ゲームエンジンの発達はゲームの制作環境を大きく変化させたが,それと同じくらいにゲームを(とくにインディーゲームを)大きく変えたものに,物理エンジンの普及がある。物を積み上げたり壊したりという,いわゆる広義のサンドボックス――「Minecraft」など,プレイヤーが自由に建造物などを作成できるゲームジャンルの基本ともいうべき構造は,物理エンジンの登場によって,従来とは比較にならないくらい簡単に実現できるようになった。
そんな中,2013年頃から密かなブームとなり,個人的に注目しているのが筆者がブリッジコンストラクタ系と呼んでいるゲーム群である。ひねりのない命名で恐縮だが,要は橋を作るゲームのことだ。プレイヤーは橋を建設し,その上を課題となる車が通る。車が無事通過できればステージクリアという寸法である。
ゲームの構造は実にシンプルだが,上を通る車が重たすぎれば強度不足で橋が崩落したり,1台は無事に通せても2台目は耐えられなかったりと,これがなかなか楽しく,そして悩ましい。
■成功はゲームの完成度あってこそ
まず最初に,Poly Bridgeにはほかのブリッジコンストラクタと明らかに異なる部分がある。この差別化要素なしには,Poly Bridgeの成功はなかっただろう。Corrieri氏は本作の特徴を,以下の7つの要素だと解説した。
・シンプルなビジュアル:しばしば2Dグラフィックスで表現されがちな同ジャンルにおいて,ポップな3Dポリゴンで構成された画面は見て楽しく,橋の建築UIも使いやすい。
さまざまな差別化が行われているPoly Bridgeだが,最終的に大きくブレイクした最大の要因は,最後の「コミュニティ」にあるそうだ。では実際にはどんな機能が用意されているのだろう。氏はこの説明として,以下の5つのポイントを挙げた。
・リプレイ記録とシェアシステム:動画の共有には,高いプロモーション効果がある。だが動画を共有してもらうためには,まず元となる動画が手軽に作れねばならない(この機能は後述でより詳しく紹介する)。
■10秒の動画がもたらしたハーフミリオン
さて,Poly Bridgeにおけるリプレイ共有は,なかなか個性的で,かつよく考えられたシステムになっている。近年,国内外共に隆盛を見せているゲーム実況動画だが,今となっては「埋もれてしまう」危険性は常につきまとう。自分が有名なゲーム実況者やYouTuberでもない限り,いきなり爆発的な再生数を稼ぐのは難しいだろう。
この現実を踏まえ,Poly Bridgeには15fpsで10秒程度のプレイ動画を,GIF画像として書き出す機能が実装されている。もちろん生成はワンボタンだ。こうして生成されたGIF動画はローカルに保存することも,SNSに投稿して画面遷移なく視聴することもできる。Poly Bridgeの動画は,「視聴者にとって手軽」なのだ。
結果,ローンチ時は250〜300本程度の売上だったPoly Bridgeが,Twitter上に動画が溢れたことで,ゲーマーの注目を集めることに成功した。その後,YouTubeにも動画はどんどん増えていき,Twitchでゲーム実況が行われるに至ってブレイクが始まった。この動きはソーシャルブックマークサービスであるRedditに波及し,ここでPoly Bridgeは初めてSteamのセールスベスト10に入ることになる。すると有名ゲームになったPoly Bridgeに対して,商業ゲームメディアの注目も集まるようになり……という連鎖で関心はどんどん高まり続けたのである。
現在,Poly Bridgeは50万本近くを売り上げるタイトルに成長した。初動300本のインディーズゲームは,ハーフミリオン越えに手をかけつつあるのだ。
■「初動」をいかに作るか
Corrieri氏は最後に,それぞれのSNSの特徴を紹介した。
Poly Bridgeのマーケティング戦略は,SNSへの露出に集中したものであり,そしてその戦略は見事に成功した。氏は「初期にどうやって関心を持ってもらうかが重要。それができれば,そこから先は自然流入が期待できる」と語っていた。
Poly Bridgeのケースは,もしかすると「うまく行き過ぎた」例なのかもしれない。Corrieri氏も「予想外の成功」と素直に認めているし,実際にも恐らくそうなのだろう。だがGIFを使った初期のマーケティング手法と,その10秒の動画でも十分に魅力が伝わるゲームデザインは,インディーズゲーム開発者のみならず,今後のゲームマーケティングおよびゲームデザインの一つの指針として,覚えておいても良いのではないだろうか。
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