『サザエさん』のキャラクター「ノリスケ」が注目を集めている。その性格に批判するむきもあるが、大人力コラムニストの石原壮一郎氏は「いまこそノリスケから学ぶべき」と熱く説く。
* * *
このところネット上で、ノリスケが注目を集めています。ご存知のとおりテレビアニメ『サザエさん』の登場人物で、フルネームは波野ノリスケ。磯野波平の妹の子どもで、サザエやカツオやワカメにとっては従兄にあたります。けっこうオッサン臭く見えますが、番組公式サイトによると年齢は24~26歳という設定です。
最近話題になっているのは、ノリスケの「クズっぷり」。3月6日放送の「ジェラちゃんとノリスケ」の回では、磯野家の留守番を頼まれたノリスケが、冷蔵庫を勝手に開けてそこに入っていた高級ジェラートを食べてしまい、食べるのを楽しみにしていたタラちゃんを泣かせてしまいます(あとでちゃんとお取り寄せして謝りましたが)。
去年の12月13日放送の「ノリスケ倹約術」でも、マスオと居酒屋に行って絶妙のタイミングで寝たふりをし、マスオにお金を払わせるという「倹約術」を披露しました。ほかにも、土用の丑の日になるとうなぎ目当てで食事時に磯野家に現われたり、すき焼きやメロンなどの豪華なメニューがあるときにはタイミングよくやって来たりするなど、その行動様式は以前から「ハイエナ」(ひどい……)に例えられていました。
「ノリスケじゃなくてゴミスケだ」といった批判の高まりに、放映開始当初から脚本を担当している大御所の雪室俊一さんもBuzzFeedのインタビューで反論。「みなさん、何を根拠に『クズ』だの『ゴミ』と言っているのでしょうか?」「『自分の意見と相違があれば、すぐに批判する』というネットの特性だと思っています」と怒ってらっしゃいます。長年、作品に心血を注いでらっしゃる雪室先生としては、そりゃ腹が立つでしょう。
こんなふうに登場人物の、しかも脇役のキャラクターが大きな話題になるところが、さすが放送開始から47年目になる超長寿アニメの貫録です。ノリスケを罵倒したり批判したりしているのも、いろんなツッコミを入れながら作品を楽しんでいる一環で、むしろ愛されている証と言っていいでしょう。波平の身勝手な暴君っぷりやタラちゃんの無責任な性格なども、以前からさんざんいじられてきました。
ただ、大きく話題になると、マジな調子で「よそ家の冷蔵庫を勝手に開けるなんて、そんなシーンは子どもの教育によくない!」などと怒り出す人が出てくるのが常。大人として、そんなマヌケで無粋な反応はしたくありません。かといって、いわゆるネット民のみなさんのように、アラを探して批判してドヤ顔するのはみっともなさすぎます。
物心ついたころから『サザエさん』に親しんできた世代としては、昨今の“ノリスケブーム”を機に、あらためて彼の存在意義や偉大さを見直してみましょう。何を隠そうノリスケは、人生で大切なことを私たちに教えてくれていると言えなくもありません。というわけで、ノリスケの教えを3つにまとめてみました。
●ノリスケの教えその1「ちょっとぐらいの失敗や欠点は明るさと愛嬌でごまかせる」
完璧な人間なんていません。誰しもノリスケ的なずるさやダメさを持っています。ノリスケが周囲に許されているのは、ひとえに明るくて愛嬌があるから。ダメな自分を取り繕おうとしないところや、クヨクヨしないでいつも楽天的なところが、あの憎めないキャラを作り出していると言えるでしょう。
●ノリスケの教えその2「半端にカッコつけないで、目上の人には素直に甘えるべし」
波平やフネにとって、ノリスケはいつまでも元居候でありかわいい甥です。お酒をたかられたりメロンやすき焼きに大喜びしてくれたりするのは、ちゃっかりしているなと思いつつも、嬉しいことに違いありません。目上の人に素直に甘えられるかどうかは、会社生活においても居心地のよさを左右する重要な要素と言えるでしょう。
●ノリスケの教えその3「ストレスをためずにノンキに生きるのが真の勝ち組である」
ノリスケは出版社勤務で、売れっ子作家の担当編集者です。仕事はけっして楽ではないでしょう。しかし、ストレスとは縁がなさそうです。勤務中に親戚の家で昼寝するなど、仕事にのめり込み過ぎないのがその秘訣でしょうか。政治問題や社会問題など、自分ではどうにもできないことに対して腹を立てている姿も見たことがありません。いつもノンキに生きているノリスケは、クズどころか真の勝ち組と言っていいでしょう。
自分自身も「ノリスケ的なライフスタイル」を心がけたいのはもちろん、周囲にいる「ノリスケ的な人」にも、あたたかい目を向けたいもの。自分では「俺はきちんとしている」と思っていても、誰しもノリスケ的な部分はあります。いちいちカリカリしていたら疲れるだけだし、自分も誰かに失敗を責められたり揚げ足をとられたりしないようにと、ビクビクしながら過ごさなければなりません。
ひと皮むけた大人になるために、今日からノリスケを目指し、何だったらノリスケになった気になってしまいましょう。せっかくですから、ついでにタイコのような若い美人妻を持ったような気になってしまうのも、また楽しです。