祈祷師や呪術師など、いわゆるシャーマンの存在は、日本においては陰陽師や青森県・恐山のイタコ、沖縄地方に伝わるユタなどが思い浮かぶ。現在でも、祈祷師の力を崇拝し、病気の治療や人を呪い殺すことができると信じている国や地域がたくさんある。中国も例外ではなく、一部の農村地域では、病の治療を祈祷師が行っているところもある。
そんな中、とんでもない事件が起きた。「頭條新聞」(2月29日付)によると、四川省の僻地にある漁龍村で、祈祷師が病気の治療中に村人を“蒸し殺す”という事件が発生したのだ。
同記事によると、この村に住む農家の女性は数年にわたって病気を患い、病院での治療も功を奏さなかったことから、祈祷師に治療を依頼したという。しかし、女性の絶叫を耳にした村人たちが女性の家に駆けつけると、庭先で信じられない光景が広がっていた。
2人の祈祷師により、大きな鉄鍋の上に置かれた木製の桶の中で、女性が蒸し焼きにされていたのだ。桶はブタの屠畜に使用するもので、竹ザルでフタが閉められていたという。完全に肉まんと同じやり方で、人間を蒸していたというわけだ。祈祷師は村人たちに対し「彼女が泣き叫んでいるのは、彼女に取り憑いている悪魔が苦しんでいる証拠であり、儀式が終わるまでは彼女を外に出してはいけない」と説明したという。
しかし、すでに女性の顔色は変わり果て、意識が朦朧となっていた。命の危険を感じた村人たちは祈祷師の制止を振り切り、桶の中から女性を救出。駆けつけた医師による処置が行われたが、治療もむなしく、女性は間もなく息を引き取ったという。地元警察は、2人の祈祷師を殺人容疑で緊急逮捕した。
中国のSNSでは、「現代でも、祈祷師に治療を頼むやつがいるのか」「女性の治療費が支払えなくなった家族が厄介払いしたくて仕掛けたワナだな」など、さまざまな意見が飛び交っているが、中国の社会問題に詳しい上海在住の日本人ジャーナリストは次のように話す。
「農村部では医療保険に未加入の人が多く、金銭面や距離的な問題から病院に行くことすらままならないという現実がある。そのような人たちが、文字通り、神頼みで病気の治療を祈祷師に依頼するのです。2012年には海南省の村に祈祷師を名乗る3人組が現れ、村人の財産を奪うためにある家族を洗脳し、悪魔祓いとの名目で一家を殺害した事件も発生しています。学歴のない地方の農民たちは、今も迷信から抜けられないのです」
現代でもアフリカなどの一部の開発途上国では、シャーマンの存在は一般的で、治療の名目で殺人事件も多く発生している。このように、祈祷師によって引き起こされる事件に共通するのは、いずれも貧しい地域で発生していることだ。社会保障の充実こそが、危険な祈祷師を排除する一番の手段なのかもしれない。
(文・写真=青山大樹)