残業がなく、安定していてリストラの対象にもならない……。公務員の仕事は日本でもいいイメージがあると思います。一方、ゴミ拾いや廃品回収などのお仕事は、若者にとっては微妙なものでしょう。しかし、今回ご紹介する「クズ拾いの帝王」の話を聞いたら、考えが変わるかもかも知れません。
中国の首都・北京に、都市衛生を担当する公務員、王維平(オウ・イヘイ)氏という人がいました。1987年当時、王氏は増え続けるゴミをいかに処理するか、という問題に取り組んでいました。そんな中、ある日、四川省からから来た杜茂洲(トウ・マオシュウ)氏が政府のオフィスにやってきて、王氏に「ゴミ処分場でクズ拾いをさせて欲しい」と申し出ました。(ラ・ガイシュン)
クズ拾いのために全国から人が集まり、15万人の大勢力にゴミ問題に頭を悩ませていた王氏としては大歓迎です。「本当なの?もちろんオーケーだよ」と、すぐに許可を出しました。早速、政府から許可ももらった杜氏は、500余人の親族を率い、1000畝(約0.67平方km 東京ドーム約4.5個分)もあるゴミ処分場の周りに柵や小屋を建て、生活を始めました。
すると、四川から来たクズ拾い軍団は一人月1500人民元以上(約25,500円ぐらい)も稼ぎ始めました。当時の王氏の月収は200人民元(約3400円ぐらい)だったので、公務員の7倍以上の収入、ということになります。一気に富裕層の仲間入りです。
杜氏は「クズ拾いの帝王」として全国に存在が知られることになりました。90年代になると四川だけでなく、河南省、江蘇省など多くの人が仕事を辞め、北京に集まります。「自分もスティーブ・ジョブズになりたい!」といったような感じで、杜氏を目標にクズ拾いを始めました。
やがて、人が多くなりすぎて、縄張りを巡る喧嘩は毎日起こるようになりました。最も勢力が大きい四川、河南と河北の出身者たちは、北京・クズ拾い業界の御三家となります。そして、御三家は自分たちの勢力を拡大するために、「飛虎隊(ヒコタイ)」という軍団を組織。飛虎隊のメンバーは若者が中心で、クズ拾いでなく、敵組織の飛虎隊と戦うことが主な仕事です。飛虎隊によって当時の北京の治安が悪化してしまうほどでした。
次第に、王氏の仕事もクズ拾い軍団たちの管理になりました。彼は喧嘩をなくすために、各勢力の代表者を呼び、クズ拾い帝王総会を開催。各勢力の担当分野を分けました。例えば江蘇は廃油回収をし、四川はクズを拾い、河北はクズの分類をして……といった具合です。これで各勢力が喧嘩する要因をなくしました。そして、2009年には北京のクズ拾い軍団は総勢15万人まで増えました。
最近は原油安の影響で儲けが減るも、依然として活躍中ただ残念ですが、石油安の影響で、最近はクズ拾い業界も厳しくなっています。石油が安くなり、プラスチックの価格もダウン。また、中国では、鉄鋼などの金属は生産過多な状況のため、近年金属の回収事業も不振です。
さらに、中国政府もゴミ処分場の整備に力を入れ、クズ拾いや物乞いは立ち入り禁止になるところも増えています。こうした要因により、北京のクズ拾い軍団の人口は昨年末まで10万人以下に減ってしまいました。
しかし、クズ拾い帝王たちは業界の未来を心配していません。なぜなら北京のゴミ問題を解決するためには、大量の人手が必要だからです。もし彼ら1日でも休んだら、北京の街中はすぐペットボトルに占領されてしまうでしょう。クズ拾い軍団が消えることはまだ当分なさそうです。
【プロフィール 】
ラ ガイシュン 香港出身。2009年に来日し、現在は都内IT企業セブンコードにデザイナーとして勤務している。本業以外にも、英語・中国語の通訳や雑誌コラムの執筆、海外貿易アドバイザーなど多岐にわたる分野で活動中。【Facebook】
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