文・取材:ライター 朝井麻由美 、撮影:カメラマン 小森大輔
●アップデートで一体何が起こるのか?
“未来を予知”するという、誰も見たことのないRPGが、今密かな話題を呼んでいる。それが、『ドラゴンクエストX オンライン』の1stディレクターを務めた藤澤仁氏、初のオリジナル作品となる『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』だ。リリースから1ヵ月後、2016年3月中旬以降に、初めての大型アップデート(Ver.01)が予定されている(2016年3月14日現在)が、このアップデートでは一体何が起こるのか。本作の未来を知る、藤澤仁氏に“予言”してもらった!
サッカーはどこの国が勝つのか。直木賞は誰が取るのか。AKB48でセンターになるのは誰なのか。日々のニュースで、少しでも興味のある分野ならば、先のことを無意識に予測しているはずである。「日本を応援しているが、正直勝つのはブラジルだと思う」、「この新作アニメの声優は○○さんだと思う」、「人気ゲームの最新作はこのハードで出ると思う」といった具合に。
それをゲームの形にしたのが、『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』である。本作の舞台は、人を喰う“アルカナ”という亜人種によって、人類滅亡にさらされている世界。この世界で、予言者の職に就く者だけが、世界を救える可能性があるという。プレイヤーは予言者を育成する学園の生徒を操作し、実際に未来に起きるであろう現実の出来事を予想(予知)。予知をするとアルカナが出現し、戦闘とになる。このように、予知と戦闘をくり返してゲームを進めるのだ。
ゲームに登場するのは、たとえばこのような8択の予想問題(予言テスト)。
「今年、気象庁が東京の桜の開花を発表するのはいつ?」
●予知というキーワード “リアル連動型ゲーム”誕生秘話
(⇒アップデートの内容も気になるが、まずはゲーム誕生の話から。この段落でアップデートのことを話す確率9%)
――長らく『ドラゴンクエスト』シリーズに関わられた藤澤さんが、今回、予言をテーマにしたスマートフォン向けRPGという、まったく新しいゲームを作ることになった、そのきっかけとは何だったのでしょうか?
藤澤 最初からスマホのゲームを作ろうと思っていたわけではないんです。ですが、コンシューマーで新作を作るのは、なかなか難しい時代ということもあって、会社からはスマホのゲームを作ってほしいとオーダーされました。それが、2~3年前ですね。
――そんなにも前から開発されていたのですか?
藤澤 はい。それで、頭に浮かんだのは、“リアル連動ゲーム”というフレーズだったんです。ちょうどゲーム業界で、アナログゲームや対人ゲームに注目が集まり始めた時期だったこともあって。
――リアル脱出ゲームや人狼ゲームが流行しましたよね。
藤澤 もちろん僕自身もやりましたし、ゲームマーケット(※同人、商業問わず非電源ゲームを購入したり、体験できるイベント)にも行ったりして、アイデアの種を探していました。そのときに気づいたのですが、僕たちから見るとアナログゲームは“古いもの”なのに、生まれたときからコンピューターゲームがある世代の人は、むしろ新しいものに感じているということなんです。
――リアルな人と対面でプレイするゲームが、むしろ新しいということですね。確かに、ゲームマーケットの来場者数は年々増加していますし、ボードゲームや人狼ゲームなどをプレイできるカフェなどもここ数年で増えました。
藤澤 そうですね。それがわかったことで、僕の中にコンピューターの中で完結しない、アナログゲームの側面を持った“リアル連動”というキーワードが出てきたわけなんです。ただ、リアルと連動すると言っても、リアルな世界の何と連動すればいいのだろうかと模索することになるわけですが(笑)。そんなあるとき、ふと思いついたのが、皆さんが注目している“AKB総選挙の結果”や“スポーツの試合結果”など、そういった“未来の出来事”を先に予測することが遊びになるのではないか、というアイデアでした。先のことを予測することは、“予知”とも言えますよね。この“予知”という言葉は、ファンタジーを連想させる言葉です。
――予測や予想ではなく、予知というと、確かに神秘的な印象があります。
藤澤 この言葉からインスピレーションを得て、予想や予測といった“リアル”な要素を、いままで携わってきた『ドラゴンクエスト』の世界観のような、“ファンタジー”という自分のフィールドに持ってこられた、そんな感覚がありました。それに、じつは『DQ』 を作っていたときに使わなかったアイデアの中に、“予言者”という職業の案があったんです。
――戦士や武闘家、魔法使いのような職業の中のひとつにですか?
藤澤 そうです。“つぎのターンの敵の行動を予知する能力”を持っていて、敵の攻撃を完璧に防げる、という職業でした。たとえば、予言者が予知のスキルを使うと「ギガンテスがつぎのターンで“痛恨の一撃”を僧侶にくり出す!」とか、そういったことが事前にわかる。敵の行動を先に知ることで、では僧侶を守ろう、などとプレイヤーが判断できるわけです。
――それはおもしろい職業ですね。
藤澤 そうでしょ?(笑)。でも、これを実現するには戦闘システムをいちから組みなおす必要があったため、お蔵入りにしていたんです。それが、“予言”というキーワードに引っ張られて思い出すきっかけとなり、うまく世界観と結びつきました。なので、プレイヤーはこれから“予言者を目指す生徒”という設定にして、このアイデアをバトルシステムにも採用しました。こうして、いまの『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』の形ができあがったんです。
――リリース以降、どういった反応が多いでしょうか?
藤澤 いままで世になかったような、言いかたはアレですが“奇妙”なゲームではあるので、どういったリアクションになるのか不安でした。ですが、いざフタを開けてみると、毎日ログインして遊ぶプレイヤーの率が非常に高いので、とても嬉しく思っています。アプリのゲームは、インストールだけしてもらえても、その後遊んでもらえないことも多いですから。プレイヤーさんたちの継続率も非常に高い、という結果が出ているので、現在は、かなり手ごたえがあります。なかでも、「フィギュアスケートとか見たことなかったけど超おもしろい!」、「興味の幅が広がった」といった感想が多いです。ゲームというのは往々にして、視野が狭くなりがちな側面を持っているので、ゲームの感想としては、ちょっと異質だと思います。
――私自身もプレイさせていただいてそう感じました。“第88回アカデミー賞の作品賞に選ばれる作品は?”という予言テストのために、生まれて初めてアカデミー賞の速報をチェックしましたし、いまでは答える前に下調べをするようになったくらいです。
藤澤 そういった、小さな画面を見てプレイしながらも、このゲームを通じて世の中と繋がれるところは、まさに僕たちが目指したところです。
●大好評のストーリー裏話が本邦初公開! リテイク100回!? ストーリー作りのこだわりとは?
――その一方で、プレイヤーが学園の生徒になって、ミステリーリサーチ部に入部するという“学園もの”のストーリーにも惹き込まれます。ストーリー作りでこだわっている点をお教えください。
藤澤 おかげさまでストーリーはすごく好評でして、ホッとしています。ストーリー作りで気を付けているのは、登場人物が“作り物”だと思われないことです。ファンタジーというのは、架空の世界のお話しなので、そこにいる人物まで作り物に思われてしまったら、おもしろくなくなると僕は考えています。
――ファンタジーでありながらも、リアルに感じさせるということでしょうか?
藤澤 そうですね。そう感じさせる工夫のひとつが、キャラクターの感情、感覚に共感性を持たせることです。たとえば、ストーリーの2章では、“死んで霊になった女の子”が出てきます。この子の死んでしまった理由が“魔法の力で殺された”だとしたら、途端にしらけてしまう。ファンタジーの世界観では、その世界の住人の精神までファンタジーにしてはいけないと考えています。ストーリーを読み進めていくと、この子は恋愛に悩んで死んでしまったと判明しますが、こういった、現実世界で起こること、自分たちにも起こりうる出来事として描くように心がけています。誰が読んでも、共感ができるように。
――確かに、読めば読むほど学園の生徒たちに親近感が湧きます。
藤澤 ちなみに、2章はいちばん最初に作ったストーリーなんです。ホラー要素とミステリー的な謎解き要素があり、登場人物は明るくて、最後に少し救いがあるといった構成は、本作の縮図みたいなものです。
――現在は、ミステリー仕立てで部員たちを中心にしたエピソードが展開していますが、これからストーリーは、どう進んでいくのかを少しだけ教えてください。
藤澤 そうですね……少しだけ“予言”するならば(笑)、10章くらいまでは、キャラクターひとりひとりの人間性を描いていく話になると思います。彼らの個性を描きつつ、物語の核心にも少しずつ触れていく……、といった具合になります。物語全体の構想からすると、まだまだ全然です。
――ゲームリリースからいままで、週一くらいで新しいストーリーが解禁されていますが、今後もこのペースで配信されるのでしょうか。
藤澤 それくらいのペースで書けたらいいんですが(笑)。とにかく自分の作り方は、プロットを決めるまでの時間のかかりかたが尋常じゃないんで……。“シナリオはリテイク100回”と言うのが僕の持論なのですが、誇張ではなく、ひたすらにリテイクをくり返しています。何度書いてもピンとこなくて、最後の最後にガラッと変えることも多々あります。
――それだけプロットが大切なのですね。
藤澤 そうですね。あ、ちなみに、1章に裏話がありまして、重要な役回りを演じる“タンポラゴラ”という、マスコット的なモンスターが登場しますが、あのモンスターは当初、ストーリーに登場する予定はなかったんです。
――タンポラゴラは、いまプレイヤーの間で密かな人気者ですね(笑)。
藤澤 タンポラゴラは、最初は背景デザイナーのイタズラだったんですよ。作成中の画面に、隅っこに小さく、変な根っこのモンスターがいて(笑)。それで、せっかく作ったのだから、こんな隅っこじゃなくて目立つところに置いてあげなよ、と言ったら、“購買部”の画面のど真ん中に移動されました。それで毎日見ているうちに、こいつもストーリーに登場させようと思い始めて、いまに至ります。そうしたらやたらと人気が出てしまいましたね(笑)。
●ゲームをプレイすることで手元に何かが残るようにしたかった
――タンポラゴラは人気なので、公式グッズ化されたらいいな、なんて……そんな未来を予知したいです。タンポラゴラもそうですし、敵としてバトルする小アルカナたちも、勝利して捕獲した後で、毎日バトルして地道に育てていくと愛着が湧きます。それぞれのアルカナごとにエピソードが用意されていることもあって。
藤澤 ありがとうございます。それも意識して作った点です。強くなるために時間をかけて、お金も使って……というのがよくあるスマホゲームの構造ですが、そういう、強さを中心にする作りにはしたくありませんでした。完全な新規のタイトルなこともあって、まずはゲームの世界観を知ってもらって、好きになってもらうことを最初の目標にしています。
――世界を好きになるのが最初ですか?
藤澤 ええ。まず、なにより先に“好き”が来てほしい。だから、この世界を好きになってもらうために、世界観の作り込みや設定などは、徹底的に考えて構築しました。プレイヤーさんたちはストーリーを読みながら、ふと考えてもらったり、アルカナのフレーバーテキストを読んで、世界の姿を想像してもらえたりしたらいいなと。
――なるほど。
藤澤 僕がこれまで関わってきた『ドラゴンクエスト』も、その最新作がおもしろいかどうかなんて、遊んでみなければ誰にもわからないことですよね。
――言われてみると、そうですね。
藤澤 でも、プレイヤーさんは『ドラゴンクエスト』の世界自体が“好き”だから、信じて遊んでくれるんです。だから、スマホのゲームである『予言者育成学園』も、そういう風に、コンシュマーのゲームと同じような感覚で、まず最初に好きになってもらえるようにしたいと考えています。
――なるほど。スマホのゲームもコンシュマーゲームのように、ですか。
藤澤 スマホは、すごくいいハードだと思うんです。誰でも持ち歩いていて、すぐにネットに繋がって、ゲームのデバイスとしても優秀です。けれど、ファミコン時代からゲームをやっている方は「スマホゲームは手元に何も残らない気がする」とよくおっしゃるんですよね。
――確かに、いくらスマホゲームをやり込んでも、手元にファミコンカセットのようなソフトがあるわけでもないし、ゲーム内の画像データでしかない、と感じることもあります。
藤澤 ゲームビジネスの本質は、物ではなく“体験”を売ることだと思っています。ただ、プレイした後に、その体験に伴った“物”が残らないと、虚しく感じるというのも、とてもよくわかります。なので、せっかくアルカナというキャラクターが人気があるのだから、その絵柄のタロットカードを作って、一定以上の課金をしてくださった方にプレゼントするのはどうかと思っています。
――それが、今回のアップデート後に予定されている、“タロットカードプレゼントキャンペーン”なのですね。
――そういえば、“アルカナ”はもともとタロットの用語ですよね? タロットカードでは、使役アルカナたちの絵柄がすべて見られるのでしょうか(※本ゲームでプレイヤーは“アルカナ”と言われる亜人種を使ってバトルする)。
藤澤 そうですね。バトルで捕獲して育ててもらっている小アルカナの絵柄になっています。それ以外に、タロットカードには大アルカナというのもあるのですが、そちらは、ゲーム起動時に、毎日表示されるオリジナルの絵柄のものが入る予定です。
――タロットカードが1セットもらえるとは、豪華ですね。ところで、大アルカナと言えば、今回のアップデートでは世界を脅かす存在として、まさに“大アルカナ”が襲来し、学園のクラス全員で協力して撃退を目指す討伐戦が新実装される、と告知されています。
藤澤 そうです。今回のアップデートの大きな目玉となります。この敵の大アルカナの絵柄のタロットカードも、将来的には何かしらの形で作れたらいいなと思っています。
●アップデート後の大アルカナ戦は“ちょうどいいメンバー”が重要!
――大アルカナの話題が出ましたが、最後にやはり、アップデートで最も気になる“大アルカナ討伐”についてのお話を、“予言”していただけませんでしょうか?
藤澤 そうですね。“予言”というか、これは確定した未来なので“絶対予知”ですが(笑)。まずひとつは、以前から告知しているバトルシステムの新要素“大アルカナの襲来”です。これまでのゲームの世界観としては、世界は滅亡の危機に瀕しているものの、プレイヤーがいる学園の中は平和で、何のためにアルカナを育てているのかの“意味付け”が十分ではありませんでした。それが、今回の大アルカナの登場で、いよいよアルカナを育てることに意味が生じます。
――育てたアルカナを使って行う大アルカナとのバトルは、今プレイヤーが40人単位で分けられているクラスでの団体戦になるのでしょうか?
藤澤 そうです。クラスの40人全員で大アルカナ戦に挑みます。大アルカナのHPはクラスで共有されます。プレイヤーは1バトルにつき10ターンまで戦え、もちろん時間の限り連戦も可能です。
――それで少しずつHPゲージを減らしていく仕組みでしょうか?
藤澤 はい。ちなみに、バトルに参加して1ダメージでも与えられれば、討伐時にアイテムをもらえますよ。
――いまは、プレイヤーが成績に応じて“一般クラス”、“特待生クラス”、“超特待生クラス”と分けられていますが、討伐には、やはり超特待生クラスのほうが有利なのでしょうか?
藤澤 熱心なプレイヤーが集まっているという意味では、超特待生クラスや特待生クラスの方が有利になるとは思います。ただ、クラスの中で“貢献度”がトップの人だけがもらえるアイテムというのもあるので、クラストップを目指すなら一般クラスのほうがなりやすいといった利点もあります。
――アメジストは必要になるのでしょうか? いままで散々、ガチャに使ってしまっていた人も多いのではないでしょうか(笑)。
藤澤 それは遊び方にもよるので、どちらの方がいいということではありません。そして、もうひとつの“絶対予知”は、大アルカナ討伐とセットで新しく登場する“守護天使ラファエル”入手のイベントです。この守護天使を入手し、いっしょに大アルカナに立ち向かうという仕組みになっています。
――守護天使を入手して、大アルカナに挑む! この守護天使入手にあたって、プレイヤーが、やっておいたほうがいいことはあるでしょうか?
藤澤 そうですね……。守護天使戦ではないのですが、大アルカナ戦は連戦になる場合が多いと思うので、一部のアルカナだけを強化するのではなく、多くのアルカナをバランスよく育てておくことをおすすめします。
――いよいよ本格始動する『予言者育成学園』、藤澤さんの絶対予知を参考にさせていただきつつ、楽しい予知の時間とともに、バトルも満喫させていただきます。ありがとうございました!
予言者育成学園 Fortune Tellers Academy メーカー:スクウェア・エニックス 対応機種:iPhone/iPod touch / Android 発売日:配信中 価格:無料(アイテム課金制) ジャンル:RPG
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