギャアギャア騒ぐなよ。ほれ、新しいソフトクリームやるから」――実際はそんな理由から派生したのかもしれない。

 自分でもかなりひねくれた考え方だと思うが、正直なところ、サービス提供側の立場でこういう考えを持ったことがないかと問われれば、残念ながら「ない」とは言いきれない。

 「おいおい、なんかガッカリだなぁ」。そんな声が聞こえてきそうだ。

 最後に、筆者が考える“本当の神対応”とはどういうものかを伝えておきたい。このポイントを押さえていれば、打算もなく経営者側も推奨する神対応と言えるだろう。

 それは、どんな対応であれ、結果として店が利益を得ているかどうかだ。利益の中で行われたのならば、店は損をしないし、お客さんも喜んでくれる。Win-Winの神対応だ。

 お客さんもそれを踏まえた上で「商売上手だねぇ」と、笑いながら言ってくれるなら、こちらも喜んで一芝居うたせてもらおうではないか。

 たぬきときつねの化かし合いではないが、そんなやりとりの中に本当の神対応は潜んでいるのかもしれない。

(川乃もりや)