イキる、とは調子に乗る、勢いづく、威張る、偉そうにするなどの意味。吉本新喜劇・座長の小籔千豊(こやぶ・かずとよ)は「イキる奴」が嫌いだという。その小籔が、ネットの炎上現象について語った。
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僕みたいな芸人とか人前に出る人は、多かれ少なかれちょっとした発言や態度がネットで炎上したり、罵詈雑言を浴びせられたりします。けれど、僕はそんなのにまったく腹も立たないし、むしろネットで悪口を“カチャカチャ”してる人のほうが可哀想やなあ、と思うんです。
僕は松下幸之助さんや稲盛和夫さんのような人格者になって、新喜劇を大きくしていろんな人に恩返ししたいという最終目標があります。そういったすごい人のマネをして生きていこうと思ってるから、夜な夜なカチャカチャ書き込むのにヒマとカロリーを使うのはもったいなさ過ぎる。
エラい人たちは、ネットで悪口書いたりして時間を使うことはないでしょう。だから僕は子どもにも「金持ちやエラい人のマネせえ、幸せな人のマネをせえよ」と言うようにしています。
はい、ここで問題です。ネットでカチャカチャしてる人とそうでない人、どっちが幸せですか? そんなの100%、カチャカチャじゃないほうですよ。カチャカチャばっかしてたら不幸になることは、みんなわかってる。
「あの人幸せそう、エエ人やわ」と評判の20人のおばはんをモニタリングしてみてください。ちゃんと挨拶して、言葉遣いも優しくて、お店でもエラそうな態度をとらない、とか共通項があるはずです。逆に「あの人意地悪いわ、不幸やわ」と言われてる20人のおばはんを見ると、絶対カチャカチャみたいな行動をしてるはずです。
カチャカチャして自分の文字が世界に発信できてるとか、相手をディスって「やったった感」を持ってるのかもしれんけど、それでハッピーエンドの人生が待ってると思いますか? それよりも、もっとお友だちとおしゃべりするとか、勉強するとか自分が幸せになる方法を考えるのがいいんじゃないですか。
ネットに悪口を書き、炎上してるところにさらに火を放ちに行くなんて、自分から不幸になりに行ってるようなものですよ。あまりに生産性がなさすぎる。それを考えると可哀想やなと思えてくるんです。
僕は「2ちゃんねる」が話題になりはじめた頃でも、NHK(※関西では2チャンネル)のことやと勘違いしてたくらいにネットに疎かった。そんな時、僕がバイトしてたバーに来た客の女のコが、「休みの日はネットサーフィンやってます」とか言う。「何? どこかに波でも来るんか?」と聞いたら違う。さらにそのコたちは「気になる人のブログも見てます」と言い、よう知らん人の日記に、「今回も面白かったです」「私もそれ食べてみたいです」と、「うさぴょん」と名乗ってコメントするとか。
なんやそれ! どこの誰だかわからん同士が愛想バリッバリのやりとりをする。何なん? その時、僕は「日本は沈没しかけとる。こりゃどエラい時代が来るぞ……」とゾッとしたもんですが、今まさにそれが当たり前のどエラい時代になりましたね。
僕は便利になるのがあまり好きじゃない。カメラも電話も技術が進んでいいところはたくさんあるけど、何か「味」はなくなってるじゃないですか、薄まってるというか。科学が進むと必ずダークサイドが出てくる。どエラい時代だからこそ幸せになるための付き合い方を本気で考えたほうがいいと思います。
とはいえ、僕もネットではめっちゃ買い物してますし、去年はインスタグラムでの仕事もかなりあってネットにはお世話になっているんですけどね(笑)。
【PROFILE】1973年、大阪府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2006年吉本新喜劇の座長に就任。「ノンストップ!」(フジテレビ系)などレギュラー多数。
※SAPIO2016年4月号