1979年のカンヌ国際映画祭で、パルム・ドールを受賞した『ブリキの太鼓』という映画をご存じだろうか。その主人公は、口から奇妙な声を発してガラスを割るという特技の持ち主だ。このようなことは実際に可能なのか。また現実の世界でも、超音波で体内の胆石を破壊する医療技術や、飛行機が低空飛行した際に衝撃波で近隣の建物の窓ガラスが割れた話しがニュースになっている。音が物を破壊するという動画もネット上にあるが、普段何気なく暮らしていると身近な話には感じない。そんな物理現象について、音や音楽に関するウェブサイト「音楽研究所」所長の勝田哲司さんに、その実現性について聞いてみた。
■人の声でワイングラスが割れる
人が発する声で、ワイングラスを割る動画があるという。手品ではなく、物理的にこれは実現可能なのだろうか。
「ネットで検索すると、人の声でワイングラスを割っている動画を見つけることができます。音は空気の振動ですが、その威力は微弱なので物を壊すほどではありません。しかし、グラスが共鳴する周波数の音を出して振動を加えつづけると、やがてグラスは割れてしまいます。ここでいう周波数とは音の高さのことで、グラスを叩いたときに出る音の高さで知ることが可能です。人間の能力でいうと、大きな声で同じ高さの音を持続して出しつづけるようなものです。したがって、ある程度のヴォイストレーニングを受けた人であれば実現できる可能性はあります」(勝田さん)
グラスの共鳴と同じ高さの音を出すには、チューニングする能力、すなわち絶対音感も必要とされる。しかしトレーニングさえすれば、手品ではなくとも声でワイングラスを割れるかもしれないのだ。
■爆音で人は吹っ飛ぶ?
つぎに、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、巨大スピーカーの音により、主人公が吹っ飛ぶという有名なシーンが再現可能なのか聞いた。
「共鳴ではなく音による空気の振動だけで物を壊すことは、空気の振動による破壊力が、対象物の強度を上回ればできます。しかし、そのような爆音は市販のスピーカーなどでは出せません。よほど繊細で弱いものであれば音の力で壊せるかもしれません。たとえば、人の鼓膜は0.1mm程度の厚さしかありません。160~180dB(デシベル)ぐらいの大きな音を聞くと破れてしまうこともあります」(勝田さん)
実際に大きなスピーカーでかなりの爆音を出しても、部屋中を破壊するのは無理だった。それより先に、鼓膜が破れて大事に至るのが先だ。
■映画のように超音波でビルを破壊することはできる?
最後は更に飛躍して、SFや怪獣映画などでみかける、超音波でビルなどを破壊するようなシーンの実現性について聞いてみた。
「実際にはありえません。超音波は、簡単にいうと人間の耳には聞こえないだけで、音には変わりありません。超音波が治療に使われるケースもありますが、これも『壊す』というよりは、『刺激を与える』と理解するのが近いでしょう」(勝田さん)
しかし、破壊こそできないが、超音波を利用した「猫よけ」などは存在する。やはり、音は破壊よりも暮らしをよくするために使用するほうがよいのかもしれない。
「教えて!goo」では「聞くのは絶対無理!嫌いな音ってどんな音」ということでみんなの意見を募集中だ。
●専門家プロフィール:勝田 哲司(かつた てつじ)音楽研究所
ウェブサイト「音楽研究所」所長。珍しい楽器、変わった作曲法など、音楽に関連するさまざまなものを探求している。サイトでは、音楽情報を網羅するだけでなくパソコン用のソフトや音楽素材なども掲載中。
教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)