近年、医療の進歩に伴い、病気や怪我を抱えながら仕事を続ける人が増えています。そんななか、「働きながら治療を受けている人でも所定の状態になったら保険金が支払われる」という健康リスクに対応した住宅ローンが注目を集めているそうです。
そこで今回は、健康リスクマネジメントの第一人者としてビジネスの現場で活躍する産業医の大室正志先生に、いろいろと話を聞いてみました。
――いま、こうした住宅ローンがなぜ支持されるのか、その背景についてお聞かせください。
「かつては、ガンや心臓の病気などにかかってしまった場合、会社を辞めるか、休むか、選択肢はどちらかだったと思います。いまは治療と仕事を両立していくケースが増えました。とはいえ、病状によっては、体の負担の少ない部署への異動などが必要なケースもあります。こうした判断を求められるのも、産業医の仕事のひとつです。医学会では、だいたい10年後のことを考えた議論がおこなわれるのですが、いまから10年前はメンタルケアの話がテーマでした、そして、いま、テーマになっているのが、ガン就労など、治療やリハビリと仕事の両立の話なんです」
――ここ数年で環境も大きく変わってきているんですね。
「ペースメーカーを使用されている方は、周囲から見てもわからないくらい普通に仕事をされています。また、ガンの手術から一週間で復帰される方もいます。ガンの放射線治療のため、30分だけ職場を抜け出して病院に行くというケースもありますし、いまや病気や怪我と付き合いながら仕事を続けていくことは、あたりまえの時代になりました」
――仕事をしながら治療と向き合うには、職場の理解も必要となってきますよね?
「たとえば、心筋梗塞で心臓の機能が50%程度になってしまった人がいるとします。ご本人が、以前と同じ部署で、バリバリ働きたいと言う気持ちは理解できるのですが、安全を考えると、やはり負担の少ない部署への異動を進言せざるを得ない状況が発生します。そのときに、問題となるのが、残業代や営業手当をベースに生活設計をしているケース。“負担の軽減=収入の低下”になってしまう。病気、キャリア、生活設計、こうした複数の悩みを同時に抱え込むことで、メンタル不調につながることも少なくありません。お手玉を例にとるとわかりやすいのですが、お手玉が1個や2個の場合は、失敗しないのですが、これが3個になると突然、難しくなる。メンタルも同じで、抱えているものが増えてしまうことで、不調につながります」
――確かに、いつ何時、自分にそのようなリスクがふりかからないとも限りませんね。
「私自身、医師という資格があるので、自分が動けるうちは食い扶持には困らないという安心感はあります。ただし、病気や怪我で動けなくなったら、逆に大企業のような福利厚生に守られているわけではないので、大きなリスクを抱えることになりかねません。医師に限らず、プロとして仕事をしているたちは、同じように、万が一のことを考えた健康リスクマネジメントを意識していると思いますね。さきほど、抱え込むものが多くなるほど、メンタルにも響いてくるという話をしましたが、病気や怪我から復帰される過程の中で、悩みとしてお聞きするのは、住宅ローンや教育費の話ですね。いま話題となっている返済リスク対応型住宅ローンのようなリスクヘッジ商品もひとつの選択肢だと思います。万が一の場合でも、病気や怪我と向き合いながら、ポジティブに自分らしい人生を送っていける社会を実現するために、産業医として、社会に役立つ活動を続けていけたらと思っています」
そう大室先生が語っているように、これから先は「病気や怪我と付き合いながら仕事を続けるのがあたりまえの時代」になっていく。いざ自分がそうした場面に直面したときのためにしっかりと備えておくには、家を買うことがひとつの保険となり、「返済リスク対応型住宅ローン」が注目を集めているのかもしれない。
2016年3月現在、3大疾病と16の特定状態になった場合、住宅ローンの残債が0になるというタイプの返済リスク対応型住宅ローン(団信革命)は、都市銀行では、りそな銀行、地方銀行では、埼玉りそな銀行などが取り扱っているので、これからマイホームをと考えている人や、現在住宅ローンを抱えているという人も、比較してみるいい機会なのではないだろうか――。