W成就「東大・京大合格」「甲子園出場」の県立進学校を見たか | ニコニコニュース

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東大・京大に合格者を多数出すだけでなく、野球部が甲子園に出場する「県立高校」がある。彼らはなぜ二兎を追い、二兎を得るのか。

■進学校の野球部は、本当に「弱くても勝て」るのか?

東大に合格することと甲子園に出ることと、どちらが難しいか――。これは一概に答えられない。だが、その両方を叶えてしまう高校もある。その学校を紹介する前に、超進学校の野球部の戦いぶりをチェックしてみたい。『弱くても勝てます』という開成高校野球部を描いたノンフィクションがあるが、本当に勝っているのか。

年度末の週刊誌の目玉特集は「難関大合格者ランキング」だ。東大、京大などにどの高校が何人の合格者を出したか。「今年も開成か」、「新顔の私立はあるのか」、「母校は健闘したか」などと、ついページを開いてしまう人も多いのではないか。

先日、発表された2016年度東大、京大の合格者。学校別合格者数上位に入っている高校野球部の過去6年間の「夏の地方予選」を振りかえると……(最も戦績の良かった年の結果)。

難関大の合格者を多数出している学校の多くは中高一貫の私立で、野球部の活動も一生懸命だが、公式戦ではかなり苦戦している。ほとんど初戦負けで、コールド負けも多い。

だが、千葉・渋谷幕張が2014年にベスト8に勝ち進み、京都市立堀川が2012年にベスト16に勝ち進んだのは注目に値するだろう。また、合格者数が常に上位の東京の開成や筑波大駒場、大阪府立北野が、競合ひきめく地方大会でベスト32に残ったのも「旋風」と言える(開成は2005年にベスト16になったこともある)。

甲子園への道は遠く険しい。とはいえ、東大・京大に合格するのと比べて、ハードルが高いのはどちらだろうか。

■東大・京大の合格より、甲子園出場のほうが確率高い

東大・京大の毎年の入学者数は各平均3000人。全国の1学年をざっと100万人とすると、確率は0.6%。一方、甲子園にベンチ入りできる選手数は春のセンバツ大会なら32チーム×18人で576人ということになる。夏の甲子園を含めれば、総計1200~1300人といったところだろうか。高校3年生の野球部員数はおよそ5.3万人。1~3年の合計でも約17万人。なので、高3に限れば甲子園の土を踏める確率は2.4%(部全員で考えれば、0.7%)ということになる。

勉強は個人、野球はチーム。サンプル数の規模も違うから単純には比較できないが、東大・京大を目指すより、甲子園を目指すほうが確率的には高いことになる。だが、勉強と野球の両方の最高峰を制するとなると、これは言うまでもなく至難の業だ。

実際問題、開成や兵庫の灘が甲子園に出てくることはほぼ不可能だ。合格者2桁を出し、上位にランキングされるような高校が出てくるほど、高校野球も甘くない。だから進学校が出てきたら応援してしまうのが、日本人特有の性質、判官びいきのひとつなのだろう。

特に、地方の県立進学校は歴史があり古くから地域に根差していて高校野球の性格上、人気があって期待を背負う。それらは、いわゆるナンバースクールが多い。

さて、現在開催中の春の高校野球「センバツ」。この大会では夏の高いに比べ、「21世紀枠」で県立校が選ばれる傾向がある。前年秋の県大会、地方大会で上位に進出した高校は地域の注目度が高いために選ばれやすいと言える。

ここで、過去数年間、選抜大会に出場した進学校の難関大学の合格者数を調べてみた。

■センバツ出場を果たした進学校リスト(難関大合格者付き)

【2009年出場】
▼県立大分上野丘
東大(9、11、6)
京大(2、1、2名)
阪大(21、10、23名)

【2012年出場】
▼県立高崎高校(群馬)
東大(9、10、5名)
京大(2、8、4名)
東北大(27、30、25名)

【2013年出場】
▼土佐高校(高知)
東大(7、5、9名)
京大(3、7、11名)
阪大(8、7、4名)

【2015年出場】
▼県立松山東(愛媛)
東大(1、4、6名)
京大(5、6、6名)
阪大(15、14、14名)

▼県立桐蔭高校(和歌山)
東大(0、1、1名)、
京大(5、7、4名)
阪大(14、16、10名)

▼県立静岡高校
東大(10、8、12名)
京大(9、6、7名)
阪大(6、8、7名)

注:カッコ内は、左から2015年、14年、13年合格者数。土佐高校は私立。

この中で勝利を挙げたのは松山東と静岡の2校。静岡は2勝してベスト8に進出している。ただ、静岡は推薦入学制度があり、野球部員が一定数含まれると思われる。

■今センバツ出場「エースで4番」は国公立大学志望

では、現在開催中のセンバツ大会に進学校は出ていないのか。調べたら、しっかり出ていた。

【2016年出場】
▼土佐高校(2013年にも出場)
▼県立長田高校(兵庫・21世紀枠)
東大(2、4、3名)
京大(15、23、26名)
阪大(38、29、33名)

※土佐も長田も、今センバツ大会ではすでに初戦敗退

長田高校は県内屈指の公立進学校で、地元・神戸大学の合格者数が全国1位になることも多い文武両道の学校。夏の甲子園の予選で、ベスト8に入ることも珍しくない。

大会前、長田高校の監督は「時間、空間、予算に制約がある以上、練習で工夫するしかない」(注:定時制もあるのでグラウンドをフルに使えない)とコメントしている。

また、今年の野球部卒業生にも現役の東大合格者がいるという土佐高校の部長も「進学校であるため、練習時間が限られています。短時間の中で効率的に練習を行い、質を高めるしかない」と。ほぼ同じ内容のことを述べている。

やはり基本は、地道な練習を積み重ねるしかないのだろう。ただ、進学校の生徒は理解力が鋭く、学習時にも発揮する集中力の高さという特別な武器も持っているのが強みだ。

ちなみに、長田のエースで4番の園田涼輔選手(3年)はプロも注目する右腕でマスコミの注目度も高いが、浮ついた様子はない。先日、甲子園で負けた後、記者に対して国公立大学の理工系学部への進学が希望で、すぐに塾通いを再開し、野球と勉強との両立を目指すと宣言している。

■坊っちゃん「松山東」が二松学舎大付に勝った理由

以上のような「野球部も強い」超進学校の象徴として、昨年のセンバツに出場した愛媛県立松山東高校を掘り下げてみたい。同校は、正岡子規などが卒業した県内有数の進学校(夏目漱石が赴任し、教鞭を取った)。昨年は82年ぶり2回目の出場。1回戦は優勝候補の東京・二松学舎大付を破る番狂わせを演じたのだ(5-4)。

松山東の練習時間は平日2時間半程度で午後7時には完全下校が規則だ。グラウンドも他の部と併用で、内野の範囲しか使えない日もある。バッティング練習はマウンド方向からバックネットに向かって打つのだ。そして、短い練習時間を補うのは、選手が自主的におこなう朝練だ。

さらに、体力・技術をカバーしたのは、頭脳だ。

彼らは対戦校や強豪校のビデオを入手し、投手の癖、戦術を研究した。データ班による分析が相手と対戦する際に、自信の裏付けになるよう、ミーティングなどでデータを伝授してきたという。練習ではバッティングマシーンは投手の球速に設定して、視覚を慣れさせた。

二松学舎大付戦の前夜も情報を共有するミーティングを行った。「左のエースはけん制を2球続けない」というデータが生きたのが決勝点を奪った7回。1死1塁から盗塁を成功させて次打者のタイムリーにつながったのだ。

勝利するための研究と分析。それを控え選手に責任として任せることで、チームの一体感を生んでいった。

「このチームはどういうチームですか?」

あるチーム関係者(トレーナー担当)が初対面の選手たちにこう問いかけたことがあった。すると、ある選手が即答したそうだ。

「上の代よりも打力が劣るので、最少得点を守り抜くチームです」

自己分析が日ごろからでき、目的意識が明確であるから即答できたのだ。「彼らは聞く能力があるので、ヒントを与えれば短期間で成果が上がった」と、その関係者は述べている。

さらに、この関係者は甲子園のゲーム直前の室内練習場、最終調整の場に仕掛けをした。マネジャーに紙芝居を託していた。

「甲子園おめでとう。大好きな野球を自分のため、監督と、そして……」

紙芝居の最後の絵は、控え選手の写真だった。

主将は「こいつらのために絶対に勝とう」と叫んだ。そして、優勝候補を破った。

選抜大会に続く、昨夏の甲子園の地方予選では惜しくも敗退(準決勝敗退)したものの、部員たちは例年、現役もしくは一浪後に、主に国公立大学に進学するという。

※参考資料:『白球は時空を超えて』(ミライカナイブックス)、各新聞社サイト、週刊朝日4・1号