いまや誰でも使えるようになった「インターネット」。便利なのと同時に誰だかわからない匿名(とくめい)の空間だけに、トラブルもしばしば。誹謗(ひぼう)中傷や犯罪予告など、世の中を騒がす事件があとを絶ちません。
自分がだれなのかを明かす「実名制」にしたら、どうなるのでしょうか? 実際に導入した国もあり、本人確認がおこなわれるようになったとたんに「悪意」のある書き込みが40%も減少、効果絶大でした。ところが3年も経つと効果が薄れ、導入時と比べて1割減程度、サイバー犯罪は2倍に増えた年もあり、残念ながら明確な効果は得られなかったのです。
■「通報しました」は半年で7.5万件も
いつでもどこでも使えるようになったインターネットは、いまやなくてはならない存在で、なかでもSNSや画像投稿などコミュニケーション・ツールとしてめざましい発展を遂げました。知り合いでないひとからの情報も得られ、同時に自分の情報も多くのひとに届けられるのがメリットですが、実名を明かす必要がないので悪口や批判も言いたい放題。つい最近もいたずらの「犯罪予告」がニュースで報じられ、残念ながら悪用されているのも事実です。
インターネット・ホットラインセンターの資料によると、2015年・上半期だけでも通報受理件数は約7万5千件もあり、そのうち違法もしくは有害と認められた情報はおよそ3万件、通報の半分近くは「本当」だったことになります。なかでも特徴的なのが、
・わいせつ … 1万件
・規制薬物 … 約3千件
・違法行為の誘い … 約1,500件
と、明らかにNGなサイトや広告が多い点で、リアル店舗だったら存在するのがフシギな件数です。ところがネットでは減る気配はなく、このうち6,500件ほどが警察に通報されていることからも、悪いと知りながら利用されるケースが少なくないのです。
■実名制は「どこ吹く風」?
ネットを「実名制」にしたらどうなるでしょうか? 「誰」かがはっきりしていれば悪いことができない、と思うのは早計で、効果はあっても時限的。2~3年もするともとの水準に戻ってしまった例もあります。
海外では本人確認制を導入した国もあり、実名の効果がどれくらいあるかの研究によると、1日に3万件もあった「悪意」の情報が、導入初日には2万件以下に減少、およそ4割減の効果が得られました。その後の、悪意の情報の月平均数を比較すると、
・1年目 … 約11万件
・2年目 … 約8万件
・3年目 … 約7万件
と、およそ6割にも減少したことからも、効果ありと判断できます。ところが、4年目になると約9万5千件に増加、これは時間とともに悪い意味で「慣れて」しまったと表現できます。
また、サイバー犯罪の年間発生件数は、
・1年目 … 約7万件
・2年目 … 約11万件
・3年目 … 約15万件
とまったく効果なし、ナゼ増える? な結果になったのです。もともと違法とわかっているだけに、実名かどうかも怪しい話ですから、規制されてもどこ吹く風、といったところでしょう。
効果がビミョウなのは意外でしたが、それ以前に、規制が必要な状況にならないよう注意したいものです。
■まとめ
・日本のインターネットでは、毎年13~15万件が違法/有害として通報されている
・ネットを実名制にした国もあるが、3年も経つともとの水準に戻ってしまった
・実名制になったあとも、サイバー犯罪は減るどころか増加した
(関口 寿/ガリレオワークス)