“元プロ野球選手、清原和博容疑者が覚せい剤所持によって逮捕”――国民的スターのスキャンダルは日本中に大きな衝撃を与え、連日ワイドショーを賑わせている。
原作改変、残虐描写カット…業界人が語るTVアニメ"自主規制"事情
この余波は意外なところにまで及んだ。小学館が発行する少年漫画誌「コロコロアニキ」で連載中の『かっとばせ!キヨハラくん』が突如として休載になったのだ。編集部からのウェブ告知には「諸般の事情」としか書かれていないが、同作の主人公が清原容疑者をモデルにしていること、逮捕から1週間足らずの休載発表だったことを考えれば、理由は明らかだろう。
今回は『かっとばせ!キヨハラくん』のように、現実の出来事に思わぬ影響を受けてしまった“なんとも間の悪い”漫画・アニメを調べてみた。
連載スタート前日に○○○が死亡!?
「週刊少年チャンピオン」で2012年7月に連載スタートした、少女のパンダ育成漫画『パンダのこ』。上野動物園のパンダ「シンシン」が出産するタイミングに合わせた連載だったが、まさに第1話の掲載号が発売される前日、生まれたばかりの子パンダが死亡してしまった。
この出来事はあまりのタイミングの悪さにネットニュースや掲示板サイトでも取り上げられ、ファンから同情の声が寄せられた。結局、作品のリニューアルでテコ入れを図ったが長期連載はかなわず、単行本も1冊のみの発売といういささか不遇な扱いとなっている。
なお『パンダのこ』が連載デビュー作だった角光氏は、2015年に“お弁当男子”をテーマにした漫画『ニコべん!』で少年チャンピオン誌上に復帰。昨今の料理漫画人気にマッチした作風で、おもしろい作品に仕上がっている。今度こそ存分に腕をふるって欲しいものだ。
事件発生→アニメ自粛の流れ
現実に重大事件が起こった直後は、それを連想させる描写・設定のアニメ作品がしばしば放送自粛される。
たとえば2007年、京都府で少女が父親を斧で斬りつけ殺害した事件では、アニメ『School Days(スクールデイズ)』『ひぐらしのなく頃に解』が放送中止とされた。また、2014年に長崎県で女子高生による同級生バラバラ殺人事件が起きた際は、『PSYCHO-PASS サイコパス 新編集版』の放送が見送られた。いずれも同時期の事件と犯人像や手口が似ていたためと見られる。
放送自粛の理由になる事件が、日本国外にまで及んだケースもある。2015年にイスラム国による日本人誘拐事件がメディアで騒がれていた時期、『探偵歌劇 ミルキィホームズ TD』と『暗殺教室』が放送休止された。これらには誘拐または殺人が内容の一部に含まれていた。
こうした放送自粛があった際、テレビ局からは「編成上の都合」「社会への影響を鑑み」などの事情説明が行なわれるが、視聴者の受けとり方は賛否両論。過剰反応ではないか、萎縮し過ぎではないかとの意見もアニメファンから出ている。
ガンダムも「間が悪い」事態に…!?
テレビ局の買収騒動に『ガンダム』が翻弄された?
1996年に放送されたアニメ『機動新世紀ガンダムX』。戦争によって荒廃した未来の地球と宇宙を舞台に、少年と少女の出会い、そして最強の機動兵器「ガンダム」をめぐる戦いが描かれた本作は、4クール放送されるはずが1クール短縮され、全39話で終了となった。また、テレビ朝日での放送時間帯が途中から予告なく変更され、視聴者の混乱を招いた。
こうしたゴタゴタの要因として、制作スケジュールが逼迫していたことは公然の事実だが、それとは別に、当時進行していた「テレビ朝日の買収騒動」が大きな影響を与えたという説も根づよい。
“1996年はちょうどテレビ朝日が外資によって買収を仕掛けられていた危機的タイミングで、アニメや特撮などより報道番組を強化する必要に迫られていた。『ガンダムX』の放送短縮はそのしわ寄せだ”――という説だ。それに加えて“同社の看板アニメである『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』すら危なかった”とする噂も見られる。
公式の情報ソースが見当たらないため何ともいえないが、『ガンダムX』が他のガンダムシリーズと比べて不遇な扱いを受けていたことは確かだろう。もし満足な制作環境があれば、もしガンダムブランドが成熟した現代に作られていたら、もしテレビ局に買収騒動がない時期だったら、どんな作品になっていたのか……非常によく練られたシナリオだっただけに、さまざまな“if”を想像せずにはいられない。
声優降板の皮肉なタイミング
人気漫画を原作に、今年でアニメ20周年を迎えた『名探偵コナン』。その主要キャラクターである毛利小五郎を演じていた声優・神谷明さんが、2009年9月18日に降板を発表した。降板理由がはっきり明かされず、本人のブログに「信・義・仁の問題」など思わせぶりな記述があったことから多くの憶測を呼んだ。
奇しくも9月18日は神谷さんの63回目の誕生日であり、同日にはテレビで彼の誕生日特集コーナーが放送された。ベテラン声優の突然の降板劇と誕生日、さらに特集コーナーが同じタイミングに重なり、なんとも間が悪いと当時のネットニュースで報じられる出来事だった。
原発事故も大きな影響に…
原発事故と漫画
企業不祥事など社会の闇に介入し、莫大なシノギ(金儲け)に変えてしまう異能ヤクザ・白川竜也の活躍を描くピカレスクロマン漫画『白竜』と続編『白竜LEGEND』。その「原子力マフィア編」では、原発をめぐる裏社会の攻防が綴られた。
ここに登場する架空の電力会社「東都電力」は、安全性を軽視した原子力発電所を建設・運営しながら、反発する者はカネと暴力で沈黙させるというヤクザ顔負けの悪らつな企業。警察官まで抱き込み、平然と殺人も犯す強大な敵に主人公たちが挑むストーリーだった。
タイミングが悪かったのは連載時期で、「原子力マフィア編」エピソードの開始が2011年2月。あの東日本大震災と福島第一原発の事故が起こる前月だった。本作は当時の情勢に配慮する形で、3月18日発売号をもって休止。連載再開するまで2年あまりかかった。作者としては不本意かもしれないが、「原発事故を予言していた漫画がある!」とネット上で話題になり、結果的に『白竜』の名前が広く知られる結果となった。
また、原発事故で放射能汚染された近未来の東京を舞台に、少女たちが決死の人命救助を繰り広げる漫画『COPPELION』も、東日本大震災にリアルタイムで影響を受けた作品だ。2010年にアニメ化が発表されていたが、震災の発生から長らく沈黙が続き、放送されたのは2013年になってから。設定もアニメ版では一部改められ、原発事故を極力連想しにくいよう配慮される形となった。
記事の主旨と少し離れるが、あの有名漫画『ゴルゴ13』にも原発事故とのシンクロがあったことをご存じだろうか。「2万5千年の荒野」というエピソードだ。アメリカの原発で、ずさんな安全管理により施設の一部が破損。利益を優先する上層部がそのまま強引に稼働させたため、原子炉が制御不能となる危機に陥った。
ゴルゴの神業的な狙撃によってロサンゼルス近郊が荒野になる惨事は回避されたが、『白竜』と同じく原発の安全管理について深く考えさせられるエピソードだった。この「2万5千年の荒野」が発表されたのは1984年7月。そして福島原発事故と並ぶ「レベル7」のチェルノブイリ原発事故が起きたのは、それから1年9ヶ月後のことである。