書店でカバーをかけてもらう本の傾向について【コラムニスト原田まりる】 | ニコニコニュース

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 書店で本を購入する時には、店員さんに必ず聞かれる。「本にカバーはおかけしますか?」と。この質問に対して、一瞬の間に「この本はカバーがあったほうが安全? なくても大丈夫?」とジャッジを下さなくてはならない。

 本にはカバーを思わずかけたくなる本、かけなくても気にならない本の2種類に分かれる。今まで、本を購入した際に自分がカバーをかけたくなった本のタイトルを思い返してみたところ、さまざまなジャンルの本があった。それらは以下の通りである。

・自己啓発書


・タイトルに性的な言葉が含まれている本
・死を連想させるタイトルの本
・文学作品

 逆にカバーがなくても気にならない本は、漫画、料理本、旅行本、風景写真集などである。

 カバーをかけたくなる本は自分が「恥ずかしさ」を感じる要因がなにか1つ以上含まれている、もしくは「誤解」を生みそうな要因が1つ以上含まれているという共通点がある。「恥ずかしさ」の要因を隠したい、もしくは「誤解」を生む要因を隠したいという気持ちを、私たちはカバーをかけることで覆い隠しているのだ。そしてそれは本のジャンルによって違うのである。

 まず自己啓発書。自己啓発書にカバーをかけたくなるのは「恥ずかしさ」隠しである。どういう恥ずかしさかというと、楽して成功を手にいれたいという自分の浅ましさ・浅はかさである。自己啓発書は自分で読んでおきながらも、自分で自分を青臭く感じてしまうというモードに入ってしまう時があるので、恥ずかしさ隠しについついカバーをかけてしまう。

 次に、タイトルに性的な言葉が含まれている本。これは「恥ずかしさ」隠しの場合、また「誤解」隠しの場合の2パターンがある。タイトルに性的な言葉が入っている本を人前で読むという行為は、周囲へ性への興味・性癖を触れ回っているような恥ずかしさがある。特に、テクニック指南本・官能小説は恥ずかしさMAXだ。しかし、社会学・民俗学的な視点の本にカバーをかける場合は違ってくる。社会学・民俗学的な視点で性について書かれた本にカバーをかける場合は「誤解」を生む要因を隠すためである。以前「夜這いの民俗学」という本を購入した時、夜這いマニアだと誤解されるのではないか? 夜這いを誘っているメッセージだと思われないか? という不安がチラつき、カバーをかけてもらったことがあった。その時に「性的な言葉が入っている本を読んでいると、どんな内容でも色欲魔っぽく思われそうだな…」と誤解を恐れる自分がいた。といっても、夜這いの民俗学は民俗学に興味があって買ったのではなく夜這いの文化について興味があって買ったので誤解もくそもないが…。

 さらに、死を連想させるタイトルの本もカバーが必要かもしれない。これは「恥ずかしさ」ではなく「誤解」を生む要因隠しである。人前で「死ぬ瞬間の5つの後悔」など、死を連想させるタイトルの本を読んでいると、親切な人に「運気を上げるシール」をもらったことがあった。自殺を考えて読んでいるわけではないのだが、死のイメージがつきまとう本を人前で広げると、親切な人ほど「SOSサインを出しているに違いない」と心配し「大丈夫?君は君のままで大丈夫だよ」と格言めいたメッセージで励まされ、最終的に宗教に勧誘されたりしたことを機に「死」を連想させるタイトルの本にはそっとカバーをかけることにしている。

 そして最後は文学作品。これは「恥ずかしさ」隠しであるが、少し特殊な恥ずかしさが絡んでいる。別のシチュエーションで例えるならば、パソコンの履歴やiTunesに入れている楽曲リストを見られた時の恥ずかしさに似ている。「大きい恐竜 ランキング」など、どうでもいいことを検索している履歴や、密かに好きなアーティストの傾向が他人に見られる恥ずかしさ…。頭の中をまるまる覗かれてしまったような恥ずかしさを隠すために文学作品にもカバーをかけているのかもしれない。

 総合すると、本にカバーをかける動機はすべて、他人に対して「恥ずかしさ」「誤解」される要因を隠す行為である。心理学者のアドラーが「人間の悩みのすべては対人関係である」と言っているが、本にカバーをかける動機も、もとを正せば対人関係の悩みと直結しているのではないだろうか。 <文/原田まりる>

【プロフィール】


85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU
原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/