「勉強」とか「練習」とかは死語になるのかも。
映画「マトリックス」では、キアヌ・リーブスが一瞬でカンフーの技術を身に着けてしまいます。そんなのあくまでSFであって、万一可能になったとしても100年とか先のことかと思いきや、脳への刺激で短期間にスキルを習得させる実験が、もう成功してしまいました。
実験を行ったのは米国のHRL Laboratories。彼らは熟練レベルのパイロットから初心者へと飛行機の操縦スキルを脳波を介してコピーすることに成功しました。商用機・軍用機の熟練パイロット合わせて6人の脳波を分析し、そのパターンをフライトシミュレータの初心者たちに頭蓋直流電気刺激(tDCS)で送り込んだんです。
実験では、ヘルメットを装着して脳に刺激を与えた人たちと、ヘルメットを着けただけで刺激は与えられなかった人たちが比較されました。それぞれ4日間かけてフライトシミュレータの練習をしたところ、脳に刺激を受けた人たちは、そうでない人たちに比べて操作の安定性が33%向上していたのです。
上の動画の中で、この研究を率いるMatthew Phillipsさんはこう言っています。
---------------------------------------
脳の特定の機能、たとえば会話や記憶は、脳の特定の小指大の部分に存在することがわかっています。(略)我々のシステムは、脳の特定部分を狙ってそこに変化を起こさせようとしているのです。
---------------------------------------
Phillipsさんいわく、電気刺激によって脳をどうにかするという発想は実はとても古くからあり、たとえば4000年前の古代エジプト人も、電気を発する魚を痛み止めに使っていました。でもより深い科学的な研究が始まったのは2000年代初期で、Phillipsさんたちは脳刺激をなるべく効果的に、個人個人に合わせる方法を追求しているとのこと。この実験に関する論文は、2月の「Frontiers in Human Neuroscience」に掲載されています。
Phillipsさんによれば、この手法は車の運転や試験勉強、語学学習などでも使えるそうです。あらゆるスキルがそんなに簡単に手に入るようになるとしたら、将来はみんなが万能のスーパーマンみたいになるんでしょうか? それとも、人間が身に着けなきゃいけなかったスキルを、ロボットが代行する未来が先に来るんでしょうか? いずれにしても、「勉強」とか「練習」とかが過去のものになりそうな、またはそれらの意味が変わっていきそうな、とんでもない時代ですね。
ギズモード・ジャパンは、3月21日より5日間、メディアアーティストで筑波大学助教の落合陽一さんをゲスト編集長に迎え、テクノロジーの未来を考えるコンテンツ・ジャック企画を実施します。記事に対するコメント、感想は#gizjack_ochyaiへお寄せください。
source: Frontiers in Human Neuroscience via source: The Telegraph
(miho)