日本古代史研究の第一人者といわれる上田正昭・京都大学名誉教授が逝去したニュースが、韓国でも注目を集めている。というのも、上田名誉教授は、天皇の“ゆかり発言”に影響を与えた人物として知られているからだ。
天皇の“ゆかり発言”とは、2001年12月18日の記者会見で「私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています」と、天皇自身が述べた発言のこと。百済とは4世紀から7世紀に朝鮮半島に実在した国家で、現在の韓国の全羅道周辺が国土だった。武寧王とは、その百済の第25代王だ。つまり“ゆかり発言”とは、受け取り方によっては「天皇家は百済にルーツがある」という内容にも聞こえる発言なのである。
当然のごとく日本社会に大きな衝撃を与えた発言となったが、日本以上の大興奮に包まれたのは韓国だ。
当時の韓国マスコミは「日王(韓国での天皇の呼称)、朝鮮半島との血縁関係に初めて言及」などと一斉に報じた。天皇家のルーツが韓国と関連深いことは当時から周知の事実ではあったものの、韓国では「日本社会はそこに触れることを事実上、禁止している」と考えていたのだ。“ウリジナル”という蔑称が生まれるほど何かと起源に執着する韓国だけに、天皇家のルーツが韓国とゆかりが深いという言質が取れたことに喜びを隠せなかったわけだ。
本当かどうかはまったく定かではないが、韓国ではその“ゆかり発言”に多大な影響を与えた歴史学者が上田名誉教授となっている。そんな背景があるからこそ、上田名誉教授の訃報を伝える韓国メディアは、「“日王は百済の子孫”と明かした日本歴史学会の巨頭・上田氏逝去」「韓国史と韓国人を愛した日本古代史の偉人」などと、まるで恩人の死を悼むような見出しが並んだ。
見出しだけでなく、内容もベタ褒めが多い。韓国メディアの報道を抜粋してみよう。
「上田は国家主義史観に染まっていた近代日本の古代史学会に、東アジア交流史の観点から言語学、民俗学などの多様な方法論を動員して日本史を再構成する“上田史学”で新しい風を起こした」(ハンギョレ新聞)
「生前、日本の建国神話が韓国の檀君神話(韓国の建国神話)の影響を大きく受けたと主張し、韓半島から渡ってきた人々に対して使う“帰化人”という用語を“日本中心的”として、“渡来人”という用語を定着させた」(アジアトゥデイ)
「韓国、中国との関係を重視する視点から日本の古代史を分析し、古代朝鮮史研究などにおいても確固たる里程標を残した」(世界日報)
ちなみに、上田名誉教授は韓国政府から勲章を授与されている。09年に授与された「修交勲章(崇礼章)」というもので、友邦や親善の増進に貢献した人物に与えられるものだ。まさに韓国にとって上田名誉教授は、日本古代史の第一人者というべき人物といえるだろう。
いずれにせよ、上田名誉教授の訃報によって、再び注目を集めている“ゆかり発言”。無用な摩擦をあおるようなことだけはしないでほしいものだ。