社会に出ると、契約行為に関わる際に印鑑を押す場面が多々ある。「契約印(けいやくいん)」、「契印(けいいん)」、「割印(わりいん)」、「捨印(すていん)」といったように、にわかには整理しがたい複雑な押印の意味があるが、よくわからず契約の相手方を信用し言われるがままに印鑑をポンポン押してしまう人が圧倒的に多いはずだ。
だが、何も知らずに印鑑を押してしまい、後になって大きな損害を被ることになっても印鑑を押した行為を無効に・・・なんて甘い世の中ではない。
さて、「捺印」と「押印」の違いをご存知だろうか?
これは正しくは「署名捺印」と「記名押印」というように使う。自著で名前を記入することが署名(サイン)であり、ゴム印や印刷によって名前が記されることが記名である。つまり、自分の手で名前の記入を伴う場合は「捺印」、印鑑を押すだけの場合を「押印」と覚えるとわかりやすい。この違いは基礎知識として知っておくと良い。
ちなみに法的な証拠能力としてもっとも有効なのは「署名捺印」であり、次に「署名」、「記名押印」という順になり、「記名」だけの場合は法的な効力は認められない。「記名」された横に「押印」がなされることによって、初めて効力が生じる(署名に代えることができる)のだ。そして先にも述べたが「記名押印」よりも「署名」だけの方が効力は強く、その根拠は印鑑は盗難の可能性があるが署名は本人による行為が証明されるからとなっている。
それでは、冒頭で触れた「◯◯印」をひとつひとつ明らかにしていこう。
① 「契約印」とは何か
契約印とは、本人が契約に同意することを明確に意思表示するために署名欄に押印するものである。「印鑑証明書」の添付が必要な書類の場合には必ず「実印」または「代表者印」を使用しなければならない。
② 「契印」とは何か
契印は、契約書が2枚以上にわたる場合にその文書が一連一体の契約書であることを証明し、差し替えや抜き取りを防ぐために各ページの綴じ目や継ぎ目に押印するものである。
パターン1:ホッチキス止めの契約書の場合は全ページに押印する
パターン2:製本テープで製本された契約書の場合は背表紙に押印する
2ページにまたがって押印するためつい「割印」と混同しがちであるため言い方に注意が必要だ。ルールとしては契約当事者双方の印鑑を押印する。ただし、当事者が大人数の場合は共通の利害関係にある方の中から代表者を選出し、押印する形でも良いことになっている。
③ 「割印」とは何か
「本契約書2通を作成し、甲乙各1通を保有する」というような同じ内容の契約書を複数作成した場合に、その文書が関連のあるものまたは同一の内容のものであることを証明するための押印が、割印である。また、本来2通作成した契約書の場合、3通目の契約書が存在しないことの確認や複製防止の役割も果たしている。
割印の方法は、少しずらした形でそれぞれを重ね合わせて、合わせ目に押印する。複数ページにわたる契約書の場合は、1枚目だけに割印を押せばよい。割印は必ずしも契約印と同じ印鑑である必要はない。
④ 「訂正印」とは何か
契約書等の文書において記載事項に訂正箇所があった場合に、そのページの上部に当事者双方の印鑑を押印し「5字削除 6字追加」というような表記を行う方法と、直接その文章に2本線を引いて最も近い余白部分に正しい記述を行い、その上に当事者双方の印鑑を押印する方法とがあり、後者が一般的である。契約書に押印した印鑑を使用することで、契約の当事者が押したことの証明にもなる。
⑤ 「捨印」とは何か
最後に、もっとも気をつけなければいけない「捨印」だ。捨印とは、あらかじめ訂正箇所が発生することを前提として、契約書や委任状といった文書の余白部分に押印しておくものであり、訂正印を先に押しておくという意味合いがある。
欄外に押印されたその隣(縦書きの場合は下側、横書きの場合は右側)に「第◯◯条第◯◯号 1行抹消」「第△△条 5字抹消4字挿入」というように、訂正した部分を記載する。
既存文章の訂正や、文章の追加の際にも使用できる。訂正箇所が発覚した場合に修正の際便利である反面、捨印を押す時点ではどの箇所を変更されるかはわからないため、後から当事者の一方にとって都合の良い内容に書き換えられてしまう危険がある。
今回取り上げた5つの印鑑の意味さえ押さえておけば、印鑑の知識においては社会人として及第点をもらえるレベルだと胸を張れるだろう。
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失敗してからでは取り返しがつかないことも・・・