本連載前回記事で、消費税増税の延期と衆参ダブル選挙の可能性について論じた。
5月26、27日に三重県で第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催されるため、サミット前の「4月総選挙」、またはサミット後の「衆参ダブル選挙」という選択肢が視野に入ってくるというわけだ。そこで、今回は選挙をめぐる政府・与党と財務省の駆け引きについて見ていきたい。
2月26日から27日にかけて、中国・上海でG20(20カ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議)が開催され、世界的な経済不安が拡大する現状を受けて、世界各国が連携するかたちで財政出動を行うことも議論された。日本もその動きに賛同しており、5兆円規模の補正予算を組んで財政出動を計画しているともいわれる。
この補正予算もそうだが、基本的に予算というのは、すべて財務省の協力なくしてはつくれない。政治家単独でつくることができないのは、予算案の作成には膨大な積算作業と計画書の作成が必要になるからだ。
そして、財務省は基本的に「なんとしても、消費税増税を実現させたい」という方針であり、この部分について、首相官邸側と強く対立している。消費税の10%への増税を延期し、2014年12月に行われた前回の衆議院議員選挙は、「財務省が予算編成を行う時期を見込んで実施した」ともいわれており、政府・与党側の選挙戦術に、財務省側が屈服したかたちになった。
そして、今回も財務省の役割と反発が、政治的に大きな意味を持つことになる。お金を握っているため、省庁の中でも大きな力を持つ財務省だが、1年の間では力を失う時期もある。それは、予算提出後の1月半ばから、各省庁の予算が概算要求として提出される8月下旬までの間だ。
そのため、政府・与党が消費税増税の延期を決定するのであれば、この時期に決めなくてはならない。そして、前述の補正予算を国会で通過させることを考えた時、2つのシナリオが浮かんでくる。
●選挙戦で補正予算を武器にしたい安倍政権
ひとつは、本予算の成立後も国会で審議を続け、会期末の6月1日までに通過させるというものだ。その場合、補正予算成立後に消費税増税の延期を発表して衆議院を解散、衆参ダブル選挙に突入するという予測が立つ。
消費税増税を再延期した上で、「国民にその是非を問う」というかたちで、安倍晋三政権は政治的な禊をするわけだ。
もうひとつは、3月30日までには確実に実現する本予算成立後に衆議院を解散、4月に選挙を行うというものだ。この場合、自民党は補正予算案による財政出動計画を選挙公約にすることで、選挙の道具に使うことができる。
補正予算によって、各事業や各分野にどのようにお金を配分するかが決められる。そのため、「予算配分=お金を配ること」を選挙公約に組み入れることによって、政府・与党は選挙戦を有利に進めることができ、同時に消費税増税の延期もできる。
現在、永田町はこの2つの案、もしくは「(増税を延期した上で)何もしない」という選択肢の中で、大きく揺れている。
(文=渡邉哲也/経済評論家)