妻が借りた奨学金は、夫が返すべきなのか? そんな疑問がネット上の掲示板に書き込まれた。ある男性が「奨学金って自分で返すものだと思ってた」と投稿した。男性の妻には「残り600万近くの奨学金返済」があるが、「専業主婦」を希望しているというのだ。
男性によると、理系の私大大学院を出た妻は、利子付きの奨学金を総額700万円もらっており、返済額はまだ600万円近く残っているという。奨学金の返済があることは結婚前から知っていたものの、「残額まではチェックしていなかった」そうだ。
男性は妻に対して、「子供が小さいうちは良いけど(俺の収入から返済する)、少し大きくなったらまたちゃんと正社員で就職してきちんと自分で返せ」と言ったが、妻はいい顔をしないそうだ。妻は「どうも働く気はない」らしく、「どうしてもというなら、パートくらいなら...みたいな感じ」と、気が進まない様子だという。
男性は、妻から「専業主婦の奨学金を夫が返済するのは当然」と言われるが、「そういうもん?」と疑問に思っている。妻が結婚前に借りていた奨学金を、夫の稼ぎで返済しなければならないのだろうか。柳原桑子弁護士に聞いた。
●「婚姻前の債務の返済義務は、配偶者にはない」「婚姻前の債務の返済義務は、借りた本人にしかありません。法的には、配偶者に当然に支払義務が発生するものではありません」
柳原弁護士はこのように述べる。
「仮に、配偶者が結婚前に妻の債務の連帯保証人になっていた場合には、婚姻に関係なく、配偶者も連帯保証債務を負うので、婚姻後も連帯して支払う義務があります。
とはいえ、今回のような奨学金の場合は、配偶者が連帯保証人だったということはあまりないでしょう。
したがって、今回のケースで、妻が婚姻前に負った債務について夫が連帯保証人になっていないなら、夫には法的な支払義務はありません。妻には自ら稼いで支払う意思が乏しい一方で、夫は仕事をして稼いでいる、という事情があっても、です。
妻は『返済は夫がすればいい』と考えているようですが、法的にはなんら根拠がありません。妻と連帯保証人が支払うのが当然のことだと、よく説明してみてはいかがでしょうか」
ただし、妻が債務を残して死亡した場合は、話が変わってくるそうだ。
「妻が債務を残した状態で死亡した場合、それが婚姻前の債務であっても、死亡時に妻が負っていた債務には違いなく、相続の対象になります。
夫は相続人になりますから、相続放棄の手続きを行わない限り、債務を負うことになります」
【取材協力弁護士】
柳原 桑子(やなぎはら・くわこ)弁護士
1998年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
離婚事件・遺産相続事件などの家事事件、破産事件、不動産関係事件等を中心に、民事事件を扱っている。「離婚手続きがよくわかる本」、「よくわかる離婚相談」、「相続・贈与・遺言」監修(いずれも池田書店)。
事務所名:柳原法律事務所