かつては、"有名税"なんて言葉があったほどファン・マスコミに一方的に攻められることを強いられた有名人たち。しかし近年はSNSという武器を得たことで、彼らが大手メディアにも負けない発信力を身に付け、さらに強い影響力を持ち始めている。
■海老蔵、マナー違反を注意して反響呼ぶ歌舞伎役者の市川海老蔵(38)が自身のブログで3月6日、新幹線に乗車中に音を立ててゲームをしていた「五十代後半か、六十代の一見紳士の方」に遭遇したときの様子を報告。大音量でゲームをプレイし、他乗客も迷惑そうにしていたため海老蔵は車掌に報告したという。
海老蔵は「やっと消す…おせーよ小一時間だよ…そのあと何かにつけ私に睨んでくるのよ、うける。睨みの本家本元に睨んでくるとは失笑、フルシカトしときました」とシャレをきかせて記述。また、その模様を「マナーは自分造りなのかもしれませんね」「マナーは守らなくてはと私自身も見直す良い機会を頂戴して感謝する事にします」と自戒の念も込めて語っている。
一連のブログ内容はメディアからも注目され、「海老蔵、マナー違反の乗客を注意」などといった見出しの芸能記事として拡散。ネットを中心に広く話題を集め、海老蔵は"態度の悪い一般人を注意した常識ある芸能人"として崇められた。だが、ちょっと待ってほしい。あのかつての問題児が”常識ある芸能人”になってしまう、SNSで言ったもん勝ちの風潮に違和感を持つのは筆者だけだろうか。
ツイッターを展開するダウンタウンの松本人志(53)も2月21日、ラーメン屋で「大きな声で携帯で話す客」を注意したことを述懐。松本はさらに「ほんとは君の仕事だよと店員にも苦言。一部始終をただただ黙って見てた後輩にも注意」したと報告し、ファンから賛同意見を多数得ている。だが、これなども有名人の松本でなければ、口うるさいオジサンの愚痴レベルである。それほど称賛されるほどの内容とも思えないのだ。
同じくツイッターを行うHKT48の指原莉乃(23)は、以前からメディアの活用を得意としている。著書『逆転力 〜ピンチを待て〜』(講談社刊)で「炎上したとしても、コントロールできる自信はあります。なぜかというと子供の時から、2ちゃんねるばかり見てたから。火加減がうまいんです」などと公言しており、指原嫌いの漫画家・小林よしのりと対立構図を作って、意図的に話題作りした経緯などを語っている。
海老蔵のブログの読者は33万8千人、松本のフォロワーは337万人、そして指原のフォロワーは108万人(いずれも3月8日時点)。下手なメディアよりも目している人の数が多く、一度何か発言すれば大手マスコミが食いついて記事にすることも少なくないため、その発信力の大きさは計り知れない。
「怖いのは発信者の情報リテラシーです。チェックする人間がいないので、SNSでの投稿内容の真偽は発信者本人の良識やその時々の感情に左右されかねない。また、彼らの発言は有名人としての信頼感の上で成り立っているだけなので、事実の裏取りが乏しい情報であることが少なくない。今後、偽りの中傷などで大勢のファンを扇動し、一般人を陥れるような自体が起きなければ良いですが……」(報道関係者)
SNSが盛んになり、著名人やファンの距離がぐっと近づいた昨今、ネット上で新しい形の交流が生まれている。それがエスカレートして、お笑い芸人の雨上がり決死隊の宮迫博之(45)、ほっしゃん(44)、ブラックマヨネーズの吉田敬(42)などSNS上で一般ユーザーに暴言を吐いて揉めるような人物も現れ始めている。いずれも圧倒的多数のファンを従える彼ら有名人の驕りが感じられ、後に猛批判を浴びている。一般人のマナーの晒し上げるのも結構だが、その前に自らを律してほしいものである。
橘カイト(たちばな・かいと)1979年島根県生まれ。編集プロダクションを経て、フリーに。実話誌や週刊誌などで芸能関係の記事を執筆。また、民俗学などにも精通し、日本のタブーにも数多く取材。主な著書に『真相!禁忌都市伝説』(ミリオン出版)ほか多数。