連載28【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】
▼消費の低迷は国民の所得が減っているからなのか?
「アベノミクスはもう終った」
最近の消費の低迷について、マスコミは「アベノミクスは失敗」と結論付け、繰り返し報道しています。彼らの言い分によれば、国民の所得が減っているから消費が増えないのということらしいのですが、次のグラフを見ればそれが真っ赤な嘘であることがわかります。
⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1063936
グラフが示すとおり、会社に所属して働いている国民全員の所得である「雇用者報酬」は右肩上がりに増えています。アベノミクスによって、国民の所得と雇用は確実に改善しているのです。
このような状況にもかかわらず、2014年度の第1四半期以降、消費は低空飛行を続けています。所得は増えているのに消費が増えない。その原因は、2014年4月に実施された消費税増税以外に考えられません。これもグラフを見れば一目瞭然でしょう。
消費税の増税という枷がある限り、アベノミクスでいくら景気対策を行ったとしても焼け石に水。穴の空いたバケツに水を注いでいるようなものです。
▼消費税の最大の問題「逆進性」とは
それにしても、消費税はなぜこれほどまでに国民の消費を冷え込ませてしまうのでしょうか? その原因は消費税最大の問題である「逆進性」にあると考えます。
同じ税金でも所得税は「累進性」が非常に高く、納税者全体のたった8.5%しかいない所得800万円以上の高所得者が、所得税全体の61.4%を納めているのが現状です。日本の所得税制は、高所得者ほど納める税金が極端に大きくなる仕組みになっています。これを累進課税と言います。
⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1063937
一方で消費税はどうでしょうか? 一世帯あたりの年間消費税負担額(8%時)をグラフにしてみました。
⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1063938
所得税の負担額と見比べてみてください。消費税は明らかに低所得者層と高所得者層との負担額の差が小さいことがわかります。つまり所得の大きい人ほど消費税の負担の割合が小さいのです。1500万円以上の所得の人はたった2.65%の税負担しかありませんが、200万~250万円の低所得者は8%近くもの大きな負担を強いられているのです(図4参照)。
⇒【グラフ】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1063940(図4)
完全に所得税とは真逆の「逆進課税」になっています。
基本的に得た所得を貯蓄に回さず消費に充てる割合、つまり「消費性向」と言われる比率は低所得者層のほうが大きい傾向にあります。常識的に考えればわかりますが、低所得者層は貯蓄にお金を回すほど生活に余裕がないのですから当然です。
要するに消費税とは、所得が低く、収入のほとんどを消費に回さざるを得ない低所得者層から税金を多くとり、所得のほとんどを貯蓄に回すことができる高所得者層ほど負担が小さいのです。
日本の個人消費の大半を担っている低所得者層に重い税をかけて消費が上向くはずがありません。一応政府はこの「逆進性」の解消のために、軽減税率の導入を検討していますが、こんな小手先の対策で消費税の逆進性が解消されるわけがありません。
軽減税率が逆進性の解消にならない理由については過去の記事「矛盾だらけの“軽減税率”を考えたヤツはアホなのか?」で解説しておりますので、参照してください。
▼消費税は百害あって一利なし
データを見れば、現在の景気低迷の原因が消費税の増税にあることは明らか。それにもかかわらず、マスコミは毎日せっせとアベノミクス叩きに精を出しています。富裕層と貧困層の格差拡大を問題視するのであれば、低所得者層から税金をむしり取る消費税を、真っ先に批判すべきなのですが、誰と戦っているのでしょうか。意味がわかりません。
「消費税は、富裕層を優遇し、弱者を虐げる」。それでも増税により税収が増え、財政の健全化を達成できるのならまだマシなのですが、消費の長期低迷による景気の悪化を招き、法人所得税を圧迫するため、財政の改善の望みも薄い。まさに百害あって一利なし。
もはや来年春の増税の凍結は当然です。それどころか今の日本経済の置かれている状況は、5%への減税も検討しなければならない非常事態であると考えます。
安倍政権、自民党も「アベノミクスはトリクルダウン政策で庶民に恩恵がない」や「円安、株高で恩恵を受けるのは大企業、富裕層だけだ」などの批判を払拭したいのであれば、消費税の逆進性の問題についてもっと真剣に向き合うべきでしょう。
◆まとめ
【山本博一】