条例じゃないから構わないのか? 「表現の自由」にも抵触? 堺市の新たな“エロ本取り締まり”施策に、出版業界が公開質問状を送付 | ニコニコニュース

日本雑誌協会 公式サイトより。
おたぽる

 新たな「表現規制」が始まったのか。3月18日、堺市がはじめた「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」に対して、日本雑誌協会と日本書籍出版協会が公開質問状を送付した。

 この協定は、堺市が実施している「堺セーフシティ・プログラム」の一貫として始まったもの。堺市では2014年から国連UNWomen(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)が取り組むセーフシティーズ・グローバル・イニシアティブに参加。その中で実施された、現状と問題点を報告する「スコーピング・スタディ・レポート」で「コンビニエンスストアに性暴力を主題としたものを含むポルノ漫画やポルノ雑誌が、目につく形で展示されている」という批判がなされたのである。

 これを受けて、堺市ではコンビニに対して、成人雑誌陳列棚の目隠し取付けや、個別の包装の実施を呼びかけることになったのである。

 目隠しや包装資材は、堺市からコンビニに配布される。この呼びかけに応える形で、市内のファミリーマートでは16日から個別の包装などが実施されることになった。

 この協定には、さまざまな問題点がある。

 もっとも大きな問題点は、個別の包装される対象はどういうものかという点だ。堺市では「成人雑誌」という言葉を用いているが、具体的な内容を定めてはいない。

 この事業を担当する市民協働課に尋ねてみたところ「大阪府が府青少年健全育成条例で定める有害図書」のことだという。大阪府の有害図書指定制度は「包括指定」と「個別指定」の両方を併用。ただ「個別指定」は2010年以降行われておらず「包括指定」が運用の中心だ。

「包括指定」は、条例で定める基準によって自動的に有害図書となる制度。大阪府の条例では、書籍・雑誌の有害図書に該当する基準は「全裸又は半裸での卑わいな姿態、性交又はこれに類する性行為で下記の内容を掲載するページ(表紙を含む)の数が、総ページの10分の1以上又は10ページ以上を占めるもの」となっている。

 これに、不定期に行われる「個別指定」を判断基準にして、販売店でめいめい区分陳列を行うのが大阪府の制度だ。ところが、大阪府で個別指定が実施されたのは2010年が最後。

 結局、店舗が独自に「全裸又は半裸での卑わいな姿態、性交又はこれに類する性行為」か否かを判断して「総ページの10分の1以上又は10ページ以上」か数えなくてはならない。毎月個別にタイトルを挙げて指定する東京都の制度に比べると、不明瞭なのである。

 さらに問題なのは、堺市が独自に実施する包装。フィルムは幅12センチにも及ぶもので、雑誌・書籍の表紙の大部分が見えなくなってしまうのだ。これは大阪府の条例を逸脱した行為ではないかと疑われる。日本雑誌協会編集倫理委員長の高沼英樹氏は、憤りを隠さない。

「大阪府の青少年健全育成条例施行規則では、有害図書の区分陳列の方法として“ビニール包装、ひも掛けその他これらに準ずるものとして知事が認める方法により有害図書類を容易に閲覧できない状態”にするよう求めています。大阪府に確認したところ“その他”は現在実施されている二点シール止めのことだといいます。おまけに大阪府が2010年以来有害図書の基準も示していない中で、どうやって判断すればいいのかも説明していない。これは表現規制ですよ!」(高沼氏)

 対する堺市の担当者は歯切れが悪い。

「あくまで、各コンビニチェーンに呼びかけたところ、ファミリーマートさんに賛同してもらったというわけで……条例においてやっているわけではありませんし、市から規制をするものではないですから……」

 公開質問状では、さらに図書を選択する自由を奪うという問題に加え、協定に記された「公的空間における性的表現を抑制するため」「表現の自由」に抵触するのではないかとまで問うている。

 両協会では、3月末までに文書での回答を求める方針だ。

 なお、ファミリーマート以外のコンビニチェーンが同様の施策を行うかについては「ちょっと今のところは動きがない」(堺市の担当者)ということであった。
(文=ルポライター/昼間 たかし http://t-hiruma.jp/)

日本雑誌協会「【公開質問状】堺市「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」について」
http://www.j-magazine.or.jp/doc/20160318.pdf