私が仕事をするうえで重視しているのは対話です。組織とトップのコミュニケーションがうまくいかないと、トップは右と言っても、組織が同意せずに左に向かうことが起こりえます。そうならないように、一緒に働いてくれる人たちとは、相手の話に聞く耳を持つ関係をつくっていく必要があります。
じつはその点、就任前は少し心配していました。トレーニングの中で、日本人はすぐに打ち解けない、会議でもうつむいてばかりだということを聞いておりましたので。
ところが実際に日本に来てみると、みなさん非常にオープンに話してくれます。当初は質問が少なかったのですが、「質問してくれないなら私のほうから聞きます」といったら、いろいろと質問もあがってくるようになった。いまのところ外国人社長だから対話しにくいと感じたことはありません。
これまでさまざまな地域の市場を経験してきました。アメリカやヨーロッパで営業畑を歩み、2005年からはアフリカを担当。ナイジェリアは厳しい市場でしたが、4年間で売り上げを4倍に拡大させることができました。
どの市場にもそれぞれ特徴がありますが、日本の市場は、想像どおりだった点と、少し違っていた点があります。私のかつてのボスは、P&Gジャパンで務めた経験があり、彼から日本の市場の特徴についていろいろ聞いていました。たとえば、日本の市場では品質が重要であること、そして消費者が非常に厳しい目を持っているということは、まさに聞いていたとおりでした。
一方、驚いたのはイノベーションの重要性です。私たちは比較的裕福で、自分がいいと思うものを積極的に手に入れる消費者を「ワンプラス」と呼んでいますが、日本のワンプラスは革新的なアイデアをとても重視している。これは想像以上でした。
こうした特徴を踏まえたうえで、現在、20年に向けての成長戦略を練っているところです。具体的な形で発表できるのは数カ月先になりますが、いま考えていることをいくつかお話ししましょう。
ビジネス面では、カテゴリーを2つに分けて見ています。1つは、衣料用洗剤やヘアケアなど、数量的には爆発的な伸びが期待できない成熟カテゴリーです。ただ、先ほど言ったように日本の消費者は革新的なアイデアに対する反応がいい。たとえば洗剤のジェルボールのように、消費者をワクワクさせる高付加価値の商品を提供していけば、たとえ数量が伸びなくても、金額的に伸ばしていくことは可能でしょう。
もう1つは、成長途上のカテゴリー。たとえば消臭芳香剤のファブリーズや、柔軟仕上げ剤のレノアなどは、まだ使っていない方も多い。これらのカテゴリーは、中長期的に数量の伸びが期待できます。
この2つに加え、いまはまだ日本にないカテゴリーを展開していくこともありえます。いま日本で展開されているブランドは約20ですが、P&Gは世界で約65のブランドを擁しています。その中から、消費者ニーズや他ブランドとの競争状況、サプライチェーンなどを考慮して日本にふさわしいものを、今後検証していきます。
人材の育成にも力を入れていきます。人材の成長なくして、ビジネスの成功なし。ですから、人材育成も人事に任せっきりにするのではなく、私自身が若い人たちに直接講義をしたり、1対1でコーチングする機会をつくっていくつもりです。グローバルのP&Gを引っ張る人材が、日本から続々と出てくる状況をつくりたいですね。
----------
P&Gジャパン代表取締役社長 スタニスラブ・ベセラ----------